楽天が社内公用語を英語にした真の理由
不思議な主張そのいち。
「グローバル化のために社内公用語の英語化」
英語が話せても、内容が伴わなければ、誰も相手にしてくれないのがグローバルスタンダード。そして魅力溢れる企業には、その企業の公用語を学んでまで入社したいという希望者が門前市をなすのもグローバルスタンダード。言葉の問題は論理のすり替え。
不思議な主張そのに。
「外資系企業に優秀な人材をとられるのではないか」
2012年より3年生の12月になった大学生の就職活動解禁を、4年生の4月まで繰り下げるという政府提案への「楽天」三木谷浩史社長の懸念です。就職協定を結ばない外資系企業が、優秀な学生を青田買いするというもの。しかし、この主張はバブル経済華やかりし20年以上前、就職協定が4年生の8月だったころからあったもの。そして外資にばかり優秀な人材が集まったという統計結果はありません。先の英語と同じく、就職先を決定するのは、企業の魅力が最大の要因だからです。
両者を重ねると三木谷浩史氏の「本音」がみえてきます。
ゴルフ、野球、そしてサッカー
外資系企業では「中途入社」がスタンダードです。そもそも「即戦力」が雇用の前提条件で、即戦力にならない新卒を大量に採用する習慣がないのです。「年俸制」を採用するのも、プロスポーツ選手のように「戦力」としての評価で、IT系に散見する一部の日本の企業のように、残業総額を抑えるための「年俸制」ではありません。母国語を捨ててまで、グローバルを目指すIT企業「楽天」が国内の新卒にこだわるのは世にも不思議なはなしです。
総従業員数50名弱の広告代理店のS社長は「グローバルスタンダード」を標榜し、年初に所信表明として、全社員むけに以下のメールを送りました。
≪創業期はゴルフ型。ひとりで選択し、行動し、結果を出す。すなわち個人の能力に依存する経営。次のステージは野球型。決められたポジションで全力を尽くす組織型経営。そしてこれからの我が社はサッカー型にならなければならない。ポジションに安住することなく、ディフェンダーでも得点を狙いにいくサッカーのような組織を目指す≫
上意下達の指揮系統を改め、社員の自発的行動を認め、セクショナリズムを飛び越えることを奨励したのです。
突然の稟議書
そして組織の枠を越えて活動する社員が途中入社してきました。職歴を活かし、つぎつぎと新しい事業を立ち上げていきます。即決が求められることも多く、社員はできるだけ迅速に、電子メールやグループウェアで報告をあげていましたが、ある日
「すべて稟議書を書くように」
とお触れがでます。紙の稟議書に係長、課長、部長の決済印が押され、関係各所の了承印がなければ、その時点で差し戻されます。すべての判子が揃ってはじめて、月一回の役員会議に諮られ、結論が出なければ翌月まで先送り。特にIT系の企画は、半年以上棚ざらしにされることが多く、時機を逃します。
グループウェアに上げられた報告をS社長は見ていました。しかし、理解はしていません。そして自分の理解を越える動きを好みません。というか嫌いです。権謀術数を駆使し、ライバルを蹴落とし、社長になったS社長は、社内の全ての動きを把握していないと気が済まないのです。そこで社員の動きを、自分の理解の範囲内に落とし込むために「稟議書」を求めた「グローバルスタンダード0.2」です。
外資系企業の真実
外資系企業は人材を使い捨てにするという批判もありますが、社員の能力を最大限利用するということです。支払う給料を戦力に応じた「投資」とし、投下資本利益の最大化を目指しているのです。S社長のように社員の能力に足枷をつけるような経営者は、株主に追放されるのがグローバルの世界です。また、中途入社がグローバルスタンダードである理由は、それぞれのプロフェッショナルを求めるからです。つまり、日本企業以上にセクショナリズムが強いということも知らないS社長は0.2なのです。ある、外資系IT企業の社員(中途入社)は、社内での昇進を期待していないといいます。なぜなら管理職は他社からヘッドハンティングするもので、昇進という概念はなく、類するものはより良い条件での他社へ移籍(キャリアアップ)だからです。
むしろ「新卒一括採用」は楽天が目指すグローバルスタンダードでは「奇習」です。プロサッカーチームが、ボールを蹴ったこともないアマチュアを入団させるようなものだからです。世界がアマチュアを嫌うのは、いちからサッカーのルールを教えなければならないからです。一方、サッカーのルールを知らないアマチュアなら、ラグビーのルールを教えても、それを疑うことはありません。待遇を比較するよすがをもたないからです。「新卒一括採用」とは「社畜」を育てるには最適なシステムです。
楽天が新卒を求めるのは、ネイティブに英語を操れ、グローバルスタンダードを理解するプロフェッショナルが、楽天という企業に魅力を感じないことを自覚していることの告白です。
エンタープライズ1.0への箴言
「グローバルスタンダードの実態を知る」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。