前回は、偵察機以外の偵察関連資産という「偵察機以外の偵察関連資産」ということで、偵察衛星と洋上哨戒についておさらいした。今回は、陸上の偵察を取り上げよう。
陸上の偵察
陸上の偵察といっても、さまざまなシチュエーションが想定されるので、ひとまとめに話をするのは難しい。広い砂漠の中で敵を探し求める場面があるかと思えば、市街戦で建物や地下トンネルの中をのぞき見したいという場面もある。
そしてこの分野はとりわけ、「情報が欲しければ、人間が自分の目玉で見てこないと」という信念が根強い分野だ。だからこそ、各国の特殊作戦部隊、あるいは米海兵隊のフォース・リーコンみたいに、隠密裏に敵地に入り込んで情報を盗ってくるエリート集団の存在意義がある。
とはいえ、そうしたエリートを育成するには時間も費用もかかるし、生身の人間を送り込むにはリスクが大きい場面もある。ということで、「軍事とIT」の領域に属するツールもいろいろ使われている。
その一例が、以前にも取り上げたことがあったかと思うが、手で投げて発進させるような小型のUAV。小型だから狭いところに入り込みやすく、電動式だから騒音が小さくて、しかもリアルタイムの映像を送ってくれる。塀の向こう側、あるいは建物の中なんかを偵察するには具合がいい。
これを実現するには、小型で効率の良いバッテリー、小型でも所要の品質を備えた映像を撮れるセンサー、そして動画を実況中継できる伝送能力を備えた無線通信が不可欠。後は、機体の管制と映像の表示を行うためのラップトップと、そこで使用するソフトウェア。
陸上ならではの偵察手段としては、投げ込み式偵察ロボットがある。塀の向こうや窓の中に手で投げて放り込むと、自走して移動したり向きや姿勢を変えたりする。
移動力を持たせつつ、投げ込んでも壊れないように作ろうとすると、中が回転しない本体部分で、その左右に車輪を付けた形に収斂するようだ。カメラ、バッテリ、無線機、走行用のモーターを、その本体部分に組み込む。
変わったところでは、砲弾に下向きのカメラを組み込んだ例もあったと記憶している。確か、これをやったのはイスラエルで、偵察したい場所の上空を通過するように発射する。一瞬しか映像を撮れないが、敵に見つかって壊されるリスクは小さい。
ただ、発射した時の加速度や衝撃に耐えられるような電子機器、そして一瞬の通過で確実に画を撮れるカメラを用意しないといけないので、意外と技術的なハードルは高そう。それだったら、UAVで連続的に偵察するほうが戦術的に有利ということなのか、この手の製品はあまり広まっていない。
固定式の無人センサー
投げ込み式偵察ロボットは、曲がりなりにも自走できる機能を備えている。しかしそれとは別に、移動しない偵察用無人センサー(UGS : Unmanned Ground Sensor)というものもある。なにしろ移動力がないのだから、敵を追い求めるとか、目下交戦中の敵を捜索するとかいう用途には向かない。
だから、この手のUGSの主な用途は、国境監視や施設周縁監視のような「静的な待ちの監視」と考えられる。そこは、洋上で通報艦や潜水艦や徴用漁船が哨戒線を張るスタイルに通じるものがある。他の分野と比較すると、UGSは大々的に配備が進んでいるという話をあまり聞かないのだが、こうした用途がハマる分野であれば有用性はある。
かつて、米陸軍が将来戦闘システム(FCS : Future Combat System)という大風呂敷を広げた時に、その一環としてUGSの構想もあった。地上に露出している敵の動向を監視するTUGS(Tactical Unmanned Ground Sensor)と、建物の内部にいる敵の動向を監視するUUGS(Urban Unmanned Ground Sensor)の2本立て。試作して納入するところまで話は進んだのだが、FCS計画が大コケして、これらのUGSもお蔵入りになってしまった。
ただし最近、例の「国境壁」の話が出ているから、関連して監視用無人センサー群を配置する可能性はありそうだ。すべて人手に頼り、24時間フルタイムで長大な国境壁に沿ってパトロール隊を走らせ続けるわけにもいかない。
なお、陸上に固定設置するセンサーは、まずいことになったら遠隔操作で、あるいは自律的に無力化できるような仕掛けが必要ではないだろうか。というのは、敵兵などがやってきて、センサーに細工をしたり、壊したりする可能性が考えられるからだ。
なにせ固定設置の無人センサーでは、敵兵が寄ってきたからといって走って逃げるわけにも行かない。そして、そうされないように生身の人間を見張りに付けるのでは、何のための無人センサーだかわからなくなってしまう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。