大人になること

大人になるとは、何かを捨てることだ

二十歳になる前のころ、この言葉を聴いて、ハッとした記憶がある。たしかに、小さいころは「あれが欲しい、これが欲しい」「XXになりたい」「XXに行きたい」等々、夢は無限に広がっていた。しかし、大人になると、自分の生きている時間が有限であることに気付く。そして、本当にやりたいことをやるには、本当にやりたいことを"選ぶ"必要があることに気付くのだ。逆に言うと、本当にやりたいこと以外は捨てることが必要なときもある。

「トリアージ」という医療用語がある。人材・資源の制約が著しい大規模災害での医療現場で使われるものである。赤(生命にかかわる重篤の状態)、黄(重篤ではないが早期に処置が必要)、緑(救急での搬送が必要でない)、黒(死亡もしくは救命不可能)という区分に基づいて医療を行うやり方のことである。黒……は、医療関係者でないと少しショッキングだと思う。

自分の人生においては、ここまで厳しい優先順位をつけて行動することはないと筆者個人は思っているが、そう思って生きること自体もひとつの選択である。

また、人材・資源に制約がある企業活動においては、「優先順位をつけること」「選択すること」「何かを捨てること」が頻繁に登場する。ビジネスパーソンにとって、「優先順位をつけること」「選択すること」「何かを捨てること」の技術を持つことは非常に重要であると言えよう。

さらにビジネスパーソンには大きな課題がある。仕事での意思決定は、自分だけでなく複数の人で決める場合があることだ。あっちが立てば、こっちが立たず……と、みなさんもイライラした経験が度々あるのではないだろうか? まさに、「会議は踊る、されど進まず」である。

また、進んだとしても、「大きな声の人の意見で決まってしまった」「上で決まってしまったが、なぜそうなったのかまったく理解できない」こういった経験もあるのではないだろうか?

複数の人で意思決定をするには、ますます「技術」が必要となる。しかし、その技術を持ち合わせていないビジネスパーソンは、案外多い気がしている。後半は、その技術の一部を紹介する。

複数の人で意思決定する技術

SWOT分析を報告書に入れるのは、二流コンサルのやること

筆者が駆け出しのコンサル時代に上司から教えられた言葉である。

SWOT分析とは、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) というそれぞれの切り口で事業などを分析する戦略計画ツールのひとつである。

「なぜですか?」と上司に問うと、「ソフィスティケート(sophisticate: 洗練すること)されてないよね」とエキセントリックな回答をもらった。そのときあは、わかったような、わからなかったようなではあったが、経験を積んできてその意味がだんだんとわかってきた。

複数の人で(難易度の高い)意思決定をするには、

発散フェーズを経てから、収束フェーズに移る

ことがひとつのポイントである。いきなり決めようとしても、納得性の高い&質の高い意思決定はできない。そこで、まずはブレスト(発散)をして、決めるにあたって考慮しないといけないことは何かをみんなで洗い出すのだ。そこで、意思決定に重要な判断軸が一通り見えてきた後で、収束へと移ると意思決定がし易くなっている。会議で意思決定を行う場合、そのアジェンダには、この発散と収束という概念を組み込んでおくと良い。

また、もうひとつポイントをあげると、

判断軸を見える化する

ということがある。仮に発散フェーズを経なかったとしても、意見を言う際に、「私はA案がいいと思う。なぜなら……」とキチンとその判断軸を明確にする習慣があると、議論がかみ合い、効果的な意見交換が出来る。また、判断軸が見える化されると、どの軸に重きを置くべきかという議論も展開され、より精度の高い意思決定ができる。効果、コスト、実現性……どの軸を重視するのか、効果の中でも何に重きを置くのか、そういった本質的な議論ができるようになるのだ。

ちなみに、最近、彼女との二人暮らしを始めるためにマンションを買おうとしている後輩がいるが、その部屋を1LDKとするか、2LDKにするか迷っていた。部屋の大きさは同じなのだが、同じ値段で間取りを選べるそうだ。「狭い寝室となること」「何でもぶち込める部屋があって整理・整頓が楽なこと」「売る際の売りやすさ」・・・これらの軸を洗い出しながら彼女と話をすると、二人とも「整理・整頓」の軸を重視していることがわかり、すんなり2LDKに決めたそうである。まあ、プライベートの場合は、あまり「技術」を前面に出さないほうがいいとは思うが、仕事であれば、ぜひ、この「判断軸」を前面に出して欲しい。

まとめる。意思決定の技術に重要なことを2つ挙げると、以下となる。

  • 発散と収束を意識する
  • 判断軸を見える化する

SWOT分析の話に戻ろう。SWOT分析は、実は、この「発散」時に適したフレームなのである。4つの切り口があるので、広い視点でのアイディアが出しやすくなるのだ。一方で、その発散した結果は、4つも切り口があるがゆえにバラバラとしていて、決めたストーリーラインがわかりにくいものとなってしまう。そのため、経営陣に手短に報告するような際には、SWOT分析は「ソフィスティケートされてない」ということになるのだ。もちろん、経営陣も一緒に発散する場合や思考回路を一から追っていく必要があればSWOT分析を使うことに問題はない。

また、「メリット/デメリット」「Pros/Cons」という表形式で書かれた資料もよく目にするが、これもSWOT分析と同じことが言える。「メリット/デメリット」が書かれた資料は、判断軸を洗い出すには適しているので、発散時には適しているが、収束時にはあまり適した資料ではない。よって、発散のとき、もしくは、前半発散して後半はホワイトボードを使って収束させるときなら良いが、「メリット/デメリット」資料だけで収束しようとするのはやや難がある。ときどき、「メリット/デメリット出しても決めてくれないんだよ~」ということを言う人を見るが、適切に使用しているのかを反省してみる必要があるだろう。昔の上司の言葉を借りれば、こうだ。

メリット/デメリットの表を報告書に入れるのは二流コンサルのやること

ぜひ、発散と収束、判断軸という概念を考慮して、会議(仕事)を進めてほしい。