Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。連載第5回では、キャラクター設定について考える。

キャラクターの履歴書

企画キャラクターデザインが固まって来たところで、そのキャラクターの「個性」について一考します。

その創作方法のひとつとして「キャラクターの履歴書」を作るやり方があります。名前、年齢、性別はもちろんの事、どういう所で生まれたか、家族環境はどうなのか、性格にはどういう特徴があるのか、好きな物、嫌いな物……、等々を書き連ねていきます。そういった細かいディティールを積み重ねる事で、漠然としたキャラクター像を明確にしていくのです。僕が以前、映画会社に勤め、いつか自分の作品を作ろうと脚本のような物を書いていた時には、この作業を黙々とやっていました。ここを可能な限り深く丁寧にやることによって、キャラクターが生きてくると思っていました。ただ、現在は、ちょっと考え方が変わっています。

キャラクター設定はシンプルに

この作業は、やらないよりはやった方が良いと思うのですが、よくゲームのキャラクター設定なんかで目にする、いかにも取ってつけたような履歴書なら、別にいらないとも思い始めています。それは、僕自身がショートコンテンツをメインに制作する様になったからなのですが、あまり深くキャラクターを掘り下げるよりは、端的かつ明確に伝わるキャラクター設定の方が、作品にキレが出ると感じているからです。ストーリーに直接関係のない設定や、あまりに無複雑な生い立ちはキャラクターの行動をあいまいにしたり、その部分を紹介したいばかりに余分なシーンが増えてしまう事さえあります。具体的に言えば「性格は○○だけど、××な一面もある」というぐらいでいいのかと。そして、作品に必要であると感じれば「コロッケが大好き」とか「犬が恐い」というビジュアルにも明確な一面を加える感じです。

思考が単純なキャラクターは一見面白くなさそうに感じますが、実際のストーリー運びに置いては、性格の芯を太くシンプルにしておいたほうが、キャラクターの行動原理が明確になり、作者にも観客にもわかりやすくなると思っています。

キャラに追加するものとは

ただシンプルなだけでは、いわゆる「立っているキャラ」は出来ないのではないかと心配になるかもしれませんが、僕は性格の複雑さとキャラクターの魅力は別の問題だと思っています。大切なのは、「○○だけど××」というシンプルな基本形プラス意外性です。「性格最悪だけど、寂しがり」とか「貧乏だけど、金遣いが荒い」という感じでしょうか。僕は、「立っているキャラ」とは、性格付けが明確なキャラクターだと思っています。そしてその性格を強くすればさらにキャラクターは「立つ」と思います。そのために、キャラクター設定に「すごく」を追加します。「すごく性格最悪だけど寂しがり」、「貧乏だけどすごく金遣いが荒い」という風です。

また、よく出来たキャラクターは自ら行動します。これを実践するには、キャラクターに「目的」を設定する事が大切だと思います。「すごく性格最悪だけど寂しがり」+「友達が欲しい」とすれば、このキャラクターの行動原理は決定されます。これだけ出来てしまえば、脚本に取りかかれると思います。

個性が薄いキャラが最適な場合もあり

ただ、例外として「立たないキャラ」を主人公に据えた方が良い企画もあります。それは、主人公に観客を「憑衣」させたい場合です。そのキャラクターを窓口として、物語を追体験してもらいたい場合は、個性が薄く平均的なキャラクターが好まれるケースも多々あります。小説等で「私は……」という一人称で書かれている作品もそのような目的がある場合が多いのではないかと思います。

リアルなキャラクター造形も大切ですが、実生活でも一度や二度出会っただけで、その人の性格を全て把握できる訳ではありません。ましてや物語の登場人物であれば出来るだけ早くそのキャラクターの本質を伝える必要があると思います。伝わり易く、意外性のある楽しいキャラクターの創作をするのもクリエイターの腕の見せ所です。楽しみながらあーだこーだと考えていきたい所です。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。