2024年に携帯各社の活用が急速に進んだ、スペースXの低軌道衛星群「Starlink」を活用した通信サービス。ロケット打ち上げ技術を持つスペースXの優位性により、この分野では他社を圧倒しているStarlinkですが、2025年から2026年にかけては競合のサービスにも大きな動きが出てくるものと見られ、低軌道衛星通信を巡る競争がいよいよ本格化することになりそうです。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。

能登半島地震でポテンシャルを発揮したStarlink

2024年、通信の世界で大きな注目を集めたサービスの1つに「Starlink」が挙げられることは間違いないでしょう。

実業家のイーロン・マスク氏が率いるスペースXが提供するStarlinkは、従来の静止軌道衛星よりも地上との距離が近い低軌道衛星を用いることで、静止軌道衛星より高速大容量な通信を実現できる点が大きな特徴となっています。

それゆえ、日本でも2022年にStarlinkがサービスを開始して以降、個人だけでなく通信会社も積極的に活用を進めているのですが、その中でもStarlinkが注目されたのは2024年1月1日に発生した能登半島地震でしょう。

能登半島地震では地震の影響による土砂崩れや陸路の寸断などが多数発生したことで、携帯電話基地局のバックホール回線となる光ファイバー網が多くの地域で切断され、通信が途絶する事態を招きました。

そこで通信各社が活用を進めたのがStarlinkです。Starlinkは衛星通信を用いるため地上の影響を大きく受けず、それでいて静止軌道衛星より高速な通信が可能で、なおかつ設置するアンテナのサイズも小さく持ち運びがしやすい。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第3回

    Starlinkは能登半島地震での復旧に大きく貢献したことから、それを機として携帯各社は、可搬型基地局や移動基地局車にStarlinkを導入するケースが増えている

そうしたことから、携帯各社はStarlinkを基地局のバックホール回線として活用したり、避難所などでの通信を確保するために用いたりするなどして、積極活用がなされたことで大きな注目を集め、その後はビジネス向けのユースケース開拓に向けた活用も積極的に進められています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第3回

    NTTコミュニケーションズは2024年11月19日、法人向けの「Starlink Business」と米Skydio社の屋内用ドローンポート「Skydio Dock」を組み合わせて排水ポンプの自動巡回をする実証実験を実施。ビジネス活用に向けた取り組みも増えている

確かに、光回線の敷設が難しい場所でも、簡単かつ高速な通信環境を導入できるStarlinkのポテンシャルが非常に高いことは間違いありません。一方で他に競合となるサービスが市場に出てきておらず、現在はStarlinkが市場をほぼ独占していることもまた確かです。

なぜそれだけStarlinkがスピーディーにサービス展開できているのかといいますと、その理由はスペースXがロケットの打ち上げ技術を持つからに他なりません。

静止軌道衛星とは異なり、地上から見ると常に移動している低軌道衛星で大容量通信を確保するには、より多くの衛星を打ち上げる必要があるのですが、スペースXは自社のロケットで競合よりはるかに多くの衛星を打ち上げられることが、非常に大きな強みとなっている訳です。

競合サービスは2025~2026年に本格化

とはいえ、他の低軌道衛星を用いた通信サービスも、徐々にサービス提供に向けた動きを見せているようです。

実際、ソフトバンクは2024年9月3日に、Eutelsat OneWeb(ユーテルサット・ワンウェブ)の低軌道衛星群を活用した衛星通信サービスを、2024年12月より提供すると発表しています。

これは元々ワンウェブという英国の企業が取り組んでいた低軌道衛星通信サービスで、ソフトバンクの親会社であるソフトバンクグループも出資していることから、ソフトバンクとも深い関係があります。

ただ、同社は2020年に経営破綻しており、その後はフランスの衛星通信事業者であるユーテルサットと経営統合、紆余曲折ありながらもサービス提供へと至っているようです。

ソフトバンクはそのEutelsat OneWebの通信サービスを、主として企業や政府機関、自治体向けに提供するとしています。それゆえ帯域保証型の通信サービスや、ソフトバンクの閉域網サービス「SmartVPN」とのセットで高セキュアな通信環境を提供するなど、一層ビジネス向けを強く意識したサービスとして展開する方針のようです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第3回

    紆余曲折の末に低軌道衛星群を構築した「Eutelsat OneWeb」のサービスを、ソフトバンクは2024年12月から企業や自治体などに向けて提供するとしている

また楽天モバイルも、やはり低軌道衛星を活用した通信サービスの提供を目指す米AST Spacemobileに出資し、同社の衛星通信を活用したサービスの提供を2026年内に目指すとしています。

AST Spacemobileの低軌道衛星はサイズが大きいことから、少数で大容量通信を実現できる点が特徴となっており、その大容量通信を生かして地上のスマートフォンとの直接通信で通話やデータ通信が実現できることを目指しています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第3回

    楽天モバイルは2024年3月に、AST Spacemobileの低軌道衛星群を活用した通信サービスを、2026年に提供することを目指すと発表。こちらは当初より、スマートフォンとの直接通信を実現するものとなるようだ

そしてもう1つ、NTTグループが2023年に提携を発表した、米Amazon.comの低軌道衛星群による通信サービス「Project Kuiper」も、当初の予定から延期されたものの2025年にはサービスを開始すると見られています。

そうしたことから2025年から2026年にかけては、Starlink以外の低軌道衛星による通信サービスが急速に拡大する可能性が高いといえるでしょう。

しかし、Starlinkは他社より先を行く取り組みを進めており、それが衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスの早期提供です。実際、国内でも2024年10月24日に、スペースXと提携しているKDDIが、国内でStarlinkとスマートフォンとの直接通信でSMSの送受信ができることを確認したと発表しています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第5回

    KDDIは2024年10月24日に、沖縄県でStarlinkとスマートフォンとの直接通信によるSMSの送受信の実証を実施。これに成功したことで、2025年の本格提供に向けた取り組みを前進させている

さらにKDDIは2024年12月25日に、総務省や米国連邦通信委員会(FCC)からスマートフォンと衛星とで直接通信するための電波を発射する許可を得たと発表。2024年内に一部の利用者にβ版のサービスを提供し、2025年春頃には本格的なサービスを開始するとしており、競合を引き離す動きに出ていることが分かります。

すでにサービスを提供している強みがあるだけに、低軌道衛星通信を巡っては2025年もStarlinkの圧倒的優位性が続くことに間違いないでしょう。ただ競合のサービス提供に向けた動きも徐々に加速しているだけに、今後数年のうちには市場に何らかの変化が起きる可能性も考えられそうです。