Logical vs. Omotenashi

会議スキルの研修を実施すると、受講者から以下のような声を聴くことがある。

  • 会議をうまく仕切るのって、難しいんですね
  • 会議を仕切るには、同時に色々なことを考えないといけないんですね
  • ある程度ロジカルシンキングができないと、会議で結論を導くのも難しいですね
  • 会議スキルって、インタビュースキル、プレゼンテーションスキル、ロジカルシンキングなどの総合スキルなんですね

その通りである。実際、会議スキルは、コンサルティングファームの研修体系の中でも、やや難しいところに位置づけられている。

前回、前々回で、「ゴール・メソッド」というものを紹介した。ゴールを共有することは、会議をうまく回すのにもっとも重要なことだが、それだけでは会議をうまく回すことはできない。会議にはいろいろな「事故」が発生する。その事故をうまく回避/対処するには「ゴール」以外にも以下の要素を考慮する必要がある。

1. ロジカルな要素

いい結論を導くには、会議の参加者が議論の中身を深く理解する必要がある。これには論理的な要素が必要で、「なぜ」その結論になるのかという論理構造がクリアになっていることが欠かせない。

2. オモテナシの要素

一方で、会議の参加者の一体感という感情的な要素も見逃せない。これにはオモテナシの心が必要であり、場の空気を良くしたり、参加者ひとりひとりの心の機微を気遣ったりすることも欠かせない。

次の項では、会議でありがちなケースを紹介する。そのケースを参考にしながら、この「1. ロジカルな要素」「2. オモテナシの要素」を実感してみてほしい。

ケースとしては、3人のジャミラに登場してもらう。

  1. しゃべりすぎる人がいたら……
  2. しゃべらない人がいたら……
  3. 参加者全員が集団心理にとりつかれたら……

の3パターンである。

なお、ウルトラマンに出てくるジャミラ、ご存知だろうか? 宇宙飛行士がとある惑星に不時着し、助けを待つうちに体が変異したという怪獣である。会議の主催者や会議の仕切り役の働きが悪ければ、会議の参加者は誰もが自分の意図に反してジャミラに変異する可能性がある。自分が参加者としてジャミラにならないことを注意するのはもちろん、自分が主催者や仕切り役になった場合はそんなことが起こらないように一層注意をする必要がある。

その1 しゃべりすぎる人がいたら……

良い会議では、一人が発言し、すぐさま次の人が発言し、さらにその発言に対して他の人が発言しと、サッカーで言うとワンタッチパスが続いて最後にはゴールが決まるといったような光景になる。

一方で、一人でボールを持ちすぎて場を壊す人もいる。マラドーナのようにゴールに向かってひたすらドライブしてくれるのであればまだしも、ひたすらドリブルしたあげくバックパスする人、ゴールとは関係ない方向にドリブルしていく人、ボールを持ったまま空に飛んでいってしまう人……困ったものである。

対応策

上手いことボールを取り上げ、別の人にパスしよう。

ただし、細心の気配りで、さりげなく対応する必要がある。

というのも、よくしゃべる人というのは、無駄もあるかもしれないが、いい意見を言うことも多い。また、会議参加者の中で比較的上位者であることも多く、ボールの取り上げが難しいことが多い。だが、だからといって、嵐が過ぎるのを待っているだけではダメで、勇気を持ってパスを回していきたい。

たとえば会議中、「これは無駄一直線のほうだなぁ」と感じたら、そこで諦めないで、会議の参加者の顔をひと通り見てみよう。自分と同じ表情をしている人(たとえば、Aさん。できれば少しエラい)がいるはずだ。そんなときは、しゃべりすぎている人が息継ぎをするところを見計らって、「今の××という意見、面白いですけど、Aさんはどう思います?」とボールを回していこう。会議の展開が少し変わってくるはずだ。

その2 しゃべらない人がいたら……

これは実はいろいろなケースがある。

  • A. 性格がシャイ、もしくは「ピント外れなこと言いたくないな」と萎縮しているケース
  • B. ここで発言すると、自分や自部署が不利になるので黙ってるケース
  • C. そもそも会議の意味合い自体が不服のケース
  • D. そもそも会議に呼ぶ必要がなかったケース

対応策

A~Dそれぞれのケースで対応は変わってくるが、一番の基本は、

会議を楽しい雰囲気にしようとすることである -「笑顔」「うなずき」「いいね!の一言」を忘れないようにしよう。**

先日、NHKの『プロフェッショナル』という番組でこんな実験結果が紹介されていた。人間、口元を上げているとそれだけで脳が活性化するとのこと。笑顔になることは、自分の脳にも、相手の脳にもいい影響を及ぼすこととなのだと思う。

なお、性格がシャイ以外のB/C/Dのケースでは、楽しい雰囲気作りだけでは対応できないかもしれない。ただ、これらは会議の前に想像のつく話でもあるので、自分が会議の主催者なのであれば、会議の場だけですべて解決しようとするのではなく、事前に個人宛のお願いメールなどを仕込んでおこう。

その3 集団心理にはまったら……

アメリカ合衆国で行われた図形の配置など単純明白な事実の記憶に対する質問を行う心理学実験において、被験者はわざと嘘の答えを言うサクラの多数派に同調してしまう傾向が見られたそうである。会議においても、議論を深める前に、多数派の意見で結論が決まってしまうということがある。多数派が腹の底から支持している意見であればまだいいのだが、「なんとなく」流れてしまう場合、これは思い切って流れを変える必要がある。

「しゃべりすぎる人」「しゃべらない人」の例で言うと、"Omotenashi"のスキルが多く登場したが、ここでは"Logical"なスキルも必要となる。

対応策

真剣に、代替案を考える環境を作る必要がある。特に、表面的な施策の是非だけでなく、その施策を採用する理由を深堀し、議論する必要がある。

すなわち、

  • 議論の全体感を共有する
  • 判断軸を共有する

ことが重要となる。

「仮に××だったらどうしますか?」「なぜ、そう思うのですか?」「その理由は、大きくは、A、B、Cの3つになりますか?」……こういった質問をどんどん行っていき、「事実の炙り出し」「構造化」をしていくのだ。そういった整理をしていくと、不思議と新たな代替案が出てくるものである。

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前回、今回とで、「会議体設計のコツ」「会議運営のコツ」を紹介してきた。この2回を通して、以下のことが伝わったのなら幸いである。

  • 会議では、参加者ひとりひとりが頭をフル回転させるべきである
  • 「会議の主催者」と「会議を仕切る人(ファシリテーター)」は、そのお膳立てに最善を尽くすべきである

これができれば、会議、さらには仕事自体がもっと楽しいものになっていくと思う。

次回以降は、「会議」というキーワードを別の視点から深掘りしてみることとする。

執筆者紹介

斉藤岳 SAITO Gaku

アビームコンサルティング プリンシパル。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。コンサルティングファーム勤務を経て2001年にアビーム入社。新規事業立上げ、事業再編、経営管理、業務改革等のコンサルティング経験多数。また、「会議で結論を出す技術」「インタビュースキル」「ソリューション営業スキル」等の研修を行っている。主な著書に1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術など。