NTTが総力を挙げて開発を進めている、次世代のネットワーク基盤「IOWN」。すでにオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を導入し、200分の1の遅延を実現した「APN IOWN 1.0」が実用化し、2.0、3.0といった進化に向けた研究開発が進んでいますが、同時に不可欠なのがユースケースの開拓でビジネスを成立させ、需要を喚起すること。NTTはIOWNのビジネスを成立させるため、どのようなユースケースに狙いを定めているのでしょうか。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。

サービス開始後も進化を続けるIOWN

NTTは得意とする光技術を活用し、電気信号の処理を可能な限り光で置き換える「光電融合」を導入した次世代のネットワーク基盤となる「IOWN」構想を掲げ、その実現に向けたさまざまな取り組みを進めています。

すでに2、023年にはネットワークのすべての区間を電気信号から光に置き換え、既存ネットワークの200分の1となる低遅延を実現した、APN IOWN 1.0のサービス提供を実現しています。

また、2020年には「IOWN Global Forum」を設立し、IOWNの国際標準化に向けた取り組みを進めているほか、2024年8月にはNTTと、台湾の中華電信がIOWNによる国際間APNを世界で初めて開通。

日本と台湾の約3000kmを、約17ミリ秒というわずかな遅延で接続できるネットワークを構築することにも成功しています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第2回

    すでに実用化がなされているIOWNは、2024年に日本と台湾を結ぶネットワークの構築に活用。「NTT R&D Forum 2024」のデモでは、日本と台湾を結びリアルタイムで遅延のない会話じゃんけんなどができる様子が披露されていた

とはいえ、APN自体もまだ進化が見込まれており、ステップ3の段階まで進めば低遅延だけでなく、伝送容量が125倍、電力効率が100倍にまで向上。現在のAPN IOWN 1.0は、専用線に類するサービスとなっていますが、ステップ3にまで進めばより長距離、かつ自由な接続も可能になるようです。

しかし、IOWNをネットワークに導入・活用するのはまだ1.0の段階に過ぎません。さらにその先には2.0から4.0までの進化が見込まれており、この段階になるとIOWNの光電融合技術がネットワークからコンピューターの内部に入る形となります。

具体的には、IOWN 2.0でコンピューター内部のボード間を光で接続すること、3.0ではボード上の半導体チップ同士を光で接続すること、そして4.0ではチップの内部にも光を導入することを目指して研究開発が進められているようです。

これら、すべてが実現すればネットワークだけでなく、コンピューターの高速化や低消費電力化も期待されるところですが、それに加えてIOWNの性能を生かし、コンピューターのあり方自体を大きく変える取り組みも進められているようです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第2回

    NTTが開発を進めている光電融合デバイスのロードマップ。IOWN 1.0ではネットワークの光化が主だったが、IOWN 2.0以降はコンピューターの内部に光を活用することになる

それはIOWNがコンピューターに最初に入り込むIOWN 2.0の段階で実現が見込まれている「データセントリックインフラストラクチャ」(DCI)というもの。

CPUやメモリ、GPUやストレージなどが一体となった従来のコンピューターのあり方を大きく変えるもので、光伝送路を通じてそれらコンピューターのリソースを分散配置し、処理するデータに応じて必要なリソースを柔軟に組み合わせて使う仕組みとなります。

従来型のコンピューターは必要かどうかにかかわらず、CPUなどを動作させておく必要がありましたが、DCIであれば必要な時に必要としているだけのCPUやGPUなどだけを使う形となるため、その分の無駄を省き、大幅な省電力が見込めます。

また、それらのリソースをAPNを通じて、コンピューティングリソースを全国各地に配置できるようになれば、地域、あるいは国をまたいだ、より大きなコンピューターインフラも構築できる可能性があります。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第2回

    写真は光電融合スイッチを制御し、負荷変動に応じてGPUやFPGAなどのアクセラレータを割り当てる「コンポーサブルサーバ」を制御する「DCIコントローラソフト」を用いたサーバシステムで、映像を用いたAI分析で34~62%の消費電力削減を実現したとのこと

分散化が必要なデータセンターに大きな商機

そうした高い性能と将来性に期待がかかるIOWNなのですが、実際にIOWNを活用した仕組みをどう使うのか?という点には、ピンと来ていない人も多いかと思います。

確かに、現在のAPN IOWN 1.0では低遅延で長距離を結べることから、離れた場所にいる人達同士がリモートで演奏や合唱のデモ、実証が実施されたこともありますし、より現実的なユースケースとして遠隔手術に活用する実証なども実施されたことがあります。

しかし、現状のAPN IOWN 1.0のサービス内容を見ると、提供料金は100Gbpsの「タイプ1」で月額198万円とされています。将来的にもっと価格は安くなると考えられるのですが、それだけの高額な費用をかけてもビジネスになるような用途でなければ、活用が進まないことも確かでしょう。

また、IOWNを実現するベースとなる光電融合デバイスに関しても、よりコンピューターの中に入り込むIOWN 3.0や4.0の実現に向け、レーザーの小型化・高速化に貢献する「メンブレンフォトニクス」などの技術を導入して小型化が進められていますが、それでも現在一般的なコンピューターに載せるには大きいと感じてしまいます。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第2回

    「メンブレンフォトニクス」技術によって小型化されたレーザーを導入したチップ間接続用の光電融合デバイス。通常のコンピューターに導入するにはまだ大きいように見える

なのであればIOWNは、当面どのような形でビジネス化していくのでしょうか?NTTのIOWNに関するこれまでの取り組みを見るに、その主なターゲットはデータセンターと考えられます。

データセンターは生成AIのブームなどで需要が大きく高まっており、国内でもKDDIやソフトバンクがシャープの堺工場跡地にデータセンターを構築するなど、非常に大きな動きが見られます。

とはいえ、データセンターを設置するには面積や電力などさまざまな条件があり、大規模なデータセンターをどこにでも設置できる訳ではないことから分散化が必要不可欠になっています。

そこでIOWNの技術を活用すれば、高速かつ遅延が小さいので離れた場所のデータセンターをつないで1つの大きなデータセンターとして扱うことができますし、電力のリソースに応じて処理するデータセンターを変えることなども可能になります。

また、データセンター用のサーバであれば、一般的なコンピューターと比べサイズが大きいので、光電融合デバイスを搭載したボードや半導体なども搭載しやすいといえるでしょう。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第2回

    「GPU over APN」の実証実験の説明パネル。APNで接続された複数のデータセンターにGPUを分散配置し、APN経由でそれらを同時に使用することで、単一のデータセンターのGPUと同等の成果が得られたという

そうしたことから、当面は分散化するデータセンターの効率化がIOWNの大きなビジネスチャンスと考えられる訳です。もちろんNTT、そしてIOWN Global Forumなどでは、ほかにもIOWNのさまざまなユースケースを検討しているでしょうが、一般消費者がその恩恵を直接的に受けるには相応の時間がかかることになるのではないでしょうか。