ここまで「歩兵の情報化」という話を中心に話を進めてきたが、「情報化」はあくまで、状況把握のための手段である。それによって敵兵がどこにいるかを把握しても、その敵兵を無力化ないしは排除(婉曲表現)しなければ話は終わらない。
ライフルの高度化…?
というわけで歩兵用武器の話になるのだが、今も昔も、歩兵用武器の基本といえばライフルである。今は自動小銃だが、ライフルであることに変わりはない。個人用の武器というとナイフやスコップも出てくるが、そちらはこの後の話の流れから外れてしまうので措いておく。
ライフルといえば一般的には、上部に取り付けた照星と照門を使って狙いをつけるものだ。使う兵士の体格などに違いがあるから、最初に銃の支給を受けた時点で照星や照門の調整を行った上で試射して、狙った通りに当たることを確認する、いわゆる零点規正の作業を行うのが普通である。
ところが、照星と照門で狙いをつける方法では、ターゲットを目視確認できないと狙いをつけられない。また、ライフルの弾道は厳密にいうと一直線ではなくて、微妙に放物線を描いている。だから、銃身の延長線上にターゲットを捉えて撃てば当たるとは限らないし、風の影響も受ける。
そういった事情によるのか、「歩兵の情報化」と併せて「ライフルのハイテク化」を模索する動きが出てきた。つまり、暗視照準器をつけよう、照準器で目標を狙えばちゃんとそこに当たるようにしよう、という話である。後者を具現化する手段としては、レーザー測遠機で目標までの距離を測る等の手段でデータを集めて、弾道コンピュータで弾道を計算する方法が考えられる。
ところがひとつ問題がある。先にも書いたようにライフルは歩兵の基本装備だから、なにしろ数が多い。したがって、ハイテク化のせいで値段が上がってしまってはありがたくない。数が多いだけに、値段が上がれば予算を圧迫する。
さらに、ハイテク化すれば電源は要るし、構造は複雑精緻になる。手荒く扱ったら壊れてしまうようでは、武人の蛮用に耐えられない。放り投げても泥水に浸かってもちゃんと作動するぐらいでないと頼りにならない。それに、大きく・重くなりすぎても困る。
といった事情によるのか、たとえば戦車砲や砲兵みたいな分野と比較すると、歩兵が持つライフルのハイテク化・電子化はあまり進んでいない。ハイテク化・電子化することのメリットと、それに付随するデメリットを天秤にかけると、メリットがなかなかデメリットを上回れないということなのかも知れない。
狙撃銃に誘導弾という試み
といっても例外がないわけではない。その一例が狙撃の分野だ。
狙撃というのは、撃たれる側から見ると嫌なものであるらしい(筆者は狙撃されたことがないので分からない)。狙撃手はどこに潜んでいるか分からないし、むやみやたらに弾が飛んでくるわけではないが、飛んでくるときには狙いすました必殺の一弾が飛んできて、重要そうな人を狙い撃ちされる。
それができる狙撃手を育成するのは簡単なことではないし、それだからこそ狙撃手というのは一種のエリートであり続けている。ただ、腕っこきの狙撃手でも百発百中になるとは限らないから、もうちょっと仕事を楽にできないものか、と考える人がいたらしい。
そこでアメリカの国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が立ち上げたのが、EXACTO(Extreme Accuracy Tasked Ordnance)計画である。これは何かというと、12.7mm径のライフルで誘導弾を撃てるようにしようというものだ。
大口径の火砲ならともかく、40mmないしはそれ以下の径しか持たない、小銃・機関銃・機関砲の類では、弾は雷管をひっぱたくと飛んでいくだけで、ミサイルのように誘導機構を持たないのが普通である。その常識をひっくり返すのがEXACTO計画で、テレダイン・サイエンティフィック&イメージング、アライアント・テックシステムズ(ATK)、キュービック・ディフェンス・アプリケーションズなどが作業を担当している。
すでに2014年7月には、「12.7mm 弾を使った最初の実射を成功裏に実施した」との発表がなされており、さらに実射の模様を撮影した動画も公開された。
EXACTOで興味深いのは、照準・誘導の機構よりも、設計に際しての考え方かも知れない。
EXACTOでは、銃の側に備える射撃統制システムと、そこから発射する誘導弾の間にコマンド・リンクを構築、指令誘導を行う仕組みを採用しているようだ。
ミサイルと違って弾が小さいから、その中に目標捕捉用のシーカー・弾道計算用のコンピュータ・弾道修正用のフィンといった仕組みをすべて押し込むのは現実的ではない。そこで、狙いをつけたり弾道を計算して指令を出したりする機能は弾の外に出してしまい、弾は指令を受けてコースを修正する機能だけを備えるようにしたのだろう。
ちなみに、EXACTO計画に関わっているキュービック・ディフェンス・アプリケーションズ社は別口で、DARPAから横風/射程計測システム・One Shot XGの開発契約を受注している。これは狙撃手が照準点の補正に使用するもので、ライフルやスポッター・スコープに取り付けて使用するとのことだ。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。