ステマはWeb業界の「日常風景」

食べログの不正投稿で注目された「ステルスマーケティング(ステマ)」。食べログは不正投稿を排除するためと、携帯電話による本人確認制度を導入しました。しかし、これは本質的な改善には繋がりません。

すでに取得されている匿名アカウントが大量にありますし、「本人確認済み」のアカウントを集めれば不正投稿はいくらでも可能だからです。Webの世界で「アカウントの売買」は日常的に行われており、ツイッターではフォロワー数、Facebookなら「いいね!」の多いアカウントには高値がつきます。

そもそも、利益該当者であることを隠し中立的な立場を装い推薦することを「ステマ」と定義するなら、Web業界で「ステマ」は日常風景であり、以前「ソーシャル疲れ」を取り上げた回で引用したエイベック研究所の武田隆代表の以下の発言に凝縮されます。

「ソーシャルメディアがすごいと発言しているのはポジショントーク(筆者要約)」

つまり、「推薦」することが自分の利益に結び付く人が多いのです。Web業界がステマを批判することは、天に向かって唾を吐くようなものです。

クチコミの光と闇

全国に十数店舗を構えるエステチェーンのY会長は、そのカリスマ的指導力からお客とスタッフに慕われていました。ただし、光があるところには闇が生まれるように、Y会長を嫌って辞めたスタッフやお客も少なからず存在します。また、高額なプランもあり、効果効能には個人差が強く表れます。「10キロ痩せる」と勧誘され、1キロしか痩せなければ不信感を生みますし、食べても痩せると入会したのに肥ったとなれば、怒り心頭に発することでしょう。

客側に問題があることもあります。10キロ痩せる努力と1キロのそれの違いは明らかなのに、楽なプランをチョイスして結果だけを高望みし、食べても痩せるとは「鯨飲馬食」を励行しているのではありませんが嘘つきと詰(なじ)ります。トラブルの種が尽きないのがエステ業界で、「クチコミ」が悪評を増幅させます。

今、匿名掲示板にY会長のチェーンの罵詈雑言が並びます。

「関連語の選定基準」を逆手に反撃

以前は匿名掲示板など無視していればよかったのですが、検索エンジンが「関連語」を表示するようになってから、チェーンの名前にプラスして「詐欺」「失敗」「痩せない」といった言葉が検索結果に並び、店の評判を左右するようになったのです。

関連語の選定基準は検索エンジンによって異なりますが、グーグルの場合、ネット上のコンテンツから特定のキーワードと同時に掲載されている語句をピックアップすると見られています。匿名掲示板のスレッドに「社名」が入り「悪口」が投稿されていると、両者が組み合わせられ「関連語」に挙げられるということです。

この仕組みを逆手に取り、Y会長は反撃を目論みます。つまり、「良い評判」で埋め尽くせば関連語を塗り替えられるという狙いです。スタッフや協力してくれるお客に対し、掲示板やブログに書き込むよう号令を出します。

さて、これは「ステマ」でしょうか。号令をかけている時点で、限りなく黒に近い気もしますが、協力してくれたとはいえ、お客は自分の感想を投稿しただけです。スタッフも自社のエステは体験済みで、その感想を述べるだけなら「やらせ」という批判は妥当ではありません。その上でスタッフが「うっかり身分を告白することを忘れること」だってあるでしょう。

実は、センセーショナルに報じられた、食べログの事件が尻つぼみになっていったのは、どの業界でも似たようなことをしており、丁寧にほじくり返せば、それが「墓穴」になりかねなかったからです。

他人を装った作文は難しい

全社を挙げての総攻撃は見事に失敗しました。なぜなら、投稿の大半がカリスマ的指導者Y会長を讃え、また、一般客なのに「施術していただき」「相談にのってくださり」といった尊敬語になっていたからです。もちろん、感謝するお客がいても不思議ではありませんが、全部がこれでは「身内の投稿」と勘ぐられるのは当然です。

そして、悪口のネタを探しているアンチ派がそれを匿名掲示板であげつらい、火に油が……ネットスラングでいうところの「燃料投下」と相成りました。いわゆる「炎上」。第三者を演じきれずに事態が悪化した「ステマ0.2」です。

FM Nack5の人気番組『夕焼けシャトル』でステマについて解説を求められて出演した時のこと。MCの黒田治さんから鋭い質問を頂戴しました。

「(ステマを)業者に頼まずに自分たちでやらないのはナゼか?」

的を射た質問への答えはこうです。

「他人を装って文章を書くのは難しいから」

そもそも、素人が文章を書くだけでもハードルが高く、さらに「他人のふり」をして誉め言葉を羅列するのが難しいことは、Y会長のケースから明らかです。リアルでの人間関係や状況を切り離して作文をするには「創作」レベルの構成力が求められ、業者に任せたほうがはるかに楽だからです。また、時間の関係で割愛しましたが、Web業界には「創作」レベルのポジショントークが得意な人材に事欠かず、需要より供給が多いこともステマが繁殖する理由です。

エンタープライズ1.0への箴言


「ヤラセは意外と難しい」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi