自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、超大企業と違い、中小企業やB to B(対企業取引)企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。そこで本連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第11回は、無人運営によるフィットネスジム「LifeFit(ライフフィット)」を運営するLifeCoach(京都市)を取り上げる。同社はフェイスブックやLINEなどのSNS(交流サイト)広告を活用し、顧客やFC(フランチャイズ)の加盟者を増やしている。広告のデザインも自社で制作し、より成果が上がるように改善を重ねている。加藤恵多社長は企業ブランディングの意義について「高いモチベーションを持ち、経営理念を共有できる人たちと一緒に仕事をできるきっかけとなる」と話す。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
大学在学時の2020年(当時学部3回生)にフィットネス事業にて起業。在学時には体育会ラグビー部にも在籍。パーソナルジム→会員制フィットネスジムのオープン。現在はスタートアップとして、次世代型フィットネスジム「LifeFit」の展開とフィットネス領域に特化したプロダクトの開発を行っている。2022年3月京都大学医学部卒。
Twitter : https://twitter.com/Kato_Keita_
ポイント
①企業ブランディングは自社の経営理念を理解し共感してもらう重要施策②フェイスブック広告でFCオーナー希望者を募り、LINE広告でジム利用者を集客
③SNS広告には業態ごとに向き不向きがある。成果の出るSNSに資源集中し成功
④「次世代型フィットネスジム」など経営理念を強調した広告デザインで成約数が急増
本村:LifeCoachは無人運営による24時間制のフィットネスジム「LifeFit」を運営しています。事業概要と強みを教えてください。
加藤:IT企業のスタートアップの視点でジムを運営しています。利用者は、入会や休会などトレーニング以外の全てをオンラインで対応できます。アプリを使って1分で会員登録でき、わずか月2980円で施設を使えます。将来的にはアプリによるレッスンやパーソナルトレーニングなども検討しています。
また、当社はITを通じてジム運営を無人化するなど経営を効率化しています。ソフトウェアや広告、チラシも自社でつくっており、FC店のオーナーは2000万円前後の初期コストで出店が可能です。ジムを出店する場合、通常は8000万~1億円程度かかりますから、4分の1以下のコストということです。年内に100店舗のFCの出店を目指しています。
本村:御社の場合、ジムとしては珍しく、駅周辺ではなく住宅地に出店することが多いようです。
加藤:駅に近い場所に出店すると、どうしても家賃が高くなります。住宅地など通いやすいような場所に出店した方が家賃を抑えられます。一定の商圏の中の生産年齢人口や主要な顧客である20代の人の居住数を分析し、出店候補の場所が目立ちやすいかなども調べた上で出店します。
ジムの広さは30~100坪にとどめています。狭い分、売り上げ規模には限界がありますが、費用も少ないという利点があります。このため、空きスペースを利用したいビルのオーナーや飲食店など別の事業をやっている経営者などがFCに参加してくれることもあります。
本村:御社はIT企業のスタートアップ企業の視点でジムを運営する、いわば「フィットネスDX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しているように思います。ITの発達で企業ブランディングの世界も変容しつつあります。ブランディングが御社の事業にとってどんな意味を持つと考えていますか。
加藤:企業ブランディングは2つの大事なポイントがあると考えています。1つは採用面であり、もう1つはFCオーナーの希望者を集めることです。この2つに共通するのは、ブランディングを通じて当社の経営理念を理解し、共感してくれる人を集めることができることです。
ブランディングの効果もあり、当社の事業に参画してくれる人たちは「フィットネスや筋力トレーニングでより良い人生になった」という原体験を持つ人がたくさんいます。私自身も筋トレで自分に自信がついた1人です。「ITを活用したフィットネスを通じて、多くの人の生活を豊かにしたい」という当社の理念に共感する人が参画してくれれば、社員やFC店は高いモチベーションで仕事をすることができます。
本村:御社のインターネット広告のランディングページを拝見すると、FCオーナーの働きやすさを追究しているように感じます。これも一種のブランディングかもしれませんね。
加藤:当社は、FCオーナーの工数(ある作業が完了するまでに必要な時間と人数)をできる限り下げて負担を減らせるのが強みです。例えばFCオーナーが開業する際、(筋トレなどの)マシーンや出店場所の選定、どんな広告を出すかなどさまざまなことを助言し、伴走するようにしています。
本村:伴走していくFCオーナー募集のための広告やブランディングで、成功した事例を教えてください。
加藤:当社はFCオーナー募集のため、フェイスブックに広告を出しています。当初は出店の初期コストが他社より安いことを前面に出した広告を出していましたが、なかなか加盟が決まりませんでした。そこで広告の最も目立つ場所に「次世代型フィットネスジムのオーナーになりませんか?」といったコピーを入れるデザインに変更しました。初期コストや運営コストの低さなどはその後に記載することにしました。その結果、問い合わせ件数が改善前から7倍の約700件に急増し、面談数や加盟率も5~10倍に増えました。
本村:なぜ広告のデザインを変更したことが成功につながったのでしょうか。
加藤:私は会社の経営理念や方向性を明確にしたことが成功につながったと考えています。出店の初期コストが少ないことだけに魅力を感じるのであれば、フィットネスジムでなくても良いはずです。当社の社会的意義やITで合理化した次世代型のジムであることを評価してもらえたのではないかと思います。
本村:ジムの利用者に対してはどんなブランディングや広告をしていますか。
加藤:ジムの利用者の集客では、LINEの広告が効果的でした。LINE広告を使ってジムがオープンすることやジム内の様子を伝え、興味のある方々に登録してもらっています。そこからアプリをダウンロードしてもらうなどして集客しています。ただ、デジタル広告を見ない方もいますから、出店する地域でチラシのポスティングもしています。
本村:御社はSNS広告を上手に活用されていますが、ブランディングや広告で失敗した事例はありますか。
加藤:同じSNSでもツイッターやインスタグラムでの広告はうまくいきませんでした。ツイッターは文章が主体で、インスタグラムは画像主体です。また、利用者はこれらのSNSをどこか他人事として見ているように思います。広告を出してもコンバージョン(成約)率が低く、無人型のフィットネスジムを利用してもらうための媒体としては相性が良くなかったと考えています。このため、LINEとフェイスブックにある程度集中して広告を実施しています。
本村:全研本社のサイトに御社の情報が掲載されています。
加藤:全研本社のサイトは中立な立場で当社の記事を書いてくれており、結果的に当社のブランディングにプラスになっています。自社では中立な立場で情報を発信するのは難しいのが実情です。第三者である全研本社のサイトを通じて、当社が運営する「LifeFit」を正しく理解してもらえると考えています。当社の情報掲載はスタートしたばかりですが、今後、全研本社のサイトからFCの出店希望者らがアクセスしてくれると考えています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)