腰痛くらいで死ぬことはないだろう、と思っていたら、死ぬ思いをした話をこれからしたいと思う。

腰痛と長い付き合いをしている人は多いかもしれない。多分に漏れず、筆者もデスクワーク続きでぼんやりと体がだるかったり、どこかしら痛いのは「通常運転」だった。だから、こうして書き起こしていても、いったい「いつ」からそれが始まったのかはっきりしない。2016年の夏ごろからだんだん歩きづらくなっていって、左足がしびれたところで、筋を痛めたのかと頭をよぎったくらいだった。

そうしてだましだまし出勤していて、やがて痛みで立ち上がれなくなっていたのだった。

立ち上がったそばから痛みが走り、こういう姿勢で動けなくなることも多々あった

若いから大丈夫、と言われて

とはいえ、完全に立てなくなったわけではなく、大きな痛みをやりすごせば、動けるときもあった。これはぎっくり腰で、年を取ったせいだと落胆していたくらいだったし、周囲の反応もあきれ顔で、何か少しくらい運動したら、と小言を言われたくらいだった。

横になった状態から立つ時、腰掛けようとかがんだとき、ふとした瞬間に、叫ばずにはいられない強烈な痛みが走るようになった。冗談ではない空気を感じとったのか、家族が動けなくなった私を整形外科まで運んでくれたのだが、私の診察をした医師は笑って言った。

「若いんだし、しばらくしたら治りますよ」

ベッドから起き上がる時、腰を折り曲げると痛みが出るのでこうやって横に手をついて体を起こしていた。それでも痛むときはあったが……

そう言うが、すでに三十路の大台は超えている身、その「若い」は待合室で見かけた高齢者の方々と比較して、だろう……。しかし、レントゲンには特に所見がないらしい。ならば自力で治療するしかないのかとストレッチなども行ってみたが、痛む箇所を自ら動かすのには恐怖がつきまとった。

医師は鎮痛剤があれば大丈夫と言っていたが、ロキソニンもボルタレンも完全に痛みを抑えることはなかったし、しまいにはそれらで胃が荒れて食事に不自由した。踏んだり蹴ったりである。

それでも仕事は日々こなさなくてはならないし、冠婚葬祭に穴は開けられない…と、痛みを耐え、ごまかしてやり過ごしてきたものの、この頃にはオフィスで痛みが出て、同僚に助けてもらう始末だった。そうして、昨年秋頃にあったある取材現場への移動中、ついに公共の場で身動きが取れなくなって、駅員さんにホームから運び出してもらうことになってしまった。

こんなような腰痛ストレッチもいくつか試してみたが、動かすことで痛みが出ることもあり直接改善には繋がらなかった

家族に怒られ、仕事には穴を開け、駅の医務室で身動きも取れず横たわっていた時は情けなくて仕方が無かった。このまま歩けなくなってしまうのだろうか。医師の「しばらくしたら治る」というのは一体いつなのか。それは永遠に来ないような心持ちがして、もしかしたらこれっきり、会社勤めはもとより、自力で外に出ることもままならなくなってしまうのではないかと思い詰めた。

腰の骨が折れていた!?

実は「若いから大丈夫」と言われた病院から2軒整形外科をはしごしていたが(だいたい同じ対応だった)、さらにこの件を受けて別の整形外科を探したところ、まずはMRIを撮ることになった。症状が激しいのにレントゲンで所見がない場合、MRIを撮るのだと説明を受けた。それまでの病院とは違い、少なくとも痛いという訴えに取り合ってくれる姿勢にややほっとしたが、後日検査結果を聞いたときにその安堵はひっくり変えることになる。

「腰椎骨折」、それが診断結果だった。

筆者の腰椎の画像。向かって右側、背中側の背骨に少し影が入っており、そこにヒビが入っていると告げられた

確かに、レントゲンの指摘箇所には、亀裂のようなものが入っているように見える。だが、骨折するほど大きな衝撃を受けるようなことには覚えがない。原因は考えても仕方ないので、とにかくコルセットで固定して薬物投与で治療をするのだということで、しばらく窮屈なのをガマンして生活していた。突然激痛が走って身動きが取れなくなるのに比べれば、少々の苦しさなど気にならなかった。

そうしてひとまず、恐怖の痛みはなりを潜めて(しかしコルセットで締め付けるのでまたも胃が荒れた)、会社にもどうにか復帰できた。

「原因不明のぎっくり腰」ではなく骨折と名前がついたことで説明がしやすくなったし、ずっと自分をさいなんでいた情けなさ、心許ない不安は消えてくれた。このまま骨がくっついてくれれば腰痛は治まるのだと、方向が見えたのは救いだった。

しかし、復帰した仕事先で、またもこの認識をひっくり返されることになる。(次回へつづく)

犬飼みけ : 公私共にパソコンとお友達な兼業ライター/デザイナー。2016年に強い腰痛でドクターショッピングを繰り返す。その派手な症状が編集部の目に留まり、本来の仕事以外にルポを書くように依頼され今に至る。ライティング領域はデザイン関連中心、テクノロジーまわりも少々。