本連載では過去5回にわたり、モール出店に焦点を絞り、モールの選び方や効果的な集客方法、店舗の分析・改善方法など、売上げアップを図るための戦略を紹介してきました。
それはひとえに、日本のEC市場では、各モールがユーザーをうまく囲い込んでいるため、成功するにはまず、モールを攻略する必要があるからです。
では、独自ドメイン店となる本店は、どのように捉えればよいでしょうか。本連載の最終回となる今回は、本店の運営方法について、見ていくことにします。
オムニチャネルの台頭で、どうなる本店?
最近のEC市場の大きなトレンドといえば「オムニチャネル」ではないでしょうか。セブン&アイ・ホールディングスをはじめ、日本の大手流通チェーンがオムニチャネルの仕組みを整え、本格的に展開し始めています。
セブン&アイ・ホールディングスは2014年初頭、オムニチャネルに本格的に取り組むことを発表 図版 : セブン&アイ・ネットメディア公式Webサイト |
オムニチャネルにおける優位性は、「店舗在庫の共有化」と「店舗とネットにおける顧客情報の一元化」の2つでしょう。
実店舗と本店(独自ドメイン店)、モール店舗などさまざまなチャネルの在庫を共有することで、有効的な在庫の活用を実現し、売上げの最大化を図ることができますし、店舗とネットにおける顧客情報の一元化では、ライフタイムバリュー(LTV)最大化の実現が可能です。この結果、ロングテールで考えると、顧客一人あたりの単価が上がるほか、企業は、顧客獲得コストをより多くかけた場合でも、売上増を見込めるようになります。
しかし、オムニチャネル化しておらず、本店のみを運営している場合、これらの利点を活かすことはできません。加えて、小売系のナショナルクライアントなどは予算の額も大きいほか、本店の集客・売上向上に向け、費用対効果の高いSEO・SEMに莫大な資金を投入することが可能です。
つまり、オムニチャネルの台頭により本店は、間違いなく厳しい戦いを強いられるということです。だからといって、本店を放棄することは、あまりに消極的な戦略だと私たちは考えます。
自社の強みを生かしたサイト構築が重要に
本店の運営に取り組む際に忘れてはならないことは、「顧客がどこで商品を購入するかは、顧客に選択権がある」ということです。
顧客が「この店で買いたい」と思えるショップ作りをすれば、十分、オムニチャネルに対抗することはできます。そこで大切になることは、自社の強みを活かしたサイト構築です。
例えば、洋服を扱う実店舗を持ち、コーディネイトの提案を得意とするブランドがあるとします。このブランドが顧客に「この店で買いたい」と思ってもらうためには、どのデバイスにおいても本店にてコーディネイトの提案ができる仕組みを構築する――といった具合です。そのほかBtoBでは、本店でも見積もりや注文が可能になるとよいでしょう。
このような取り組みを強化している企業の1つとして、青山商事があります。同社のブランドとなる「洋服の青山」では、実店舗でサイズを測り会員登録をしたあと、本店(独自ドメインECサイト)にてログインすると、自分のサイズの洋服がのみ表示することができます。
このように、自社の強みを生かしたサイト構築は、制約が設けられているモールで行うことはできません。本店だからこそ、できる戦略なのです。
価格の安いASPから始めて様子を見る
さて、本店を構築する際、多種多様な業者の中からどこを選べばいいのか、大きな悩みどころになるでしょう。
カート業者は、導入価格が安くカスタマイズに制限がある「Aグループ」と、導入価格が中間程度で拡張性の高い「Bグループ」、導入価格が高くカスタマイズの自由度が高い「Cグループ」といった3つのグループに分けることができます。(パッケージが無く、ゼロから制作 : フルスクラッチするという選択肢もあります。)
これから本店を構築するのであれば、まずはAグループで安く導入し、機能を一通り使ってみるとよいでしょう。その結果、機能内容に満足であればAグループで運営を継続し、やりたいことの実現に限界を感じた際は、BグループやCグループを選びます。
いきなりBグループやCグループを使うと、「実はAグループで機能的には十分だった…!」ということも起こります。Aグループから導入を開始し、ステップを踏みながら、最適なカートを選んだほうが得策です。
今後、工夫をせずに本店のみで運営をしていては、モール店舗やオムニチャネルに埋もれてしまう可能性が高いといえます。顧客に選んでもらうためには、自社の強みを活かした店づくりが、何よりも重要です。
EC市場の規模はこの先もしばらく、伸びていくでしょう。成長に比例して競争が増えていく流れは続く見込みです。大きな方向性を持たずに、闇雲に始めてしまうことは、時間とお金の無駄遣いになりかねません。モール店舗と本店の両方をしっかりと運営するか、それとも、片方に注力するかをはっきりと決め、勝ち残る店舗を創っていきましょう。
6回にわたり掲載してきました本連載は、今回にて終了となります。内容はいかがだったでしょうか?
これまで、ビジネスとして初めてネット通販に携わる方向けに、最も基礎的な内容をお伝えしてきました。連載はこれで終わりますが、みなさんの今後には、店舗の成長に合わせ、戦略・戦術を考え実施し続けていく、長い長い物語が続きます。
その物語のどこかで、迷ったり、行き詰まりして、この連載の先を読みたくなったときには、ご遠慮なくお声をお掛けください。あなた専用の第7回をご用意して、解決のお手伝いをさせていただきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
執筆者紹介
いつも.
創業以来、EC支援に特化して事業を行い、のべ7300社の支援実績を持つ。ECの成功に必要な集客や制作、販売、システム、コンサルティングをすべて自社スタッフがワンストップで提供する。支援対象は、自社サイトや楽天市場、ヤフーショッピング、ポンパレモール、DeNA、Amazon、紙通販、実店舗まで。米国最大のECイベント「IRCE」の公式パートナーとして、世界最先端のEC情報の提供も行う。公式Webサイトはこちら。