2015年から続けてきた本連載も、今回で最終回だ。この7年間でLinuxの活用シーンはぐっと広がった。インターネットはもちろん、スーパーコンピュータや企業システムのバックエンドまで、Linuxは基盤ソフトウエアとして欠かすことのできない存在となっている。普段全く意識することなく使っている身近なデバイスや家電製品でも、Linuxが使われている。最後に今一度、このOSの立ち位置を捉え直してみよう。
スマートフォンの基盤ソフトウエアとして
Linuxがコンシューマーの目線から見て最も活躍しているように見えるのは、AndroidスマートフォンやAndroidタブレットではないかと思う。日本ではiPhoneの方が利用者が多いようだが、世界的に見るとiPhoneよりもAndroidスマートフォンの方がシェアを占めている。スマートフォンは現代人に欠かすことのできないツールであり、その基盤ソフトウエアとして世界最大シェアを持っているのはLinuxベースのOSであるAndroidだ。
スマートフォンやタブレット向けの基盤ソフトウエアは、これまでほかにもいくつか存在した。しかし淘汰が進み、現在ではGoogleが開発するAndroid系か、Appleが開発するiOS/iPadOS系に落ち着いている。現在ではスマートフォンの出荷台数はPCの出荷台数を超えている。コンシューマーでユーザーが毎日使っている世界最大シェアのOSの一つがLinuxという状況だ。
教育向けの基盤ソフトウエアとして
Linuxは教育の分野でも躍進した。それが、「Google Chromebook」だ。Chromebookの基盤ソフトウエア「ChromeOS」は、Linuxをベースに開発されている。シェアの上ではWindowsやMacよりも少ないが、それでもこの分野で一定のシェアを確保するまでに至ったのは注目すべきことだ。
Chromebookがビジネスシーンで想定外にシェアを伸ばした背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の拡大というインシデントによって急遽テレワークが進んだという事情もある。テレワークが必須になったビジネスパーソンの多くが、手頃な価格帯のPCとして買い求めたのがChromebookだった。今後、ビジネスシーンで本格的にChromebookが浸透していくかどうかはわからない。しかし、有望な選択肢の一つだとは考えられる。
デスクトップPC/ノートPCはWindowsとともに
デスクトップ向けのOSとしては、長期にわたってWindowsが圧倒的なシェアを確保している。現在はデスクトップ向けOSとして75%近いシェアを確保していると考えられており、PC市場はすなわちWindowsの市場だと言っても過言ではないだろう。
Linuxはこの分野ではAndroidのような活躍はできていない。しかし、MicrosoftがLinuxバイナリをWindowsで実行する技術として「WSL (Windows Subsystem for Linux)」の提供を開始したことで状況が一変した。MicrosoftはCanonicalと協力し、Windows向けのUbuntuの提供を行っている。現在では、Microsoft Storeから選択するだけでUbuntuをインストールして利用可能だ。今では、Windowsは最も簡単にPCでLinuxを使えるプラットフォームだと言える。
Linuxの技術を習得するなら、何らかのかたちでLinuxを実際に操作する必要がある。WindowsはそうしたLinuxビギナーにとって手軽にLinuxを試すことができるプラットフォームになった。
サーバの基盤ソフトウエアとして
もともとサーバのOSとして広く活用されていたLinuxだが、その状況は現在も変わっていない。Webサーバはもちろんのこと、さまざまなサーバの基盤ソフトウエアとして広く利用されている。
一方で、実行されている環境の方は大きく変わっていった。もともとベアメタルで実行されていたが、現在では仮想環境で実行されていることが多い。Linuxから見れば、そこが仮想環境でもベアメタルでもかまわないわけだが、手軽にサーバをセットアップして使いたいというニーズが増えるにつれて、仮想環境で利用するというケースが増えていった。
現在では、最初からベアメタルでLinuxサーバを構築するという方が珍しいパターンになっているかもしれない。オンプレミスの必要性があるとか、単一のハードウエアで高いパフォーマンスが必要となるようなケースではベアメタルが選択されることもあるが、この分野でも仮想環境が伸びているように見える。
コンテナの基盤ソフトウエアとして
アプリケーションの開発と運用に迅速さが求められるようになっていくと、従来のような1マシン1サーバといった構成ではなく、クラウドプラットフォームに1アプリ1コンテナといった具合で開発環境および運用環境を用意するスタイルになっていった。ここでコンテナの基盤ソフトウエアとしてLinuxが使われている。
手早くクリーンな開発環境を用意することができ、それをすぐに本番環境として運用することもできる。コンピューティングパワーが強くなるにつれてコンテナ技術を使ったシステム開発が一般的なものとして普及していった。
コンテナを実現するために使われている技術には、主要なものがいくつかあるが、どのケースでもコンテナの基盤ソフトウエアはLinuxが使われていることが多い。
組み込み機器/アプライアンスの基盤ソフトウエアとして
組み込み機器やアプライアンスもLinuxが使われていた分野だが、それは現在も変わらない。インターネットに接続する機能を備えたデバイスでLinuxが使われていることが多い。この分野はライセンスの関係でLinux以外のOSを採用するケースも多いため、Linux一択という状況ではないのだが、それでもLinuxが重要な一角を占めているのは間違いない。
現在この分野では、サイバーセキュリティ攻撃が大きな課題になっている。Linuxが使われていると言っても、Linuxやそこで動かされているほかのソフトウエアを含めてアップデートが行われないと、システムの脆弱性や“甘い設定”がサイバーセキュリティ攻撃に狙われる。Webカメラやルータといったデバイスは、一旦運用が始まるとファームウェアのアップデートが行われないまま長年に渡って放置されるケースが多い。こうしたデバイスが、マルウェアの感染によってボットネットを構築するといった状況になっている。
しかし、インターネットに接続するタイプのデバイスは今後も出荷が続くことが予測される。こうした分野においてどのようにセキュリティアップデートを実現していくのかが、業界としての課題になっている。
Linuxは色褪せることない技術
Linuxは世界中のさまざまな場所で使われている。姿形はスマートフォンになっていたりクラウド上のイメージになっていたりとさまざまだが、その本質は変わっていない。内部の実装は時代とともに変わっていった部分もあるが、ユーザーがログインして作業するシェルやコマンドはそれほど大きく変わってはいないし、基本的な概念もそのままだ。
Linuxは今後もさまざまなシーンで使われていくことが予測される。Linuxそのものを直接使うケースは現在よりもさらに減る可能性はあるが、その本質部分を理解しておいて損をすることはない。それに、今やWindowsでLinuxのコマンドを実行できる時代になったのだ。Linuxで身に付けたコマンドに関するさまざまなスキルを、Windowsで利用することができる――これがもたらす効果は大きい。
繰り返すが、技術を取り巻く状況は変化しても、その本質は基本的には変わらない。これまでやってきたLinuxに関するスキルを磨く取り組みは、今後も続けていってもらえればと思う。これからLinuxは、Windowsを便利に使うためのツールとして役立ってくれるはずだ。Macも基本的には同じツールが使えるので、簡単にスキルの応用もできる。身に付けておいて損をするものではない。
7年近くLinuxの連載を続けてきた。取り上げることができたのは、数多あるLinux関連技術の一部に過ぎないが、特に仕事に役立つと思われるものを中心に取り上げてきたつもりである。決して色褪せる技術ではないので、今後も何かの参考にしてもらえれば幸いだ。