今回から話題をガラリと変えて、「弾薬と発射装置」をお題にしてみたい。もちろん、昔ながらの銃弾や砲弾は依然として広く使われているが、第2次世界大戦の末期から加わった新顔として、誘導弾(いわゆるミサイル)もある。いずれをとっても程度の差はあれ、情報通信技術との関わりがある。

弾薬とは

武器(weapon)のうち銃砲類は、実際に飛んで行って破壊の役目を受け持つ「弾」(bullet)と、その弾を撃ち出すためのエネルギー源となる「装薬」(gunpowder)の両方を必要とする。

弾を銃身あるいは砲身(barrel)に装填して、その後ろに装薬を装填する。装薬を爆発させると、発生したガスが弾を前方に向けて押し出す。小口径の銃器では、弾の後ろに薬莢(case)と呼ばれる容器が付いていて、そこに装薬を入れて一体化してある。しかし大口径になると、弾と装薬を分離する形態が主流になる。

  • 陸上自衛隊の広報センターに展示してある120mm戦車砲弾。左の黒い部分が「弾」で、右側の銀色の部分が薬莢。弾を撃ち出すための装薬は薬莢に収まっている。サイズはだいぶ違うが、銃弾も基本的な考えは同じ

この、ワンセットで機能する「弾」と「装薬」を総称して「弾薬」(ammunition)という。しかし現在では、対象がいろいろ広がっている。

第2次世界大戦の頃から、自らロケット・モーターを内蔵して飛翔するロケット弾が出現した。これは、筒に入れておいて発射することもあれば、レールにぶら下げて発射することもある。そこに誘導制御機構を組み込むと、ミサイル(missile)、または誘導弾ができる。これらも、飛んで行って何かを破壊する道具であることに変わりはないから、やはり弾薬の一員という扱いになる。

もちろん、爆弾(bomb)も弾薬の一員であり、それは非誘導の自由落下でも、最近の主流である誘導機構付きでも変わらない。

弾薬を撃ち出すには

では、銃砲類で弾を撃つときはどうするか。装薬が分離されていれば、そこに直接点火させるが、薬莢に収まっている場合は雷管(primer またはpercussion cap)を使う。これは薬莢の底部(後端部)に組み込まれたパーツで、鋭敏な爆薬を収めてある。火縄銃みたいに火を使って点火させる必要はなく、しかるべき衝撃を与えれば起爆する。それによって装薬が起爆して弾が飛んで行く。これだけならメカニカルに実現できるし、今でも銃器はみんなそうしている。

では、ロケット弾やミサイルはどうするか。固体燃料ロケット・モーターを使用している場合、それに点火する必要がある。ジェット・エンジンや液体燃料ロケットを使用するミサイルもあるが、これらは燃料を送り込む仕掛けを作動させてから、燃焼室で点火装置を作動させなければならない。いずれにしても、電気的な制御という話が関わってくる。

また、炸薬(explosive)を内蔵している各種弾薬では、命中した後で炸薬を起爆させる仕掛けも必要になる。それがいわゆる信管(fuze)。信管の話は、第153回、それと第243回~第251回で書いたことがあるので、今回は割愛する。

ただ、その信管が常時作動していたのでは、物騒で仕方がない。だから、信管には安全装置が不可欠となる。起爆しては困るときには起爆させず、起爆させたいときには確実に起爆する。そういう難しい要求に応える仕掛けで、昔はメカニカルに実現していた。

しかし、信管がハイテク化して電子制御技術が入ってくれば、それを作動させるための安全解除(arming)もまた、電子制御の御厄介になる。近年では、動作内容を可変式とするプログラマブル信管も出てきているが、こうなると電子制御は不可欠だ。

そして、ミサイルの誘導制御、あるいは銃砲などの照準に際して、ターゲットを精確に狙うための仕掛けを必要とする。これも今は、コンピュータや各種センサーが不可欠になっている。だから、弾薬も、それを撃ち出す手段も、「軍事とIT」のテーマになる。

effectorという用語

弾薬みたいな破壊の道具を一般的に、英語では ammunition と総称する。ところがいつ頃からか、この分野で effector という用語が頻出するようになった。普通、effector というと真っ先に連想されるのは、楽器と組み合わせて音響効果を付加するデバイスではないかと思う。そちらの印象が強いと、ミサイルなどを effector といわれても「なんで?」となってしまう。筆者自身も以前はそうだった。

そこで、ちょっと考えてみてほしい。弾薬を用いて何かを破壊するのは、果たして破壊そのものが目的なのだろうか。「そんなの当たり前ではないか」と考えそうになるが、実のところ、破壊は目的ではなく手段ではないか?

弾薬を用いて何かを破壊することで、さまざまな効果(effect)が予想される。それを通じて、最終的に「武力を用いて我の意思を相手に強要する」ことが戦争の目的である。そう考えると、破壊の道具のことを effector と呼ぶのは納得がいくのではないだろうか。

  • ミラマー海兵航空基地のエアショーで行われた、MAGTFデモのひとこま。もちろん実弾ではなく、仕掛けておいた火薬を爆発させているのだが

そういう観点からすると、ターゲットの破壊に成功しても、それがかえって戦争遂行の妨げになるような効果をもたらすのは困る。例えば、テロリストの根拠地をつぶしても、そこで無関係の民間人が巻き込まれる、いわゆる付随的被害が続発すれば、却って対テロ戦に対する支持を減らす。戦果は挙がっても効果はマイナスだ。

逆の例として、狙撃兵がある。狙撃兵が倒せる相手は、それほど多いものではない。しかし、狙撃兵に狙われていると知った敵軍は、自分の身を護ることを優先して、積極的な交戦ができなくなるかもしれない。指揮官を狙い撃ちすれば、指揮系統が瓦解するかも知れない。それは結果として、敵軍の戦闘能力を削ぐ効果になる。

というわけで、その effector にまつわるいろいろな話を、時には話を散らかしつつ書いてみようというわけである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。