めざせ!2万円

配当権利確定日から続いた株価の下落も、新年度に入り落ち着きを取り戻しつつあり、「2万円」は通過点というのが株式関係者の大方の見立てです。一方で、同志社大学大学院教授の浜矩子氏のように、日経平均株価が「5千円」に下落しても不思議ではないと指摘する人物もいます。どちらが正しいかはともかく、株式投資は自己責任、いわば「ギャンブル」です。

その「ギャンブル」に年金資金を突っ込むのかと、国会で問いただしたのが民主党の長妻 昭議員。確かにその「リスク」については議論が必要ですが、現在の日本の株式市場を「ギャンブル」として、競馬や競輪と同列に語るのは、競馬や競輪に失礼な話です。

サイバーエージェントの本音

「アメブロ」でお馴染みのサイバーエージェント藤田 晋社長は、密着取材のカメラの前でニヤっと笑いながら、「金を借りるより上場する方が、簡単に金が集まる」と言ってのけます。

会話の相手は、創業した上場企業を業績不振により追われた女性です。両者の親密さは昔からWeb業界では有名でしたが、密室の雑談ならともかく、公の電波の前でシレッと語るところに、CMが騒がしい「755」を始め、さまざまなベンチャーへ出資する企業の経営者としての本音が漏れたのでしょう。

その態度は投資者を「カモ」と見ているようでした。ちなみに、藤田氏はテレビ放送の後に公開された「東洋経済オンライン」の取材で、現状を「バブル」と警鐘を鳴らしていました。状況により発言を使い分けることを「二枚舌」と呼びます。

もっとも、藤田氏が指摘する通り、株式市場は「バブル」の状況下にあります。経済の循環において「バブル」というのは定期的に繰り返し、善悪ではなく、経済現象のひとつに過ぎません。しかし、東京証券取引所の「リスク」は「バブル」ではありません。「胴元」としての役割を果たしていないことです。

30億円の借金を秘密に

ソーシャルゲームを提供する「gumi」は、昨年の12月に、新興市場を経ず「東証1部」に上場しました。株式市場は事業規模などでランクがあり、いわば高校球児がいきなり「メジャーリーグデビュー」したようなものです。

ところが「gumi」は、上場後、初の四半期決算発表の前日の3月5日、それまでの黒字予想から一転して「赤字」と業績の下方修正を発表します。入念な準備の末に迎えたはずの上場直後の決算では極めて希なケースです。

さらに、年明けすぐの1月には、運転資金として30億円を借り入れていたのですが、その事実を発表したのは、赤字発表の翌日の3月6日です。30円ではありません。30億円です。

こうした資金の流れは、速やかに公表されなければ投資家の判断を誤らせてしまいます。いわば「30億円の借金」を抱えた事実を、隠されたまま「gumi」の株式は取引されていたのです。赤字転落の理由を会社側は、「想定外」が重なったがためと説明しますが、その真偽を確かめる方法を投資家は持ちません。

長妻昭氏が国会で問いただしたように、株式市場には「リスク」が伴います。だからこそ、上場企業には、投資家に迅速で、嘘偽りのない説明責任が課せられているのです。

ところが、液晶パネル製造の「ジャパンディスプレイ」も上場直後に業績の下方修正を行い、節電サービスの「エナリス」は上場から1年もせずに「不正会計」が明らかとなりました。

エナリスは上場時点で不正が行われており、「そもそも上場する資格がなかったのではないか」という疑問が持たれていますが、これらの企業の主幹事証券会社はみな同じです。

怪しいIPO発見

主幹事証券会社とは、上場を取り仕切るプロデューサーであり、マネージャーであり、競走馬で言えば「厩舎」のような存在です。競走馬にとって血統や馬体重の増減は、競争結果に強く影響を与えるので、ここでの「嘘」を見逃せば「競馬」という競技そのものの信用がなくなってしまいます。仮に同じ厩舎から不正が続くなら、厩舎ぐるみの不正が疑われるべきで、中央競馬の胴元「JRA」なら断固たる手段を講じることでしょう。

古今東西、すべての博打の責任は賭場を開いている胴元にあります。ところが、この4月以降も、先の厩舎は株式市場に競走馬を送り込みます。東京証券取引所は厩舎への制裁はなにもせずに、競走馬を受け入れつづけている「ギャンブル0.2」です。

この春、上場を予定している競走馬は直近で3億円の赤字。その理由は執拗に放送し続けるテレビコマーシャルにあります。ふいに、倒産直前まで過剰にCMを流し続けた「アーバンエステート」を思い出したのは、春の嵐のイタズラでしょう。

節電支援の「エナリス」などは、創業者自らが不正を働いておりました。そこから、これを見抜くのは困難……という言い訳は通用しません。なぜなら、不正を炙り出したのはWebサイト『東京アウトローズWEB速報版』で、公開情報から疑惑に辿り着きました。

内部情報を入手できる、「証券会社」にそれができないのなら、「無能」か「グル(共犯者)」のどちらかです。本稿執筆時に、東京証券取引所を要するJPXの代表交代の一報がはいりました。退く代表は、その疑惑の厩舎の出身です。

長妻さんと異なり、年金資金を株式市場に投資することに賛成の立場です。ただし、不正のない「賭場」ならばという条件付きで。

エンタープライズ1.0への箴言


不明瞭を放置する限り、東京証券取引所は賭場未満

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」