株式格言で見ると

相場格言に「政策に売りなし」というものがあります。政策に関係する銘柄は、必ず上がるというもので、今年は訪日外国人客の増加を目指す政策に連動した「インバウンド銘柄」の上昇が目立ちました。また、日本年金機構のサイバー攻撃をきっかけに、来年より稼働する「マイナンバー」への対策から「セキュリティ関連銘柄」も爆騰。そして来年の注目株が「フィンテック銘柄」です。

フィンテックとは「Finance」と「Technology」をかけた造語で、金融と情報テクノロジーの融合として使われていますが、指すところは「ネット銀行」から「ネット証券」、さらには「おサイフケータイ」までと幅広く、明確な定義のない、いわゆる「バズワード」にすぎません。「ビッグデータ」が不発に終わりつつあり、とある新聞社が必死になって盛り立てている様子も見えますが、キーワードが定着するかはともかく「国策」であることは、金融庁の動きからも間違いありません。

狙いは増税

首相の諮問機関で金融庁に設けられた「金融審議会」は18日の作業部会で、銀行グループにIT関連企業への子会社化も含む出資を認める規制緩和を打ち出しました。戦前の財閥支配の反省から、銀行は他業種への出資に規制がかけられているのです。その規制緩和とは、まさに「フィンテック」が国策である証。文字通り血肉を分けた兄弟と言える財務省への援護射撃です。

財務省が目論む、消費税の"さらなる"増税を目指すには、軽減税率に代表される複数税率は避けて通れず、複数税率を実施するには「インボイス」が不可欠となります。ザックリと「インボイス」を説明すれば、納品書に消費税額を明記すること。消費税はお客から受け取った消費税から、仕入れなどで支払った消費税の差額を納税する仕組み。複数税率が導入され酒類が10%、米や塩が8%となった場合、それぞれ支払った消費税額がわかる「納品書」が必要となり、これが「インボイス」と呼ばれています。なお、「さらなる」とは、次に予定されている増税の先の話です。

残念なクラウド

インボイスには、中小零細企業の事務手続きの負担が増すとの反対の声もあります。しかし、いわゆる「POS」システムを利用している企業なら、プログラムの一部改修で対応できます。なぜなら、大半のPOSシステムは、商品ごとに非課税、内税、外税といった「税区分」と、それぞれの「税率」という情報をもっているもので、現在でも「複数税率」に対応しているからです。個別の「商品名」を印字できるレジなら対応していると見て間違いありません。

消費税に対応するレジの開発に当たり、すでに消費税(付加価値税)を導入していた、海外諸国の事例を確認するなかで、かならず複数税率の時代が来ると確信していた、とは筆者のプログラマー時代の師匠の27年前の言葉です。

そこから物流の現場レベルでは、おおよそ対応できるというのが筆者の見立て。しかし、問題はITの側にあります。いわば「国内フィンテック」とも言える、業務用の会計・経理ソフトには、「単一税率」しか対応していないものが少なくありません。

税率変更時に新製品を買わせる狙いがあるのでしょうが、クラウド系の新規参入組も、既存ソフトに揃えた設計が目立ち、また料金体系は利益を分け合うような価格設定になっており、自然発生的「護送船団方式」と言って良いのが、国内のIT会計「フィンテック0.2」なのです。

さらに、ネット通販におけるレジにあたる「ショッピングカートサービス」にも「一括税処理」が目立ち、著しく遅れています。そこで異次元金融緩和で「金あまり」に頭を抱える銀行に、IT企業を買収させ、「フィンテック」を促進させるとは、表向きの理由と睨んでいます。

財務省の真の狙いは

「フィンテック」によりお金の流れが「電子情報」になれば、財務省はそのすべてを苦も無く補足できることになります。かつて商品券レベルの「地域通貨」を猛然と潰した財務省が、いま事実上の通貨である「ポイント」を放置しているのは、その流れを完全に補足できるからだと言われています。

補足できていれば、具体的数値を示しての「課税」も容易。そこに「マイナンバー」が加わり、実際のお金の出し入れ移動を担う「銀行」が絡めば、ほぼすべてを監視下におけ、次なる増税をスムーズに進めることができる……とは考えすぎでしょうか。

会計の電子化は、もはやExcelを使わないデスクワークが考えられないように、いずれ定着するのは時代の流れながら、フィンテックは米国から生まれた言葉で、ウォール街を擁するニューヨークから、ハワイ、グアムまでを領土を抱える米国にとって、金融・会計情報の電子化には多大なメリットがあります。

また、紙幣への信頼度の低い国では、小切手より安全で利便性の高いフィンテックへの期待は高いでしょう。ひるがえるは我が日本。先日、民営化した「ゆうちょ」の店舗は2万4000軒を越え、5万3000軒のコンビニ店舗にもATMが設置され、いつでもどこでもお金を出し入れできます。

加えて世界最高水準の紙幣印刷技術を誇り、その紙幣への信頼の高い我が日本において「フィンテック」は、一般企業や一般人のレベルでは、海外ほどのメリットがないことを振り返っておきましょう。

エンタープライズ1.0への箴言


会計分野のIT化が遅れているのは事実だが

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」