有料アプリ普及はキャリア頼み? アプリダウンロード数にみる有料アプリ市場

2011年に所有率が増してきたスマートフォンですが、アプリマーケット市場にも大きな動きが見られました。auが10月13日に「au one Market」にEZwebのコンテンツを提供、docomoが11月18日に「dメニュー」でiMenuのコンテンツ提供を開始するなど、キャリアもスマートフォンアプリ市場の囲い込みに力を入れ始めました。

また、2012年に入り、auはAndroid端末でアプリやクーポンが月額390円で利用できる「auスマートパス」を3月1日よりスタートすると発表しました。500本以上のアプリやクーポン、ポイントサービス、10GBのオンラインストレージなどが利用できるサービスで、スマートフォン初心者でもアプリを手軽に探し、ダウンロードしやすい環境を提供するというものです。

アプリに関しては、比較的価格の高い有料アプリ(たとえば辞書アプリや文字入力アプリなど)も月額390円で使用できるなど、コンテンツ・ユーザーを囲っているキャリアならではのサービス展開が注目を浴びています。

OS主導からキャリア主導へと変化の兆しが見えるスマートフォンアプリ市場について、今回当研究所とウェクシィマーケティングが合同で2012年1月11日~2012年1月17日に「スマートフォンアプリに関する利用実態調査」を行いました。その結果と今後のユーザー動向について考察していきたいと思います。

この調査はモバイル・インターネットWEB上で行い、スマートフォン所有者の743人の有効回答もとにした分析となっています。

アプリのダウンロード数は、無料・有料でOS別に大きな差

今回は、無料・有料アプリのダウロード数について調査を行い、取得したデータが次のグラフです。

無料アプリのダウンロード数で50個以上アプリをダウンロードしているユーザーは、全体の30.3%と非常に大きく、特にiPhoneのユーザーは全体の45.9%と約半数のiPhoneユーザーが無料アプリを多数ダウンロードしています。

これは、アプリをリリースしているマーケットがAppStoreのみであり、なおかつAppleの審査基準をクリアしたアプリだけがリリースされているという点で、ユーザーが安心してアプリをダウンロードしているからと筆者は考えています(Androidもアプリ審査を行っていますが、TVゲームのエミュレーターや著作権を侵害しているアプリなどがマーケットに出ている現状を見ると審査基準は厳しくはないと思います)。

一方の有料アプリのダウンロードについては、ダウンロードしたのが5個以下のユーザーがAndroidユーザーでは81.2%と多く、iPhoneユーザーの45.9%と大きく差が開いています。各OSとも独自のマーケットでアプリを販売・提供しているのに、なぜこのような差が出てくるのでしょうか。

私が考える差は「決済方法」と「アプリの単価」です。iPhoneはクレジットカード以外にコンビニで購入できるiTunesカードなど決済方法が複数あるのに比べ、Androidマーケットは基本クレジットカード決済のみと、ユーザーに選択肢がありません。

また、アプリの価格ですが、AppStoreでの販売価格は例えば85円など均一の価格帯ですが、Androidマーケットはドルやユーロでの単価設定になっている場合もあり、日本円にした場合に99円、102円などバラつきが見られます。フィーチャーフォンでキャリアが提供してきたような、コンテンツが一定の単価で提供されるのに慣れたユーザーは戸惑いを感じ、有料アプリに手が出せないのではないかと筆者は考えます。

このOS提供マーケットの利便性の差が、有料アプリのダウンロード数に影響を及ぼしているのではないでしょうか。

OS別のマーケット満足度はiPhoneに軍配

実際にスマートフォンユーザーはOSやキャリアのマーケットについて、利便性を感じているのでしょうか。調査結果は次のグラフです。

マーケットの使いやすさについての調査を行ったところ、「すごく使いやすい」「使いやすい」と答えたユーザーはAndroidで46.4%、iOSで69.0%という結果になり、AppStoreの使い勝手が良いと感じるユーザーが多いようです。また、マーケットの満足度についても「非常に満足している」「満足している」と答えたユーザーはAndroidで51.3%、iOSで72.8%とこちらもiOSに軍配が上がっています。

このOS間の差は先に述べた通り、OSマーケットの利便性の差に加え、マーケット自体のユーザビリティの違いではないかと思います。筆者もAndroidユーザーですが、マーケットでアプリを探す際に、カテゴリ分類が大雑把過ぎることや、国内・海外のアプリが一緒になっているため、事前にアプリ名をきちんと調べておかないと目的のアプリが探せないと思うことが多々あります。

筆者の友人もAndroidのアプリを探す際はOSマーケットを使わず、PCでレビューサイトからアプリを見つけ、QRコードを読み込んでインストールしているとのことでした。Androidマーケットのユーザビリティは高いとは言えないでしょう。

今後のアプリ市場はキャリアが握る!? auに見るアプリマーケット新戦略

OS間で満足度に差が開いているマーケットですが、昨年秋から今年にかけて、冒頭に述べたようにキャリア側でアプリの提供方法についての動きが活発化してきました。

特に「auスマートパス」については、今までにないアプリの提供方法であり、アプリデベロッパーのマネタイズに貢献できる可能性があります。「auスマートパス」は解約してしまうと、インストールしていたアプリはすべて使えなくなってしまいますが、仮にユーザーが使用している有料アプリを気にいった場合、キャリアのサービスを使わなくなってもアプリを購入する可能性が高くなり、有料アプリ購入へのハードルが下がると考えています。

現在は従量課金のアプリがメインではありますが、今回のサービスでキャリアサービス用のアプリなど新しい形のアプリが登場するかもしれません。また、現状ではdocomoは同様のサービスは展開していませんが、今回のauのサービスが成功することによって同様のサービス展開を行う可能性は高いのではないでしょうか。

今回のサービスのポイントは、各キャリアが10年以上ネットのコンテンツサービスを提供している信用性、フィーチャーフォン時代からユーザーを囲っている優位性だと思います。コンテンツのビジネスモデルがキャリア主導からOS主導になっているスマートフォンアプリ市場ですが、各キャリアが持っているアドバンテージをフルに活用し、フィーチャーフォンのようにキャリア主導のサービス展開になることで、国内のアプリ市場がさらに拡大するのではないでしょうか。現在はAndroid端末のみへの対応とのことですが、iPhoneにも「auスマートパス」のようなサービスが展開された時に国内アプリ市場にとって大きなニュースになると思います。

当研究所では、引き続き、スマートフォンやアプリの動向については定期的に調査を行っていきます。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。また、調査結果やコラムについて、「参考になった!」「面白かった!」と感じましたら、お気軽に「いいね!」やリツイートをしてもらえると幸いです。

今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで一部公開しています。

<本稿執筆担当 : 早野 竜馬>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。