少し前になるのだが、2021年12月10日、順天堂大学は老化細胞を除去するワクチンの開発に成功している。このワクチンはアルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療に大きな期待が持てるものだという。では、この老化細胞除去ワクチンとはどのようなものなのか今回は、そんな話題について触れたいと思う。

順天堂大学が開発した老化細胞除去ワクチンとは?

順天堂大学が発表した老化細胞除去ワクチンの開発。この老化細胞除去ワクチンによって、加齢関連疾患の治療に大きな期待が持てるという。では、この老化細胞除去ワクチンとはどのようなものなのだろうか。

まず、老化細胞について説明したい。プレスリリースには、老化細胞とは、さまざまなストレスによって染色体に傷が入ることで不可逆的に細胞分裂を停止した状態になった細胞と解説されている。

この細胞は加齢とともに組織に蓄積され、慢性的な炎症が発症することでさまざまな加齢関連疾患が発病したり進行したりするのだ。

では、この老化細胞を除去できればいい、そう考えるのは自然だろう。以前より、老化細胞を除去することができる治療薬は存在した。

それは抗がん剤だ。しかし、副作用の問題があるのが課題だった。そこで、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の南野徹教授らの研究グループは、老化細胞ワクチンの開発に取り組んだのだ。

まず、南野教授らの研究グループは、老化抗原であるGPNMBに注目。老化抗原とは、老化細胞に特異的に発現が見られる膜表面に存在する分子のこと。このGPNMBは、ヒト老化血管内皮細胞や動脈硬化疾患のある高齢患者の血管においてもその発現が増加しているいうのだ。

そして、GPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチン開発に取り組んだ。いくつか開発したワクチンの中でGPNMBに対する抗体価が有意に増加するものを選択し、マウスに摂取した。

今回開発した老化細胞除去ワクチンのメカニズムは、次のようだ。ワクチンの老化細胞除去ワクチンよって誘導される抗体による免疫反応により、老化細胞が選択的に除去(セノリシス)され、慢性炎症が改善するのだ。

  • 順天堂大学が開発した老化細胞除去ワクチンのメカニズム

    順天堂大学が開発した老化細胞除去ワクチンのメカニズム(出典:順天堂大学)

そして、GPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチンをマウスに摂取した結果も紹介されている。例えば肥満食を与えた状態のマウスに、老化細胞除去ワクチンを接種したところ、内臓脂肪に蓄積している老化細胞が除去され、脂肪組織における慢性炎症が改善、そして、糖代謝異常の改善も見られたという。

また、動脈硬化モデルマウスにおいても、慢性炎症の改善とともに動脈硬化巣を縮小させうることがわかったという。さらには、早老症モデルマウスに対するワクチン接種では、寿命の延長効果が確認されたのだ。

  • 老化細胞除去ワクチンをマウスに摂取した結果

    老化細胞除去ワクチンをマウスに摂取した結果(出典:順天堂大学)

いかがだっただろうか。今回、順天堂大学はGPNMBなどの老化抗原を標的とした老化細胞除去ワクチンの開発に成功した。

今後は、別の老化細胞に、別の老化抗原を標的とした老化細胞除去ワクチンの開発に努めていくという。