2022年12月14日、スタンフォード大学のVirtual Human Interaction Labは、仮想空間において、アバターの類似度や仮想空間の環境が利用者の心理に対してポジティブな影響を与えうることがわかったというプレスリリースを発表した。では、スタンフォード大学はどのような実験をしたのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
スタンフォード大学が行った仮想空間での実験内容とは?
今回の実験では、272人の学生が「Meta Quest 2」のVRヘッドセットを装着し、「Jabra Engage LINK」の仮想空間プラットフォームで実験を行った。被験者である学生は8週間にわたり、1週間に1度仮想空間で過ごしたという。この実験の目的は3つ。アバターによる効果・仮想空間の環境による効果・それらによって時間と共にどのような変化があるのか、の調査だ。調査にあたっては、学生からグループの結束力(group cohesion)・存在感(presence)・喜び(enjoyment)・リアリズム(realism)についてヒアリングし、効果を測定した。
アバターによる効果については、現実世界での学生個々の容姿を再現したアバターと、すべての学生が一律同じアバターの2パターンが用いられた。仮想空間内での過ごし方については、30分間のディスカッション、仮想空間での3Dドローイング、空中の付箋へのメモをするような動作など。そして、アバターの動きは18段階の自由度で計測された。
次に、仮想空間の環境による効果についての調査については、仮想空間が192パターン準備された。仮想空間の属性は、屋内と屋外の2パターンに、constrained(制限)とspacious(広大)の2パターンを加えた計4パターン。例えば、空と海が開けた海岸、電車のような車内、屋内だがとても広い図書館のような場所、青空が綺麗な草原などだ。中には、動く魚が彫刻のように展示された屋内や、大樹のような大きなキノコが生えた夜空などの環境もある。
では、研究結果はどうだったのだろうか。
アバターによる効果については、個々の学生の容姿を再現したアバターであると、非言語的な同期性が高まったという。つまり、ジェスチャーなどがよく同期していたことを意味する。また加えて、より活動的で積極的になれたとも報告されている。一方で、すべての学生で一律のアバターを使用した場合は、「開放的で楽しい」という傾向が見られたとのことだ。
そして仮想空間の環境による効果については、屋内か屋外かに関わらず、広大な仮想空間であるとグループの結束力や存在感、喜び、リアリズムなどが増加したという。加えて、屋外の環境においてはよりポジティブな感情を生み出すこともわかった。
なお、この研究成果は『Journal of Computer-Mediated Communication』に掲載されている。
いかがだっただろうか。この実験による大きなポイントは、職場など、より生産的な仕事や共同作業が求められる場合には、自分に似たアバターを選択したほうが良いことが解明された点だ。またほかにも、広大さを感じる仮想空間にいればポジティブな気持ちになれることもわかったのは、とても意義のある研究成果だ。また、この研究に関するぜひ以下の動画もご覧いただきたい。