本連載では日本ヒューレット・パッカード(HPE)のさまざまな社員の「こぼれ話」を綴ります。→過去の「マシンルームとブランケット」の回はこちらを参照。

近年、ひそかに再燃している「ハリー・ポッター」ブームを喜んでいるのは私だけでしょうか。

特に2023年はゲームソフト「ホグワーツ・レガシー」のリリースや、「ワーナーブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」がイギリスに次いで世界2番目にオープンするなど--。

児童書が原作の「ハリー・ポッター」シリーズですが、スピンオフ映画「ファンタスティック・ビースト」シリーズも人気を博しており、今や大人も楽しめるコンテンツとして世界を席巻しています。

そこで今回は、ファンタジー作品でありながら、エンジニアの視点からも楽しめる「ハリー・ポッター」について、テック情報をプラスして考察したいと思います。

  • マシンルームとブランケット 第20回

ポッターとハッカー

シリーズ第2作「ハリー・ポッターと秘密の部屋」には、このような場面があります。まだ子供の主人公ハリーは、宿敵・闇の帝王と共通する魔力を生まれ持つことを知り、自分も悪の道に進んでしまうのではないか、と不安を打ち明けるシーンです。

そこでハリーの恩師であり、史上最強の魔法使いといわれるダンブルドア校長は以下のように諭します。

“It is not our abilities that show what we truly are. It is our choices.”-J.K. Rowling, Harry Potter and the Chamber of Secrets

翻訳すると、私たちが何者かを示すのは持っている能力ではなく何を”選択”するかだ、ということです。これは技術者をはじめユーザーがどのように技術を利用するか、という倫理観の問題でもあると考えられます。

例えば、皆さんは“ハッカー”と聞くとどのようなイメージを持ちますか。事件の犯罪者としてよく耳にするため、サイバー攻撃を仕掛ける悪人という印象が強いのではないでしょうか。

しかし、その言葉にはもともと「高度な技術知識を持ちそれを活用できる人」という意味しかありません。そこで善悪を区別した用語が存在します。高度な技術を悪用する「ブラックハッカー(クラッカー)」と、サイバー攻撃に対抗する「ホワイトハッカー」です。企業などから依頼されるペネトレーションテストや脆弱性診断を専門とする技術者もホワイトハッカーになります。

ちなみに、HPE ProLiant Gen10サーバーも過去にホワイトハッカーによるペネトレーションテストを実施しています。管理プロセッサ「iLO 5」 のセキュリティ機能「Silicon Root of Trust」により、ハッカーが施した改ざんはすべて自己検知・修復されることが確認されました。

脆弱性を狙われやすいハードウェアレベルの攻撃が成立しないという結果から、HPEのセキュリティ・バイ・デザインは有効であるといえるでしょう(新しいHPE ProLiant Gen11サーバーのテストも今後の実施を検討しています)。

高い技術力を善良な目的に使う“選択”をしたハッカーによって、皆さんが安心して使えるITインフラは守られているのです。

早すぎたウィザード

最上級のハッカーを「ウィザード(Wizard)」と呼ぶことからも、「ハリー・ポッター」シリーズで描かれていることは、他人事とは思えません。

ネット史上最大の事件が映画化されたことで話題の、ソフトウェア「Winny」を開発した金子勇さんは、まさにウィザードと呼ばれるにふさわしい技術者でした。

事件は2000年代初頭、ブロックチェーンの先駆けとなるP2P技術を用いた、ソフトウェア「Winny」が著作権法違反幇助を疑われるところから始まります。

未知の通信方法に警察をはじめ日本社会は不審を抱き、開発者の金子さんは犯罪者に仕立てあげられ、出る杭は打たれました。匿名で通信できるソフトウェアが犯罪の温床となれば、その開発者は有無を言わせず罪に問われてしまうのでしょうか。

金子さんは後世の技術者のためにも無罪を勝ち取るまであきらめない“選択”をし、開発を進めることができたはずの貴重な7年間を裁判に費やしたそうです。

そのころ、アメリカでは、P2Pはもちろん革新的な通信技術が発達し、ソフトウェアを開発するプラットフォームは拡大しIT大国へ。残念ながらご本人は亡くなられましたが、金子さんの書いたプログラムは今もどこかで動いておりWeb3のベースを支えています。

“十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない”

“Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.” ―Arthur C. Clarke

イギリスのSF作家である、アーサー・C・クラークは「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」と述べています。

そのため、人間界ではハッカーが開発者として手を止めないかぎり、科学技術は魔法と見分けがつかなくなるまで進歩を続けるでしょう。

一部機種のスマートフォンでは、「ハリー・ポッター」シリーズに登場する呪文を音声アシスタントに唱えると、反応する仕掛けが実装されているのをご存じでしょうか。

「ルーモス!」(Lumos:杖から光を出す呪文)と言えばスマートフォンのライトが点いたり、「アクシオ!」(Accio:ものを引き寄せる呪文)の後に使いたいアプリケーション名を言うと、アイコンをタッチせずにアプリケーションが開いたり。魔法のような現象が、技術の力によってどんどん実現していくのがこれからも楽しみです。

余談ですが、「ハリー・ポッターと賢者の石」に登場する三つ首の番犬と、認証プロトコルのひとつKerberos認証は、共にギリシア神話の「ケルベロス」が由来となっています。あるシステムにアクセスする際はこんな番犬が認証してくれているイメージを思い浮かべてみてください。

  • マシンルームとブランケット 第20回

    番犬「ケルベロス」イメージ

魔法使いが杖でものを操るように、われわれ”マグル”はせめてテクノロジーを使いこなせるようになりたいですね。魔法界では「杖が持ち主を選ぶ」といわれていますが、そこはファンタジーのままでと願いながら--。

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