ベンチャー企業に共通の悩みは、ユニークな商材を持ちながら、それを広く販売するルートを持たないこと。世界的な発明品をルーツに持つ画期的な遮熱塗料「アドグリーンコート」を製造・販売する日本中央研究所もまた、このベンチャー企業ならではの課題に直面していた。

そこで同社が編み出した拡販手法は、製品の素晴らしさを誰でも簡単にアピールできる動画やシミュレーターをアプリ化してiPadに格納し、それを施工店に貸与して顧客開拓を強力に推し進めることだった。取り組みを始めて1年足らずで200社の施工店と契約し、iPadを使った顧客開拓に大きな成功を収めている。同社ではiPadを貸与する認定施工店を国内で2000社まで拡大させる予定だ。

その仕組みは、下記の動画のようなものだ。


ユニークな製品であるがゆえに、特徴を説明するのが難しい

遮熱塗料とは、建物の屋根や外壁に当たる太陽光の近赤外線を効率よく反射し、建物が熱せられ室内温度が上昇するのを防ぐ機能性塗料だ。工場や事業所などの大型施設の屋根や壁に塗布することで、夏場の冷房コストを下げる目的で施工される。最近は住宅リフォームでの遮熱・断熱工事に補助金を出す自治体もあり、個人住宅でも利用は広がっている。

「第4回 エコハウス&エコビルディング EXPO」に出店した日本中央研究所ブース

アドグリーンコートの他社製品との違いは、素材となるセラミック顔料の性質にある。従来品は反射しきれない太陽光の熱を塗料内部に溜め込んで室内温度を上昇させてしまう。これに対してアドグリーンコートのファインセラミックは太陽光の反射率が高く、さらに「冷めやすい塗料」であるため熱を室内に伝えにくい。

実際にこの製品を施工した建物では、夏季のエアコン・コストが大幅に軽減される事例も報告されている。塗料自体は割高になるが、従来品に比べて重ね塗りする回数を少なくできるので施工コストは下がり、全体のコストは従来品と変わらない。

これだけの優位性がある新製品なら黙っていても売れていく……、というわけにいかないのがビジネスの難しいところだ。知名度のない製品は効能ばかりアピールしても信用されず、なぜ優れているかを説明するには、セラミック素材の特性などを専門用語や科学データを使って説得するしかない。

日本中央研究所 代表取締役社長 田中雅彦氏

「この素晴らしい商品をどうやって世の中に広めるかと考えたとき、従来の塗料と同じ流通ルートに流してもだめだと思いました。建材問屋様は当社製品でも大手メーカーの塗料と同様に取り扱ってはくれます。しかし、後発メーカーの製品を積極的に売ってはくれません」と語るのは、同社を立ち上げたベンチャー企業家の田中雅彦社長である。

製品の特徴が十分に認知されておらず、優位性を説明するのも一苦労のアドグリーンコートは、大手塗料メーカーと同じ売り方をしても、流通段階で埋もれてしまうに違いない。

「そこで太陽光発電パネルやLED電球などの省エネ商材を扱う商社に売り込みました。受注した案件で、実際に施工された地元工務店様が当社製品の良さを肌で感じてくれ、別のお客様に提案してくれるという流れが生まれたのです」(田中氏)

認定施工店制度とiPad貸与の施策を開始

この流れをさらに進めるための施策が認定施工店制度とiPad貸与である。アドグリーンコートを積極的に拡販してもらえる施工店との関係を強化するため、同社では1日の技術研修を受講した施工店に認定書を発行し、メーカー連名保証を付けるなどの特典を用意している。その目玉がiPadの貸与だ。

「当社の研修は5万円という高額の料金をいただきます。それだけ熱心に当社製品を売る意欲のある施工店様に集まっていただきたいのです。製品の正しい施工技術を身に付けていただいた施工店様には、iPadにアドグリーンコートを販売するのに必要な動画や各種の資料、カラーシミュレーション、見積書の作成からメール送信までその場でできる見積ツールなど、営業支援アプリをインストールした状態で、無料貸与しています」(田中氏)

施工店は職人気質の人が多く、腕は確かでも営業トークは苦手にしている。そこで最新のプレゼンテーションツールであるiPadに、自社開発した専用のカタログアプリを提供することで、営業支援を行うのだ。iPadの使用は強制ではなく、毎月の通信料金は施工店が負担するのだが、400社余りの認定施工店の半数はiPad利用を申し込んでいるという。

アプリに掲載する営業用の資料は、同社の社員自らも日々利用しており、頻繁にアップデートを行う。また、ほぼ毎日メールを配信して、販売店との密な関係構築に努めている。施工店にしてみれば、常に最新の製品カタログや営業ツールを受け取れるうえに、疑問点などがあればメールを使って同社に問い合わせるのも簡単だ。

「期間限定のキャンペーンなどを実施すると、iPadの利用を申し込まれている施工店様は明らかに売上が伸びますので、iPadの販促効果は絶大です」(田中氏)

iPadを使った営業は顧客の注目度が高い

アドグリーンコートの認定施工店として、iPadを使った営業活動を行っている山下塗装の山下善明氏は、その効果を次のように語る。

山下塗装 代表取締役 山下善明氏

「お客様にアドグリーンコートを提案するときには、必ずiPadを利用しています。しゃべるのはあまり得意ではないので、アプリを立ち上げて施工事例の動画や資料を見てもらっています。特に事例動画はお客様の納得感が高く、とても役に立ちます。ほかに、見積アプリも良く使っていますね。お客様を訪問する前に数パターンの見積もりを用意するのですが、アプリから製品を選んで価格や数量を入れると、きれいにレイアウトされた見積書になります。これを外出中の待ち時間を利用してiPadで作成し、自分宛にメール送信しておき、事務所に帰ってパソコンからプリントアウトしています。隙間時間を有効に活用できて、帰ってからの仕事も楽になりました」(山下氏)

貸与されたiPadは、アドグリーンコートの営業活動以外にも利用できるので、地図アプリを使ったナビゲーションや外出先でのメール確認など、日々の業務にさまざまな形で活用しているという。

「当社で施工した塗装工事をiPhoneで動画撮影してYouTubeに投稿し、別のお客様にiPadでお見せすることもあります」と語る山下氏。工夫次第でいろいろな業務改善に使えるiPadは、日々の仕事に欠かせない便利なツールだという。

展示会の出展や海外展開にもiPadを活用

毎年開催される「エコハウス&エコビルディング EXPO」に4年連続で出展している同社。展示ブースには、アドグリーンコートの遮熱効果を体感できるデモを複数用意し顧客認知の向上に懸命だ。ここでも、ブースに立ち寄る来場者に対して、iPadを使った製品説明を展開している。

アドグリーンコートと一般塗料を塗ったトタン材を白熱灯で熱し、表面温度の違いを体感してもらうデモ(左)、ブース内での説明にもiPadを活用している(右)

こうしたイベント会場での製品紹介は紙のカタログを渡して会話のきっかけを作るのが普通だが、興味を示した来場者と商談スペースでじっくり話をする際には、iPadで事例動画などを見せるのも有効な商談手法となっているようだ。豊富な情報が整理されているため、相手に伝わりやすく、具体的な提案が可能になる。

アドグリーンコートは国内外で特許を取得しており、世界的なCO2削減の流れに乗る商材であるため、同社では積極的な海外展開も目指し、手始めにシンガポールへの進出を決めている。当初はアジア諸国に進出している日系企業への営業を展開するというが、こうしたグローバル展開の中でも、国内で成功した認定施工店制度+iPad販促ツールの仕組みも引き続き実施していくという。