IoT機器向けの通信サービスやプラットフォームを提供するソラコムは2025年7月16日、カンファレンスイベント「SORACOM Discovery 2025」を実施。新たに「リアルワールドAIプラットフォーム」を打ち出し「OpenAI APIプラットフォーム」のエンタープライズ契約締結を明らかにするなど、昨今注目される生成AIの活用に重きを置いた発表が相次ぎました。ソラコムの事業領域であるIoTで、生成AIが必要とされる理由はどこにあるのでしょうか。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。
生成AIはIoTの欠けたピースを埋める存在
モバイル通信をはじめとしたIoT向けのプラットフォームを提供しているソラコムが、2025年7月16日に年次のカンファレンスイベント「SORACOM Discovery 2025」を実施しました。ソラコムがIoT向けのサービスを提供開始してから、今年で10年を迎えることから、同社は今回のイベントに合わせて「Making Things Happen for a world that works together」という新たなビジョンとミッションを打ち出しています。
代表取締役社長CEOである玉川憲氏は、新たなビジョンを掲げる背景として、10周年を迎えたことに加えもう1つ、昨今話題となっている生成AIの存在があるとしています。それは、玉川氏が10年前に目指したIoTの世界を実現する上で「生成AIが最後のピースだった」が故のようです。
そもそもIoTをビジネスに生かす上では、IoTデバイスを通じて現実世界のデータを収集し、そのデータを分析して現実世界へと反映することが求められます。ですがこれまでのIoTではデータを収集しても、膨大なデータをどうやって分析するのか?という部分に大きなハードルが存在していました。
しかしながら生成AIの急速な進化により、生成AIを用いて収集した膨大なデータの分析が容易にできるようになりました。それだけに、生成AIがデータから価値を生み出し、IoTの本領を発揮することにつながっている訳です。
そこでIoTと生成AIにより、ソラコムがかねて掲げてきたテーマである「テクノロジーの民主化」を、日本から世界へと進めていくべく掲げたのが新たなビジョンとなるようです。そして玉川氏は、そのビジョン実現に向け新たに「リアルワールドAIプラットフォーム」というものを打ち出しています。
これはIoTで取得したフィジカルなデータと、企業が社内で持つデータを全てAIとクラウドにつなぎ込み、新たな価値を生み出しより良い未来を創造する新たなプラットフォーム戦略となります。玉川氏は生成AIが「USB端子のようなもの」と話しており、生成AIによってあらゆる情報を接続し、価値を生み出すことに力を入れていくようです。
そのためにも玉川氏は、同社のプラットフォームをAIに積極対応させ、不足している要素を埋めていく考えを示しており、その第一歩となるのが米OpneAIの「OpenAI APIプラットフォーム」のエンタープライズ契約を締結したこと。これによってソラコムは、OpenAIの生成AI技術をソラコムのプラットフォーム全体に取り込んだサービス開発を進め、リアルワールドAIプラットフォームとしてのサービス拡充を進めていくとしています。
生成AIを活用した新サービスとは
他にもソラコムでは生成AIを活用した新しい取り組みをいくつか打ち出しており、その1つとなるのがMCPサーバーの提供です。MCPはAIアプリケーションと異なるツール都を接続するプロトコルの一種で、この対応によって各種AIアプリケーションから、SORACOM APIをリモートで実行できるようになるとしています。
実際、会場では「ChatGPT」からSORACOM APIを通じて毎月の課金情報を取得し、それをグラフにしたり、コストを分析したりするデモが披露されていました。
そしてもう1つ、生成AIの活用による新たな取り組みとして打ち出されたのが「Wisora」です。これは企業が持つドキュメントなどを取り込んで、チャットボットなどを簡単に作成し、自社のWebサイトなどに設置できるサービス。会場では実際に、Webサイトから情報を取り込んでチャットボットを作成し、実際に質問に答える様子も披露されていました。
ここ最近、AI技術を活用したチャットボットは顧客のサポートなどに多く活用されていますが、それを作成するには手間がかかっていたのも事実。それだけにソラコムではWisoraの提供によって、そうした企業の課題に応えたい狙いがあるようです。
他にもSORACOM DiscoveryではAIに関する取り組みのアピールがなされていましたが、一方で既存のビジネスの中心でもあるIoT向け通信の部分でもサービス強化をが打ち出されています。
具体的には、カメラや遠隔操作など大容量通信ニーズの高まりに応えるべく、新たにテラバイト級の大容量アップロード向けプランを提供することが発表されたほか、既存の設備を後からIoTに対応させるデバイスとして、新たに「GPS + Beacon Edge Unit SORACOM Edition」を提供することも明らかにされています。
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既存のIoT通信に関する機能やサービスの強化もなされており、既存の設備を後からIoTに対応させるデバイスとして、新たに「GPS + Beacon Edge Unit SORACOM Edition」の提供も打ち出された
従来通りIoTのビジネスを全方位的に支えながらも、データ分析に長けた生成AIを加えることで従来の弱みを補い、プラットフォームとしての強化を図るというのがソラコムの狙いといえるでしょう。競合の台頭により国内外で競争が激しくなっているIoTの分野ですが、生成AIを取り込んだソラコムがその競争を勝ち抜いて成長のペースを高められるか、大きな勝負どころとなることは間違いないでしょう。