近年、アンモニアを燃料とした発電機、船舶や航空機のエンジンなどの開発といった話題をよく耳にする。というのも、アンモニアは、カーボンニュートラルの観点から次世代のバイオ燃料として注目を集めているからだ。
アンモニアの燃焼による排気ガスの窒素酸化物(NOx)が課題であるが、この抑制の技術開発も盛んだ。
アンモニアは、ご存知のとおりNH3。 燃焼しても水と窒素のみなので、CO2の温室効果ガスを排出しない。そして、もう1つアンモニアは、肥料の原料としても重要だ。昔から「ハーバーボッシュ法」という化学的アプローチでアンモニアを生産し人類の発展を支えてきた。
そんなアンモニアを食品廃棄加工物の「おから」などから大量に生産できるプラットフォームの構築に京都大学の植田充美教授らが成功。
また、Pivot Bioという企業も微生物を使って空気中の窒素からアンモニアの生成に成功している。人類の発展を支えたハーバー・ボッシュ法にとって、そんな期待も持ち合わせている。今回は、そんな話題について紹介してみたいと思う。
アンモニア生産は化学的アプローチから生物学的アプローチへ!?
100年以上もの昔からハーバー・ボッシュ法によって生産されアンモニアは、肥料の原料として人類の発展に大きく貢献してきた。しかし、アンモニア製造のためのエネルギーは全世界の使用エネルギーの1~2%を占めており、環境問題の一因にもなっているという。 近年、このような化学的アプローチではなく、生物学的アプローチで生産する方法が注目されている。
そのアプローチに尽力し、アンモニアの大量生産プラットフォームの構築に成功したのが、京都大学の植田充美教授らだ。
世界では、先進国を中心に食品加工廃棄物が大量に廃棄されている実情がある。下の表がその一例だ。
例えば、大豆残渣であるおからは、世界で最も廃棄されている食品加工物という。驚きだ。この食品廃棄物は、家畜の飼料に活用されたりするだろうが、土壌に埋め立てたりすることも多いという。
この食品廃棄物を土壌に埋め立てると、微生物によりCO2が発生。環境によくない。この解決策の1つがアンモニアの生産だ。
おからを使ったアンモニアの生産について、植田教授らの研究らはいくつかの手法を紹介している。細胞表層工学による細胞外でのグルタミンからのアンモニア生産、L-アミノ酸オキシダーゼによるアミノ酸混合溶液からのアンモニア生産、ニトロゲナーゼなどの酵素を用いて空中窒素からのアンモニア固定などだ。
ニトロゲナーゼなどの酵素を用いて、空中窒素からのアンモニア固定が理想というが、ニトロゲナーゼという酵素は、酸素に非常に弱く、好気条件下では、死んでしまい利用できない。しかし、ニトロゲナーゼが好気条件でも働いている微生物が発見されたこともあり、さらにこの研究は進んでいくことが予想されるという。
Pivot Bioの生物学的アプローチによるアンモニア生成
Pivot Bioという企業は、40もの微生物をトウモロコシの根に直接つけて、空気から窒素を取り込み、植物が成長するために必要なアンモニアの生成に成功している。
この微生物は「Pivot Bio Proven 40」と名付けられているようだ。 化学肥料は、大雨などで流れてしまうという課題があるが、このアンモニアを生成してくれる微生物は、植物にとどまり水などでは流れていかないというメリットもある。
いかがだっただろうか。アンモニアは、人類の発展を支えてきた。しかしながら、ハーバー・ボッシュ法による生産は環境負荷が大きい。
このハーバー・ボッシュ法の化学的アプローチではない生物学的アプローチによる生産方法は、次世代の環境に優しいバイオ生産技術として有望視されていくだろう。