スマートフォンが普及し、オフィスにもPC設置が標準となった現代、「JPEG」に触れたことがないという人はまずいないのではないだろうか。この媒体に掲載している写真やイラストも「JPEG」形式で保存されている。

だが、あまりにも生活に浸透しすぎていて、「JPEG」そのものについて意識する機会はあまり無かったのではないだろうか。,

そこで今回は、JPEGを作った団体に所属し、画像処理の研究を行っている拓殖大学の渡邊修准教授に、「世界一身近な画像圧縮技術」と言って差し支えない地位を確立した「JPEG」について、誕生の経緯から普及の流れ、そしてこれからリリース予定の次世代規格までお話を伺った。

拓殖大学 電子システム工学科 渡邊 修 准教授


ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1 (JPEG) メンバー。画像処理、特に画像圧縮とその応用に関する研究が専門

――現在、JPEG 2000が一番メインで使われているのはどういった分野なのでしょうか?

一番成功しているのは「映画」です。現在の映画はデジタル配信(デジタルシネマ)なのですが、その製作現場で導入されています。

ハリウッドの6大スタジオなどが共同で「デジタルシネマイニシアチブ(DCI)」という団体を作って、映画をデジタル配信にするための仕様を定めました。撮影から配給まですべてデジタルでやるとなると、どこかでデータを圧縮する必要があり、それで採用されたのがJPEG 2000なんです。

――動画の圧縮に、静止画フォーマットのJPEG 2000が採用されたのは意外です。

仰る通り、映画なのに静止画のデータを使うのかと思われるかもしれないのですが、映画には編集の段階がありますよね。1秒間に24枚の画像が並んでいると考えていただければいいのですが、フィルムの時代の編集は、リールからフィルムをひきだして、いらないところを切って、続きのところにつなげる…ということをやっていたんです。こういうことをデジタル上でやるためには、1枚1枚のデータがきちんと「絵」になっていないといけないので、静止画フォーマットを用いるんです。

実は、MPEGは「JPEGのパラパラ漫画」というわけではなくて、1枚1枚が絵になっていないんですよ。簡単にいうと静止画十数枚分をまとめて処理するので、グリーンバック合成のような編集作業には向かないというか、かえって労力がかかってしまうんです。

――そうなんですね、てっきりMPEGはJPEGの集合体の動画フォーマットと思っていたので驚きました。

基本としてはそうなんですが、例えばNHKのアナウンサーがしゃべっている様子を撮った映像があったとして、ああいった状況を撮影した場合には口くらいしか動いていないんです。ものすごく単純に言うと、MPEGは「動いてないところを送信しても仕方ない」と判断して、動いている部分だけを送るようにするんです。そのため、基準となるフレームを定め、そこから先は差分しか送っていないんですよ。

でも、そのやり方だと、先ほど申し上げたような合成や、編集作業の際に困ってしまうんです。そういうことも考えて、1カットずつ記録できるJPEG 2000が採用されて、映画では成功しています。昨年はエミー賞の技術部門を受賞していたりもします。

――では、JPEG 2000を扱ったことがないと思っていた人も、実は「見ていた」ということにもなりますね。ほかに使われている分野などはありますか?

あとは医療系での活用や衛星画像、本をスキャンするなどのアーカイブ用途などが知られています。絵画のアーカイブなんかは、災害等でもし絵が破損したらいけないということで、かなり気を遣ってデータを残しているんです。ただそのままのデータだととても大きくなってしまうので、JPEG 2000を使って圧縮しているんですね。

また、日本の免許証とパスポートの画像データはJPEG 2000が使われています。どちらにもICチップが入っているのはご存じかと思うのですが、そこに写真のデータが入っているんです。公的書類のようなシーンで、やはりJPEGは嫌われてしまうんですね。ある程度の処理をかけると激しく劣化してしまうので。一方、JPEG 2000は繰り返してもそんなに劣化しないので、そこが強みですね。

JPEG 2000はロスレス圧縮ができます。JPEGにもロスレス方式はあったのですが、非可逆のほうとの互換性が一切ないので、ほとんど知られていません。JPEGファイルなのに可逆方式であったなら、規格では最低限JPEGと名乗るための規定にそれが含まれていないので、JPEGが見られるビューアで見たところで、エラーが出てしまうこともあります。それでは使い物にならないですよね。これに対してJPEG 2000は非可逆・可逆両方に同一の構成で対応できるようにしました。

まとめると、一般の人がカメラで撮ったりする用途ではなくて、すごく高い品質が要求されるようなプロフェッショナルの場面でJPEG 2000は成功しているといえます

次回は、高機能化が進む市販の機材においてもJPEG 2000が採用されていない理由と、JPEGの次世代規格「JPEG XR」についてお話いただきます。