ビジネスの現場にもキツネとタヌキがいる

唐突ですが、以下のどれが「詐欺」に当たると思いますか?

  1. 見積りがOKだったのに値下げを強要されたので、安い資材に代えて帳尻を合わせる
  2. 財源があると信じて政権交代したのに、見つからなかったので借金で穴埋めした
  3. 結婚してからダンナが20キロ太った

実は一般論として、どれも「詐欺罪」に問うのは難しいです。「1」の見積り後の値引き要求は「見積り」という契約が反故にされていると考えることもできますが、見積書で資材の種類まで明記されていたかどうかはこの一文だけではわかりません。

続けて「2」は難問です。そこに「悪意」があったか否かも詐欺を構成する要素だからです。本当に「ある」と信じていたのなら、不勉強か無知にすぎず、その結果として重ねた借金なら罪に問うのは難しいのです。"公約違反罪"がない以上、選挙で審判を下すしかありません。

商売をしていると、詐欺の境界線に遭遇します。どちらが「キツネ」か「タヌキ」かわからないこともしばしば。そして「3」についてはノーコメントということで。

今回は、検索エンジンの最適化手法・SEOのセミナーにおける「化かし合い=0.2」について考えてみたいと思います。

行列のできるセミナーのヒミツ

セミナーの壇上に登ったWebコンサルティング会社のW社長は、「簡単なSEOで行列ができるホームページ」をテーマにレクチャーを始めました。SEOとは、検索エンジンの特性を逆手にとり、特定のキーワードを検索結果の上位に表示されやすくする方法です。消費者は検索結果の上から順番に見ていくので、上にあるほど有利になるというわけです。

「しかし、今までのSEOのやり方は間違っている」と、W社長は同業者批判をします。W社長曰く、「自分のホームページに手を加えるSEO(一般的に内部SEOと呼ばれるもの)には限界があり、実用に則さないと」のこと。

この方法はWebページを構成する「HTML(あるいはXHML)」を操作して検索エンジンの認識をコントロールするもので、技術的には簡単です。それゆえ、誰もがこれに取り組むようになり、検索エンジン側は「対策の対策」に乗り出し、イタチごっこになっているのは事実です。

主催者発表ではセミナー参加者は中小零細企業だったので、Webページを持っている人が大半でありSEOに期待をかけていました。「SEOが通用しない」と聞いた参加者の顔に浮かんだ不安を払拭すべく、W社長は笑顔で「そこで」と言葉を継ぎます。

買ったSEOははたして有効か?

「簡単なSE0とは買うこと。実用に乏しい内部SEOに頼るよりも外部リンクを買うべき」と、W社長は断言します。

検索エンジンはWebサイトに「ランク」を付けて評価しており、高いランクのサイトに張られたリンクは価値も高いと解釈します。ランクの高いサイトからのリンクを買うことを「外部リンク」と呼び、検索結果の上位に上がりやすくなると言うのです。

さらに、外部リンクを買うお金のない人向けの「簡単なSEO」として、「ユニークキーワード」を掲げます。めったに使われない珍しいキーワードや「入れた手のお茶(正しくは"入れたてのお茶")」のような誤変換語句でSEOを仕掛ければ、そこにライバルはいないという触れ込みです。

W社長の講釈はまだまだ続くのですが、本稿の読者が真に受けても困るのでここまでにしておきましょう。

「買う」は数年前まで有効とされていた方法ですが、検索順位が金銭で決まれば検索結果に対する不信を招くことになり、検索エンジンにとっては死活問題です。そこで、検索エンジン各社は現在対策をとっており、「外部リンクの売買」が見つかれば検索対象から外されてしまいます。場合によっては「買った」金額以上の損をするリスキーな方法です。

「ユニークキーワード」は有効ですが、そもそも「検索される回数」が少ないキーワードで上位になっても商売上のメリットは大きくありません。やらないよりはやったほうが良い方法ですが、これだけで行列ができることはないでしょう。

1,000円でライバルを出し抜こうという安易さ

W社長のセミナー受講料はテキスト代の1,000円だけと安価です。「簡単に行列ができるSEOを安価に学び、ライバルに差をつけよう」というわけです。

これは一種の「企業努力」と呼べますが、ラクして儲けたいという心理は詐欺を招く背景となります。あなたなら、行列ができる方法をわずか1,000円で教えるでしょうか? 先のキャッチをうたっておきながら1,000円の受講料に見合った内容の講演をするとなると、冒頭の設問の「1」に重なります。

また設問「2」と同様、W社長が悪意をもって「使えないSEO」をレクチャーしたなら詐欺と呼ばれるかもしれませんが、無知から生まれた「SEO 0.2」なら罪に問うことは困難です。カネの計算が苦手であることを露呈した現政権だって、「政治とカネ」といった重要事案も「知らなかった」ですべてが解決されると明確な方針を打ち出しているのですから、一般市民もそれに従うべきでしょう。

そして、政権交代の前後で発言が変わったとしても、体重が増えた人生の伴侶と同様、詐欺と罵ることなく「友愛」をもって接しなければなりません。

皮肉はさておき、日進月歩のIT業界は情報が毎日更新されます。最新情報にキャッチアップするだけで1日が過ぎてしまうような世界です。その中で「簡単な方法」で行列ができるようなウマい話を語る講師がいたら、「0.2」の可能性が高いのでご注意ください。

エンタープライズ1.0への箴言


「詐欺的な話を避けたければ、ITにもセカンドオピニオン」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi