NTT東日本は2025年8月27日に東京都と協定を締結し、東京都内の公衆電話ボックスを活用してOpenRoaming対応Wi-Fiの整備や普及啓発を進めていくことを明らかにしています。利用が減少している公衆電話ボックスの有効な活用手段となる取り組みではありますが、なぜ東京都は公衆電話ボックスの活用によるWi-Fi網の整備に着目したのでしょうか。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。
3年間で1500箇所にWi-Fiスポットを設置
携帯電話のネットワークが5Gに進化し、通信速度が向上したことなどもあって、存在感が薄れてつつある公衆Wi-Fiサービス。コロナ禍の一時期は大手企業のサービス撤退が続いていましたが、観光地や宿泊施設などの観光客に向けた公衆Wi-Fiサービスなどは広く定着しており、確実な需要があることもまた確かです。
その公衆Wi-Fiを巡って、2025年8月27日に大きな動きがありました。それはNTT東日本と東京都が、「公衆電話ボックスを活用したOpenRoaming対応Wi-Fiの整備・普及啓発等に関する基本協定」を締結したことです。
この協定は、文字通りNTT東日本が持つ公衆電話ボックスを活用し、東京都内にOpenRoaming対応のWi-Fiスポットを整備するというもの。OpenRoamingはWireless Broadband Alliance(WBA)という国際団体が推進しているWi-Fiのローミング規格であり、ユーザーは一度設定すれば世界中のOpenRoaming対応Wi-Fiスポットに自動接続することが可能になります。
それゆえ東京都は、災害時の通信手段確保、そして昨今急増している訪日外国人のWi-Fi需要などに応えるため、OpenRoaming対応Wi-Fiスポットの整備を積極的に進めており、今回のNTT東日本との協定はその取り組みの一環となるようです。
具体的な取り組みとしては、1つに公衆電話ボックスを活用して人が多く集まる場所にWi-Fiスポットを整備することで、その数は今後3年間で約1500箇所に上るとしています。
2つ目の取り組みは、都内全域におけるOpenRoaming対応Wi-Fiの利用拡大に向けた普及啓発をすること。そして3つ目は、NTT東日本が開設した「防災研究所」を活用し、通信環境などの災害対応力を強化することだといいます。
なお、防災研究所は官民のノウハウと先端テクノロジーを活用して激甚化する自然災害に対応するための課題解決に取り組むべく、NTT東日本が2025年4月に設置したもの。東京都でもそのノウハウを活用し、防災対策を強化していくことも重視していく方針のようです。
5GではなくWi-Fiを整備する理由は冗長性にあり
では一体なぜ、東京都は公衆電話ボックスをWi-Fiスポットにすることにしたのでしょうか。担当者の説明によりますと、人が多く集まる場所に効率よくWi-Fi環境を整備する方法を検討した結果として公衆電話ボックスに着目したとのことです。
公衆電話は災害時にこそ利用が高まるものの、すでに携帯電話が広く普及していることもあって平時の利用は大幅に減少しています。それゆえ撤去も進んでいるのですが、それでも今なお多くの公衆電話ボックスが存在するだけに、その場所を有効活用する手段としては良いアイデアといえるでしょう。
また、NTT東日本側の視点から見るならば、今回の取り組みは公衆電話スポットをWi-Fiスポットとしても活用することにより、新しい需要を生み出すことにもつながります。その結果として、公衆電話ボックスの維持管理がしやすくなるメリットも生まれてくるのではないでしょうか。
なお、今回の協定で公衆電話ボックスへのWi-Fiスポットが順調に進めば、3年後に東京都内のWi-Fiスポットは全体で3600カ所となり、現在のおよそ3倍の規模に達するとのこと。
もっとも東京都内のすべての公衆電話ボックスをWi-Fiスポット化する訳ではなく、当初は人が多く集まる山手線の主要駅周辺、そして通信手段が限られる島しょ部を優先して設置していくそうですが、3年のうちに多摩地域などにも展開エリアを広げていくとしています。
ただ、公衆電話ボックスのような場所は、携帯電話の基地局、とりわけ周波数が高い5Gのミリ波などの基地局を設置するのにも適した場所です。そして東京都はこれまでにも、高い周波数帯を用いる5Gの基地局整備に向け、街路灯や都立公園などのアセット開放を進めてきた経緯があります。
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2024年12月16日に東京都が実施した第5回「TOKYO Data Highwayサミット」より。東京都では高い周波数帯を用いる5Gのネットワーク整備のため、街路灯や公園などのアセット開放を進めてきた
それにもかかわらず、なぜ今回は携帯電話ではなくWi-Fiのネットワーク整備に重きを置いたのでしょうか。東京都の担当者によりますと、その理由は通信の多重化にあるようです。
大規模災害時は携帯電話のネットワークが途絶してしまう可能性もありますが、Wi-Fiのネットワークを整備しておけば、いざという時のため通信の冗長性を確保できる。そうしたことからあえて今回は、Wi-Fiの整備に重きを置くに至ったようです。
海外でも公衆電話の跡地などをWi-Fiスポットに活用する事例はいくつか見られるものの、あまり多いとは言えません。今回の取り組みが将来的に、東京都以外にも広がり国内におけるWi-Fiスポットの拡大につながる施策となるかどうか、興味を呼ぶところではないでしょうか。


