前編 では、IT人材の中途採用市場で生じている「IT人材とハイスキルIT人材の需給バランスの崩れ」について、当社の転職データを用いて解説しました。後編では、ハイスキルIT人材の獲得に向け、独自の工夫をしている企業2社の取り組みを紹介します。1社目は「雇用形態」、2社目は「採用手法」に工夫を凝らし、獲得を行っています。

優秀なIT人材獲得のために尖った福利厚生「釣り船の完備」で差別化

ハイクラスIT人材の確保のため、正社員採用にこだわらない企業もあります。その一例が、ITコンサルティング事業などを展開するスタートアップ、bluecode(ブルーコード)です。

メンバー全員を業務委託で契約しており、この形態は2018年の設立当初から導入されています。bluecodeのように受託開発をしている企業は、プロジェクトによって開発言語、開発工程によって必要なスキルが異なるため、要件定義から開発までを一気通貫して、幅広く対応ができるスキルが求められます。しかし、そうしたハイスキルが備わった人材は市場になかなかおらず、採用が難しいため、正社員採用に固執せず「全員業務委託」という形式で選択肢を広げているのです。

ここで重要なのは、戦略的に、業務委託という採用形式を選択している点です。bluecodeは、上記のようなスキルを持った人は、独立志向が強く、フリーランスや個人事業主として働いているケースが多いと考えました。ITスキルはもちろんのこと、さまざまな企業で経験を積んでいるため柔軟性や適応力があり、自立して働いてくれる。つまり、業務委託にすることで、ビジネススキルも有した、生産性が高いハイスキルIT人材に出会える可能性が高くなると考えたのです。

ただし、「いかにして自社を選んでもらうか」は、正社員採用と同様に難易度が高いのが実情です。そこで工夫しているのが、補助制度です。bluecodeでは「雇用保険、労災保険などの保障がない」「産休育休中は収入が入らない」など福利厚生の恩恵を受けられない業務委託に対して、産休を付与するなど、雇用形態に関係なくメンバーが働きやすい環境を整えています。

さらに「尖った」補助制度も導入。フリーのIT人材は自由な働き方を望む傾向が強いため、「働くにあたっていい環境だ」「面白い企業だ」と思ってもらえる施策を複数取り入れているといいます。その1つが、釣り好き×ITのための環境整備を行っていること。もともと釣り好きメンバーが多かったこともあり、釣船を2艇購入。イタリア製クルーザー“SESSA40”にはモニターなどを設置し、仕事もできる「船オフィス」に改装。さらに昨年からは、横浜ベイサイドマリーナ内に、釣具などをそろえた「釣り好きのためのオフィス」を開設しました。オフィスから徒歩5分のところに社用艇もあるため、メンバーはいつでも釣りを楽しむことができます。

  • 左:オフィス用の船(オフショアオフィス)、右: 船内にはエンジニアには必須の5Kディスプレイ装備

代表の伊賀麗佳氏は「実際、求職の応募理由の1つに『釣り好き・海好き』が含まれており、これが当社に興味を持ってもらえるきっかけにもなっています。こうしたピンポイントでも強い共通の話題があることで、コミュニケーションが取れ、企業文化へのミスマッチも起こりづらい」と語ります。

  • 鎌倉材木座オフィス

このように、bluecodeでは業務委託でも働きやすい環境を整備し、自社で長く働きたいと思ってもらえるように、補助制度などを試行錯誤しながら、優秀な人材に選ばれる企業を目指しています。

返信率の高いTwitter DMで個人にアプローチ

次に紹介するのは、創業から約3年、ハイスキルIT人材の採用に力を入れているスタートアップのログラスです。同社は、今ではGMO インターネットグループ、バンダイナムコオンライン、マネジメントソリューションズをはじめとした多くの上場企業が導入するまでに成長したCFO・経営企画向け経営管理クラウドの開発を手掛けています。ログラスのエンジニア採用をけん引するのは、CTO(最高技術責任者)の坂本龍太氏。坂本氏を中心にログラスではSNSを上手に活用し、ハイスキルIT人材の正社員採用を行っています。

ログラスでは、Twitter DM(ダイレクトメール)で、フルスタック(システム開発における複数の技術に精通したITエンジニア)、かつ専門領域を持つハイスキルエンジニアにアプローチしています。Twitter DMを通じたスカウトは個人名で行う、スカウトするエンジニアがフォロワー、もしくはそのエンジニアの知り合いがフォロワーであることも往々にしてあるため、返信率が高い傾向にあるようです。

ログラスでは毎週月曜日13時を「エンジニアスカウトタイム」と名付け、エンジニア全員で一緒に働きたいエンジニアをTwitter上で探し、各々のアカウントからスカウトDMを送っています。

DMを送る際のポイントは、技術用語を散りばめること。なぜなら、ログラスのプロダクトが支援する、CFO(最高財務責任者)の仕事や経営管理について多くの人は知らないため、技術用語を用いることで、エンジニアたちに、実際にプロダクトを作るイメージを持ってもらう工夫が重要だといいます。

Twitter DMを活用し始めてから、ハイスキルIT人材の採用は約2倍にまで増えており、ログラスの場合、Twitter上でのエンジニアとのつながりに加え、会社を挙げて社員全員で採用活動していることが、採用成功に寄与していると考えられます。

従来の採用手法にとらわれていては、IT人材は獲得できない

ここまで、bluecodeとログラスの事例を見てきました。bluecodeの「戦略的にメンバー全員業務委託」という人材獲得手法からは、求める人物像を明確にすることが成功の鍵ということが分かります。欲しい人材はどのような志向性を持っているのか。どのような働き方を望んでいるのか。それに合致する雇用形態を選ぶことに加え、外部人材や正社員問わず、「選ばれる会社」になるためには、働く環境や福利厚生を充実させることが人材獲得の可能性を高めると言えるでしょう。

一方で、ログラスは、採用したい人材はどこにいて、どのようなコミュニケーションを取れば興味を持ってもらえるのか。これらをしっかり踏まえた上で、従来のやり方にとらわれず、ログラスに適した採用ツールとしてTwitter DMを選択したことが、人材獲得に寄与したのでしょう。しかしながら、情報発信や情報収集等を目的にSNSを使っているIT人材も多く存在します。その点もしっかり考慮した上で、SNSを活用した採用を行う必要があります。

今、IT人材の中途採用市場では、需給バランスの崩れが深刻化しています。そのような状況下で優秀なIT人材を採用するのは至難の業です。ぜひ、紹介した2社の事例も参考に、自社のIT人材採用の在り方を確立してもらえればうれしいです。