What's Tokio

またぞろ「0.2」な香り漂うお祭りが始まりました。「新gTLD」を巡る喧噪で、代表例が「.tokyo」。「東京都」をモチーフとしたドメイン(正確にはTLD:Top Level Domain)で、「.com」や「.jp」に「.tokyo」が加わるということ。「.tokyo」のような新しいドメインを総称して「新gTLD」と呼びます。モチーフとしたのは公的な裏付けを持たないからです。

運営開始にあわせて行われた記者会見では、アイドルグループ「AKB48」が「.tokyo応援団」に就任すると発表され、駆けつけた舛添要一都知事が祝辞を述べます。

"(略).tokyoを世界一のドメインにしてもらい、世界一の都市東京を作る一助になることを期待している。東京には様々な魅力があり、世界に発信すべきものをたくさん持っている(日経新聞ネット版より引用)"

舛添都知事は自らを「国際政治学者」と称しています。ならば「Tokyo」の難点を指摘して欲しいものです。なぜなら東京を「Tokio」と表記する国が多くあるからです。ボスニアのサリホヴィッチさんに「東京を指すドメイン」と伝えると「.tokio」と入力することでしょう。東京の魅力的なコンテンツを「.tokyo」で発信しても、「.tokio」と入力されれば、世界に伝えることなどできません。

ちなみに「TOKIO」で連想するものにより、年代が分かれます。古い順に「ジュリー」「ジュリアナ」「ジャニーズ」。ジュリーの意味が分からない若い読者は、近くのオジサンに訊ねてください。

理解不能なドメインの数々

選択肢の増加は混乱と連動します。すでに10年以上前に認められた「.cat」とは「ネコ」ではなく、「カタルーニャ語を用いる組織、個人」を対象としたドメインです。アジア太平洋地域を対象とした「.asia」も同じくで、そもそも「.jp」のようにドメインは「地域」や「属性(民族)」を意味していました。ところが今回の「新gTLD」では、「HAMBURG」や「BEER」もOKとなるのですから、カタルーニャがネコになる日も近いことでしょう。

ドメイン管理の総元締め「ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers:アイキャン)」は自由化と謳います。「新gTLD」は誰でも申請できますが、18万5千ドル必要で、これは彼らの取り分となります。一方、取得した「新gTLD」は、その利用者から登録料と管理料を徴収できます。ICANNを頂点としたピラミッド構造で、「新gTLD」の種類が増えれば増えるほど儲かる仕組みは、ヤクザの上納金(代紋)に似ています。ICANNの初代会長も「ドメイン名の管理組織が金儲けのために考えついたことです」と指摘しています。

増えすぎたドメイン

全国に展開するある企業は「okinawa-企業名.com」のように、支店毎にドメインを取得しサイトを運営していました。サブドメインで振り分ける手法もあるのですが、ドメインの「先願性」から他社に抑えられる前に取得する方針だったのです。全店で共通するイベントでは「イベント名-企業名.com」とさらに追加していました。ドメインの取得と管理費は、それぞれ最大でも年間数万円程度で、企業から見ればたいした負担ではありません。

そして管理ドメインが20を越えると、

「sale-企業名.com」 「fair-企業名.com」 「tokubai-企業名.com」

と、似たような意味のドメインが増え、Web担当者ですら、それぞれのドメイン毎の取得目的を把握していません。そしてルーティンワークのようにドメインを増やし続ける、この企業にとって「新gTLD」は朗報でしょう。「sale-企業名.tokyo」とすれば、ドメインを考える手間が省けるからです。そして、2年前の日付のセールやイベントが放置され続けている「ドメイン0.2」です。ドメインを増やすばかりで、サイトの管理、コンテンツの充実がおざなりになっているからです。

実はAKBも0.2

「.tokyo」の応援団AKB48グループにも「ドメイン0.2」の影を見つけます。AKB48には様々なジャンルとレベルのファンクラブがあり、それぞれにサイトを持っているのですが、いくつかのサイトでは「2012年」「2013年」のイベントが放置されているからです。ファンクラブを細分化しすぎて、運営側がすべてのサイトを把握していないのかも知れません。

不用になったドメインを放棄すると、それを取得して悪用する業者がいます。サイトが公開されていたドメインには、一定の訪問者がいて、アダルトサイトなどの誘導に使えるからです。ドメインに企業名があれば、イメージダウンとなりかねません。これを避けるには、取得したドメインは、企業が継続する限り保持し続けなければならず、安易なドメインの取得は「放棄ドメイン問題」として、密かに企業の負担を増加させています。

エンタープライズ1.0への箴言


「安易すぎるドメイン取得はコスト負担が増加する」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」