パナソニック エナジー社(旧 松下電池工業)が、リチウムイオン電池の新製品および新技術を相次いで発表した。「さらなる大容量化に応えるために第3世代の技術を導入。これにより、モバイル機器の長時間駆動、あるいは小型化を進展させることができる」と、パナソニック エナジー社の野口直人社長は語る。

新たなリチウムイオン電池によって、ノートPCのバッテリー駆動時間はどう進化するのだろうか。

現在、ノートPCに利用されているバッテリーは、直径18mm、高さ65mmの18650サイズのリチウムイオン電池である。ノートPCのバッテリー駆動時間は、CPUやグラフィックチップ、液晶パネルの省電力化などが影響するのは確かだが、長時間駆動のもととなるのは、やはりバッテリーそのものの性能。リチウムイオン電池の容量と、そのセル数が、ノートPCの駆動時間に大きく影響を及ぼすことになる。現行ノートPCの半数以上に採用されているのが2.2Ahのリチウムイオン電池。これを6本組み合わせて長時間駆動に対応しているのが基本的な仕様だといえる。

パナソニックでは、2.2Ahおよび2.9Ahを製品化し、自社のLet'snoteに搭載するなど、ノートPC向けに供給。最大で16時間という長時間駆動を実現している。このほど、パナソニックが発表した新製品は、3.1Ahを実現、12月から量産を開始した。さらに、新技術として3.4Ahリチウムイオン電池を開発し、2011年から量産化する計画を発表したほか、2012年度には4.0Ahという高容量化を実現できる技術を新たに発表した。

4.0Ahのリチウムイオン電池を用いれば、現在主流の2.2Ahのリチウムイオン電池に比べて、バッテリースペースを半分にできる3本に留めながら、同じバッテリー駆動時間を実現できるほか、同じ6本を搭載すれば、実に2倍にまで拡張できることになる。もちろん、量産化される2012年度には、CPUやグラフィックチップなどが求める消費電力が高くなると想定されるため、そのまま駆動時間が2倍になるということは考えにくいが、それでも現在と同じ仕様であれば、現行Let'snoteの16時間の駆動時間が、なんと32時間にまで延長できるという、夢のような環境が実現できる計算になる。

18650サイズのリチウムイオン電池

右が新開発のリチウムイオン電池。半分のサイズでほぼ同じ容量を実現できる

パナソニックが開発した新技術のうち、2011年度に量産化する3.4Ah電池リチウムイオン電池は、第2世代と呼ばれるものだ。第2世代では、正極にニッケル系材料を採用。負極には炭素を使用している。これに対して、ノートPCで主流となっている2.2Ahリチウムイオン電池は、第1世代のもので、正極にコバルト系材料を活用しているため、コストメリットが大きいのが特徴だ。

だが、第1世代では最大でも2.6Ahが限界といわれており、さらなる大容量化を実現するには、第2世代への移行が必要だ。しかし、この第2世代もすでに限界が見えており、正極に使用するニッケル系の高密度化に取り組んでも、今回、パナソニックが発表した3.4Ahが限界とされている。

そこで、パナソニックは第3世代と呼ばれる仕組みに取り組んだ。ここでは正極に高密度化したニッケル系材料を使用し、負極には合金系材料を新たに採用することで、4.0Ahの大容量化を実現することに成功したというわけだ。

パナソニック エナジー社の野口直人社長

これまで合金系負極には、充放電の繰り返しによる膨張、収縮の影響で極版破壊による性能劣化が課題とされていた。炭素材料では、放電状態に比べて、充電状態の膨張が1.4倍となっていたものが、シリコンやスズなどの合金系材料ではなんと3倍にも膨張していたのだ。「極板内での体積変化を吸収することが必要であり、シリコン系材料の開発とプロセス技術を活用することで、電極群の変形を解決。4.0Ah電池の開発に目処をつけた」(パナソニック エナジー社の野口直人社長)という。第1世代、第2世代と同様に、4.2V電圧での充電が可能であり、充電設計の変更が不要である点にも配慮している。なお、第3世代リチウムイオン電池は、材料の革新などにより、今後、1.数倍までの高容量化が可能だという。

リチウムイオン電池の進化によって、ノートPCの長時間駆動が実現されるが、パナソニックがもうひとつ視野に入れているのが電気自動車への搭載である。今後10年間で2次電池の需要は2.5倍に拡大すると見られているが、その主流がリチウムイオン電池であり、それを牽引するのがモバイル機器の拡大と、電気自動車への搭載と見られているからだ。そこでの課題は、第2世代、第3世代の高容量リチウムイオン電池のコストダウン。それによって、この普及曲線は大きく変化することになるだろう。