NTTドコモは、2025年12月30日から2日間にわたって実施された同人誌即売会イベント「コミックマーケット107」(コミケ107)でのネットワーク対策について説明しました。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
2023年の著しい通信品質低下以降、厳しい声が多く寄せられている同社のネットワークですが、2025年のコミケ107では通信品質を向上させるため、どのような対策を実施していたのでしょうか。
新機材に加え粘り強い交渉が通信品質向上につながる
毎年非常に多くの人が訪れるイベントの1つとして知られるコミックマーケット(コミケ)。2025年12月30日から2日間にわたって東京ビッグサイトで実施された実施されたコミケ107でも、2日間で30万人、1日当たり15万もの人が訪れたそうです。
それだけ大きなイベントだけあって、モバイル通信の側面でいうと毎年注目されるのがスマートフォンの通信品質です。
会場内は言うに及ばずですが、コミケでは早朝から非常に多くの人が会場周辺に訪れ大行列をなすのに加え、それだけ多くの人たちが開場までの長い時間、時間をつぶすなどの目的でスマートフォンを利用し続けることから、会場外でも混雑が生じ通信品質が大幅に低下してしまうのです。
それゆえ、コミケ会場では毎年、携帯各社がその行列に向けた通信品質対策を実施しており、NTTドコモもその1社となります。とりわけ同社は、著しい通信品質低下が指摘された2023年の夏に実施された「コミックマーケット102」で、やはり通信品質が大きく低下し厳しい批判を集めたことから、以後コミケの通信品質対策には非常に力を入れてきました。
中でも力を入れてきたのが、開場前に多くの人が並ぶ「待機列」向けの通信品質対策です。コミケの待機列は大きく分けて「東待機列」「西待機列」の2つがあるのですが、東待機列に向けては2024年冬の「コミックマーケット105」で、臨時で設置する移動基地局車と可搬型基地局を等間隔に設置。
ユーザーの均等分散を図るとともに、すべての基地局を5Gに対応させ、なおかつ通信容量対策に効果的とされる「Massive MIMO」対応の無線機も導入するなど、あらゆる対策を実施していました。
そして、今回のコミケ107ではすべての移動基地局車と可搬型基地局にMassive MIMO対応の無線機を導入し、なおかつ新たに「3セクタ」のMassive MIMOに対応した移動基地局車も導入したとのこと。3セクタとは、3方向に電波を射出し360度をカバーできることを示しています。
このため、新しい移動基地局車ではMassive MIMOに対応した5Gのスタンドアローン(SA)運用対応のアンテナと、ノンスタンドアローン(NSA)運用の5Gや4G向けに対応するアンテナを、それぞれ3つ搭載することで3セクタに対応。1台の移動基地局車で広い範囲をカバーしています。
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東待機列付近に設置された、3セクタMassive MIMO対応の新しい移動基地局車。車両の後方(左)がMassive MIMO対応の5G SA用アンテナで、前方(右)が4G/5G NSA用のアンテナ。ちなみに車両前方にあるのはWi-Fi用のアンテナだ
しかし、東待機列より対策が難しいのが西待機列です。東待機列は、屋外展示場や駐車場などとして活用される東京ビッグサイトの東展示棟脇のスペースにあり、広い空間を確保できることから移動基地局車などを設置して対策をすることが可能です。
一方、西待機列はJRりんかい線の国際展示場駅から東京ビックサイトに向かう途中の広場に設けられています。それゆえ周囲は建物が多く、移動基地局車などの設置が難しい環境にあるのです。
NTTドコモでもこれまで、周辺の基地局を増強するなどして西待機列向けの対策は進めてきたようですが、最後尾付近(つどい橋~夢の大橋周辺)は建物側から臨時の基地局設置の許可が下りず、どうしても対策ができなかったとのこと。担当者が2カ月間にわたり周辺ビルに粘り強く交渉した結果、コミケ107では待機列付近に臨時の基地局を設置でき、大幅な改善を実現できたそうです。
普及が道半ばの5G SA利用促進が大きな課題
ただ、これらの対策をしてもなお、通信品質を向上させるには課題があるそうで、それはユーザー側の5Gの利用スタイルにあります。
実は、5Gのネットワーク整備が途上だった過去に、5Gに接続すると通信が不安定になることが多かったことから「5Gをオフにする」という手法がライフハック的に流行しており、その影響で現在もなお通信の安定のために5Gを利用しない人が一定数存在しています。
しかし現在、5Gのネットワークはかなり充実してきていますし、先にも触れたようにコミケ会場では5Gを主体としたネットワーク対策が進められています。そのためNTTドコモでも、これまで通信品質改善のためコミケ会場では5Gをオンにすることを訴えてきましたが、今回新たに訴求を強めているのが5G SAです。
NSA運用の5Gが4Gのネットワークに依存しているのに対し、SA運用の5Gはコアネットワークから基地局まで全てが4Gに依存しない、5G専用のネットワークとなっています。そうしたことから、5G SAに接続すれば4Gの影響を受けることがなくなり、快適に通信できるようになりますし、その分4Gにかかる負担が減少するので、4Gや5G NSA利用者の通信品質改善にもつながる訳です。
そして、NTTドコモでは、臨時のものも含めてコミケ会場周辺の5G基地局をすべてSAに対応させているため、より多くのユーザーに5G SAをオンにしてもらうことで、通信品質の改善につなげようとしている訳です。実際、コミケ107の会場内には5G SAの利用を訴求する広告を掲出するなど、ユーザーに5G SAの利用を積極的に訴えかけている様子を確認できました。
ただ、5G SAの利用を促進する上ではいくつか課題もあり、1つは5G SAを利用するのに月額550円の有料のオプション契約が必要なことです。現在は終了日未定のキャンペーンにより無料で利用できますが、それでも別途オプションの契約が必要なので、手間がかかってしまうのは事実です。
しかもNTTドコモの5G SAネットワークは、まだ決して広域をカバーしているとは言えない状況にあります。それゆえユーザー側からすると、いくら一時的に通信が良くなるからと言われても、将来的にお金がかかるかもしれないのに日常的なメリットが得られない、5G SAのオプションを追加するのをためらう人も少なからずいるでしょう。
また、何より整備が進んでおらずユーザーメリットが乏しいだけあって、5G SAに関する情報やメリットを理解している人がそもそも少ないことが、最大の課題と言えるでしょう。それだけに大規模イベントの通信品質対策のため、5G SAの利用を促進していくには、日常的に利用できる5G SAの環境整備、そして5G SAのメリットを明確に訴求する広報活動などが強く求められる所ではないでしょうか。




