自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第27回は太陽光発電を手掛けるWWB(東京都 品川区)を取り上げる。同社は東日本大震災などの災害時の支援や追悼イベントなどに積極的に参加し、ホームページなどでアピールしている。CEO(最高経営責任者)の龍潤生氏は、「社会貢献に関連する分野でビジネスをしている当社は、ブランディングを通じて世の中の方々に受け入れられることが仕事をする上で重要だ」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • WWB 取締役CEO 龍潤生氏

WWB 取締役CEO 龍潤生氏
早稲田大学大学院で修士課程を修めMBAを取得後、2006年にWWB株式会社を設立。学生時代に見たホッキョクグマが流氷の上で漂流するポスターに衝撃を受けたことで、環境問題に関心を持ち再生可能エネルギー事業を始める。
現在では、子会社が日系最大の太陽光モジュール生産工場をベトナムで稼働させており、製品を欧米へ供給するなど、日本国内に留まらず世界規模で再生可能エネルギーの普及拡大に邁進している。

ポイント

①企業ブランディングは会社が世の中に受け入れられることにつながる
②ブランドの弱い中小企業は良い製品をつくっても大企業に競り負ける
③東日本大震災時の「大キリン」投入など社会貢献がブランド力向上に貢献
④創業当初はブランディングの重要性に気付かず営業で機会損失も

本村:貴社は太陽光発電などに携わっています。事業の概要と貴社の強みを教えて下さい。

龍:WWBは太陽光などの発電所を宮城、福島、群馬など全国90カ所以上に持ち、電力会社に売電している再生可能エネルギー関連の事業会社です。太陽光関連の設備の販売や建設も手掛けています。東証スタンダード市場上場のAbalanceのグループ会社で、約50人の従業員がいます。

WWBという社名は、「ウィン-ウィン ビジネス」の頭文字を取ったもので、会社、家族、社会・ステークホルダー(利害関係者)の「三方良し」の精神を基本としています。地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)の排出量削減が課題となっている中で、私たちは太陽光を活用してこの課題を解決したいと考えています。

また、脱炭素を進めたい民間企業へのコンサルティングも実施しています。例えば、小規模な太陽光発電所を所有するよう提案したり、当社の発電所が発電した電気を購入してもらったりします。比較的小規模な発電所であれば、1億5000万~2億円程度で1メガワット程度の発電能力を所有できます。当社は、グループ企業に太陽光発電のパネルを製造している会社やメンテナンスの会社などがあることが強みで、クライアントがコストを抑制できるメリットもあります。

発電事業者と電力需要家が再生可能エネルギーに由来する電力の「電力購入契約(PPA)」を結ぶケースもあります。また、ハウスメーカーや工務店などに住宅用の太陽光発電システムを卸すこともあります。

  • WWBが運営する太陽光発電所

    WWBが運営する太陽光発電所

本村:「三方良し」を基本姿勢とされているそうですが、貴社のブランディングはそうしたことを反映しているのでしょうか。

龍:当社の場合、単純な経済的利益ではなく、お金に換算できない社会貢献をビジネスにしているだけに、ブランディングを通じて世の中の方々に受け入れられないと仕事になりません。逆に、当社が特別なブランドを作ることができれば、社会に受け入れられ、仕事も増えていきます。企業ブランディングにより「将来の子供や孫に安心して暮らしてもらう」というプライスレスな価値を見出してもらうことが重要だと考えています。

本村:ESG(環境・社会・企業統治)の考え方が広まるにつれて、太陽光発電の事業者の間での競争は激しくなっています。他社との差別化をどう考えていますか。

龍:私たちはライバル企業をそれほど意識していません。より多くの企業が参入すれば、地球温暖化などの社会課題はより早く解決します。当社のブランディングも重要ですが、太陽光発電の業界全体のブランディングも当社の使命だと考えています。

本村:中小企業や、B to B企業はブランディングが難しいとの声も聞きます。貴社の場合はいかがですか。

龍:中小企業は大企業と比べて資金が乏しく、宣伝が難しい面があります。宣伝したくてもどこにリーチしていいかが分からない上、そのノウハウも無く適した人材もいません。その結果として、営業をしても潜在顧客からの知名度や信用が大企業に比べて低いというデメリットがあります。

実際に、当社も営業面での壁を感じる場面が多くあります。潜在顧客の担当者は、リスクを取って失敗した時に責任を負うことを恐れ、サービスや製品の質で比較するのではなく大企業だから頼むという例が多くあります。

本村:ブランド認知の少ない中小企業がせっかく良い製品を作っても、有名な大企業に営業で負けてしまうケースがあるのは残念です。ブランディングの重要性を示す話かと思います。貴社で成功したブランディングの事例はあるでしょうか。

龍:2011年の東日本大震災の際に、福島第一原発で事故が発生しました。4号機のプールが干上がり、核燃料が溶け出して大量の核物質が放出されるリスクがありました。この時に活躍したのが巨大コンクリートポンプ車(愛称:大キリン)です。

これは、当社が販売代理店を務める中国の建設機械企業である三一重工に、私自身が仲間と共に掛け合って日本に持ち込んだものです。最終的に三一重工は大キリンを寄付してくれました。

  • 大キリン

    大キリン

2024年3月にヤフーニュースに関連記事が掲載されたこともあり、多くの取引先から問い合わせがありました。営業担当者もこうした話をきっかけに契約が取れることがあるそうです。また、今年入社した社員の1人は、当社が大キリンに関わっていたことを理由に入社してくれたそうです。営業面だけでなく、採用面にもブランディングが役立っています。

また、当社は東日本大震災の追悼イベントとして東京の日比谷公園で毎年開催される「Peace On Earth(ピース オン アース)」に、2014年から協賛しています。歌手のライブは、当社の太陽光発電を活用して運営されました。もちろん設備は無償で提供しています。

  • ピースオンアースにも協賛

    ピースオンアースにも協賛

新型コロナウイルス感染拡大の際には、マスクを委託製造して数万枚を行政に寄付しました。こうした社会貢献の活動はすべてホームページなどで開示しており、当社のブランディングに役立っていると考えています。

本村:貴社では、こうした社会貢献を報道してもらう努力をしましたか。

龍:当社は決してアピールが上手ではありません。地方のテレビ局から取材の依頼があった際には、受けようか迷ったくらいです。しかし、社会貢献活動をしていることは報道してもらえないと忘れられてしまいますし、他の方々の社会貢献にもつながりません。今では取材を受けて良かったと考えています。

本村:反対に、ブランディングの失敗例はありますか。

龍:企業ブランディングの重要性に気付くのが遅れたことが最大の失敗です。創業時はブランディングについて理解しておらず、ほとんど何も取り組んでいませんでした。やろうとしているビジネスが新しい分野だということで、どう取り組んで良いのかも分かりませんでした。そのため、営業面で大企業に負けるなどビジネス機会の損失が多くありました。

本村:Zenkenのサイトに貴社の記事が掲載されています。

龍:Zenkenとの出会いが企業ブランディングやITマーケティングを具体化するチャンスになったと考えています。太陽光発電の業界には、詳しい情報を分かりやすく知ることができたり、企業のサービスを比較したりできるサイトがあまりありません。

Zenkenのサイトでは太陽光発電の導入を検討している人を対象に、導入のメリットや補助金の話などを説明してくれています。こうしたサイトを読んで、太陽光発電や当社に関心を持つ人が増えれば、当社にとってもマーケットの開拓につながると考えています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。