またパクリ疑惑浮上
東京五輪のエンブレムへのパクリ疑惑、いわゆる「サノケン騒動」の余韻も残るなか、再びネットを席巻したパクリ疑惑が「&TOKYO」。
東京都による、東京ブランドの推進に向けたキャンペーンのロゴで、そこに使われる「&」が、フランスの眼鏡メーカーや、ニュージーランドの弁護士事務所のロゴに似ているとネット上では大騒ぎになっています。
疑惑を問われた舛添要一都知事は「まったく問題ない」と一蹴。都知事は、同様の「&」のデザインなど「ごまんとある」と反論。
つまりはありふれているので著作権に触れることはなく、一方で商標権を取得しているので法的な問題は無いとの見解を示します。サノケン騒動もエンブレムそのものには、法的な問題がなかったことを、都知事はお気づきではないようです。
何より、ブランドとは「差別化」と呼び替えることもでき、都知事自らが「ごまんとある」というロゴで「東京ブランド」なるものを発信できるのかが疑問です。そしてその「ごまん」のために500万円が投じられているザマは、都民のはしくれとして首をひねります。
予算は1億3000万円
東京ブランド発信のための予算の総額は1億3000万円。商標の調査で2540万円、イメージ映像の制作に7000万円。
そのイメージ映像には、「魚屋のオヤジ」として「ビートたけし」が登場しており、「世界のキタノ」のギャラがどれだけのパーセンテージを占めるかに興味が尽きませんが、何より納得がいかないのがロゴのデザイン料の500万円です。
他の追随を許さない、圧倒的な説得力を持つデザインならばともかく、「ごまん」とあるデザインへの報酬として500万円は法外でしょう。
この予算が承認された2015年3月時の資料には「ロゴ・キャッチコピーなどの制作」の説明として「第一線級のクリエイティブディレクターを設置し制作」とあります。
一線級の人材を投入して、仕上がったのが「ごまん」とは、その人選に問題があったということです。構図としては「サノケン騒動」にそっくり。
しかも、その一線級の人物とは、永井一史氏で、彼の御尊父はサノケン騒動における審査委員の代表永井一正氏です。これもネット民を熱くさせている理由です。
文法がおかしい
おかしなことはデザインだけではありません。このキャンペーンの特設サイトでは、「&TOKYO」をこう説明しています。
「&」が表しているものは、東京がつくりだすたくさんの「つながり」です。
先の記者会見で都知事は「キャンペーンの最大のポイントは展開例なのです」と力説し、特設サイトに掲載された「展開例(使用例)」にはこうあります。
- MORNING&TOKYO
Google 翻訳で訳すと「朝と東京(Asa to Tokyo)」。どういう意味でしょうか。さらには
- WELCOME&TOKYO
とあり、それは「ようこそ、東京」。歓迎の挨拶は「ブランド」ではありません。
英語表記に無理があるのは、記号としての「&」だからだと強弁するにしても、「海外」に向けての発信なら、ネイティブに通じる表記に留意すべきではないでしょうか。
さらに、先の資料で「東京のブランドコンセプト 」の説明はこうあります。
伝統と革新が交差しながら、常に新しいスタイルを生み出すことで、多様な楽しさを約束する街。
生み出された新しいスタイルとやらは、「伝統」を踏襲しても似て非なるものでなければならず、なにより「多様性」と「楽しさ」をプロミスするものではありません。英語どころか日本語も怪しいのです。
ちらつく大手広告代理店の影
一般的にコンセプトとは、ひと言で言い表せるものでなければなりません。コンセプトは軸であり、方向性でもあるからです。
対して「東京ブランド」の先の説明を、ひと言で置き換えるなら「あれも、これも」。明確なビジョンがひらめかなかったのでしょうか。
あるいは利害関係者の意見集約に失敗し、意味ありげな言葉を並べることで、都合良く解釈できることを狙った「コンセプト0.2」でしょうか。そもそもパクリ疑惑は、ロゴだけではありません。
「&」の説明にあった「つながり」です。
2012年にオンエアされた「東京メトロ」のCMでは、イメージキャラクターの武井咲さんが「つながる」を繰り返していました。気になって調べてみると、このCMの企画制作は「東京ブランド」も受注している博報堂です。「&」はともかく、コンセプトそのものが、過去のCMコンセプトからの自己模倣が疑われます。
何より舛添要一都知事は、ロゴマークを選定した理由を、ラブをハートマークに置き換えた「アイラブニューヨーク」をイメージしていると公言しました。
その発想がすでに「パクリ」です。新国立競技場の建設見直しについて、あれだけ批判をしていた舛添都知事。サノケン騒動の時に彼が傍観者を決め込んでいたのは、身に覚えがありすぎたからと思えてなりません。
エンタープライズ1.0への箴言
ひと言で説明できないコンセプトは失敗
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」