鳶のアルマーニでファッションを語る

またぞろ始まりました、「これからは○○」。その最新バージョンが「Google+」です。Google+とは、検索エンジン世界最王手のGoogleが試験中のSNSで、ソーシャル時代の切り札として鳴り物をならすWeb業界人で溢れかえっています。それが証拠に、Google+でフォロワー数を集計したランキングにはWeb業界人がずらずらと並んでいます。

同好の士が集まる小さな世界でのトレンドを否定するつもりはありませんが、それをもって「世界が変わる」「ビジネスが変わる」という大騒ぎは「鳶服のアルマーニ」と称される「虎壱」をもってモードの世界に革命が起こると語るようなものです。

Web業界の「これからは○○」は「0.2」です。彼らの唱える「これから」の話では、過去は忘れられ、来るべき新世紀を実力以上に過大評価します。かつてはGoogleを礼賛し、「既存のビジネスを破壊する」とまで煽りましたが、Googleはサブプライムローンではありません。Google+でSNSに乗り出すのは、ソーシャルの波に乗り遅れたことでGoogle自身のビジネスが破壊されようとしているからです。

今回は最新版「0.2なWeb言論」。新世紀と言えば、新世紀エヴァンゲリオンに登場する「NERV作業服」を「虎壱」が予約販売しており、9月30日まで受け付けております。お好きな方はお早めに。

Web業界の新星が登場!

まず、Web言論界期待の新星Aくん。プロフィールはコンサルタントを皮切りに、プランナー、映像作家、そしてSNSセミナーの講師と多岐にわたるのは、Web業界人に特徴的なプロフィールです。俗に「いっちょがみ(一枚噛む)」と呼ばれるもので、何でも少しだけ参加したり、取り組んだりして肩書きに加えるのです。

良くあるケースが、業界人の集う「オフ会」での雑談でも「○○プロジェクト参画」と加えるもの。私が知っているなかでも最高傑作は、某出版社系の地域サイトのアルバイトをしただけで「地域活性化プロジェクト参加」としていました。

AくんはFacebookの素晴らしさを紹介する書籍を2冊出版しております。出版後は全国各地でセミナーを開き、Facebookの利用法について啓蒙して廻っています。そんなAくんのブログにこんな記述がありました。

「Facebook、ぶっちゃけ流行ってねーし(筆者要約)」

冒頭に紹介した「Google+」をほめそやすエントリーでの記述です。Facebookを啓蒙した同一人物が、さらっとこんなことを言えるのがWeb言論の特徴です。

Web2.0の正体とは?

Aくんはまだ可愛いものです。Web言論界では朝令暮改は常識で、舌の根の乾かぬうちに前言を翻す猛者で溢れています。そんな猛者の1人のBさんは、共著もあわせてWeb関連の解説書を20冊以上出版しています。彼の書籍テーマを出版年月日ごとに並べると以下のようになります。

  • ブログ
  • フィード
  • Web2.0
  • Twitter
  • ソーシャルメディア
  • Facebook

Web業界のトレンドをそのままなぞっています。Aくんを可愛いとし、Bさんを猛者と呼ぶ理由は2つ。先に挙げたどのテーマもせいぜい1冊の書籍に仕上げるぐらいしか情報の濃度はなく、拙著『Web2.0が殺すもの』の執筆時も苦労したものです。言葉の定義を弄び、新興企業の成功事例だけをつなぎ合わせて都合良く解釈し、実態が存在しないブームが「Web2.0」の正体であり、端的に述べると、以下のようにTwitterの140文字でも余ってしまったからです。

「意味の異なるものに統一感を与え、新しい時代がやってくるかのように錯覚させるマーケティング用語」

Webのトレンド(笑)の実態はいつもそんなものなのです。Aくんの著書はFacebookをテーマにしたものが2冊ですが、Bさんはそれぞれのテーマで何冊も発刊しています。しかも、ブログやTwitterなど「使い手」のリテラシーがゆだねられる部分を無視して、「ビジネスで活用」と副題をつけるのですから見事です。

出版印税より儲かる世界

もう1つの理由は、Aくんは「これからはGoogle+」と、Facebookを腐したブログを書きましたが、Bさんは「Google+」をすでにテーマとした出版企画を通しているからです。実は、これこそがWeb言論界の代表的な特徴であり「これからは○○」が0.2となる理由です。

「ブームになる前の状態と、ブームにならないもののその前の状態は同じ」

つまり、本当にブームになるかどうかは誰にもわからず、宣言した時点では誰も否定できません。そこで誰よりも早く新しいネットサービスの名前を冠した「解説本」を出せば、ライバルがいないのでひとり勝ち。誰もが先を競って出版するわけです。

ここで「流行らなかったら、どう責任をとるのか?」という真っ当な疑問がでてきますが、ご安心ください。日本のWeb言論界においては「米国でブーム」だったものなら、吹聴した人の責任は問われません。話題になっただけでもOK。

「既存のビジネスを破壊」するはずだったGoogleは、日本の検索エンジンのシェアでは首位をとれませんでした(現在はヤフーとの提携で実質シェア1位となりましたが、Google名称でのサービスでは日本のヤフー後塵を拝し続けたのです)。

しかし、米国で流行していたものなら、「日本市場の特殊性」を言い訳にすれば、責任追究されないというコンセンサスがWeb言論界にはあるのです。だから過去の失敗を振り返ることもなく「これからは」と繰り返します。そして、今日も「これからは……」と、0.2な言論が量産されます。

しかし、日本市場の特殊性とは、ドメスティック(内向き)な日本人の性質や言葉の壁などを指すのですが、そもそも同じ日本人としてその違いに目が行かないなら、その目の玉は節穴なのですがね。

エンタープライズ1.0への箴言


「Web言論界の煽りはいつでも0.2」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi