PRIDE

IXVが成功したことで、ESAは次に「PRIDE」と呼ばれる新型機の開発に移る。PRIDEは「Program for Reusable In-orbit Demonstrator in Europe」の頭文字から取られており、直訳すると「欧州の再使用型往還機の軌道上での実証プログラム」といった意味になる。

PRIDEはIXVと同じくヴェガ・ロケットで打ち上げられ、無人で自律飛行を行うが、IXVとは違い主翼を持っており、滑走路に着陸することができる。また地球周回軌道上でロボット・アームなどを駆使したミッションをこなすこともできる、米空軍のX-37Bに似た機体となる(X-37Bについては拙稿『謎に包まれた米空軍の宇宙往還機X-37B - その虚構と真実』を参照されたい)。

PRIDEは現在、検討が進められている段階であり、2017年から開発がはじまる予定だ。開発が順調に進めば、2020年にも打ち上げられる予定となっている。

PRIDEの想像図 (C)ESA

PRIDEの飛行経路の図 (C)ESA

また欧州では、ロケットの第1段機体やブースターの再使用化に向けた研究もはじまっており、再使用型宇宙往還機や、あるいは再使用ロケットの実現に向けて、着実に技術が蓄積されつつある。

世界と日本の動き

再使用型宇宙往還機や再使用ロケットの研究、開発を進めているのは、もちろん欧州だけではない。

まず米国では、スペースシャトルは引退したものの、X-37Bがこれまでに3回宇宙を飛行し、宇宙往還機の実績を作り続けており、今年には4回目の飛行も実施される予定だ。

さらに中国でも、無人の小型宇宙往還機「神龍」の開発が進められており、詳細は不明だが、すでに大気圏内での試験飛行が行われている模様だ。インドでも、無人の実験機「アヴァター」(Avatar:Aerobic Vehicle for Transatmospheric Hypersonic Aerospace TrAnspoRtation)の研究、開発が進められており、2025年ごろに初飛行するとされる。

また民間企業の動きも活発だ。米国のスペースX社ではファルコン9ロケットの再使用化に向けた試験が続けられており、早ければ今年中にも、一度打ち上げに使われたロケットを回収して整備し、もう一度打ち上げに使う試みがなされるようだ。同社では最終的に、ロケットの打ち上げ費用を今の100分の1にまで引き下げたいとしている。

またスケールド・コンポジッツ社やXCOR社、ブルー・オリジン社などでも、地球周回軌道には乗らないものの、再使用できるロケットや宇宙船の開発が進められている。さらに英国のリアクション・エンジンズ社という会社では、Skylonと呼ばれる、まるで『サンダーバード』に出てくるような、完全再使用宇宙機の開発も進められている。

スペースX社のファルコン9ロケットの再使用化に向けた試験 (C)SpaceX

Skylon (C)Reaction Engines

そして日本でも、少しずつではあるが、研究や開発が進められている。

日本では、1980年代に「ヤマト」というスペースシャトルの構想があり、また「HIMES」と名付けられた、再使用型宇宙往還機の研究や開発、実験機による試験が進められた。そして80年代の半ばからは、「HOPE」と名付けられた無人のスペースシャトルの研究、開発がはじまった。当時、米国はすでにスペースシャトルを運行しており、ソ連も無人ながら打ち上げに成功、そして欧州でも小型ながら有人のシャトルの開発が進められており、HOPEもその流れに乗ったものだった。

まず大気圏に再突入する技術を試すため、1994年に「りゅうせい」(OREX)という中華鍋のような形をした実験機が打ち上げられ、続いて1996年には「HYFLEX」と名付けられたリフティング・ボディ機が打ち上げらた。HYFLEXはHOPEで使う耐熱材の試験を目的とし、打ち上げ後、高度110kmから秒速3.9kmで再突入を行い、データを送信した後、太平洋上に着水した。

同じく1996年には、オーストラリアのウーメラ(あの「はやぶさ」が帰還した場所である)において、「ALFLEX」と呼ばれる大気圏内の自律飛行技術を確立するための実験機の飛行実験が繰り返し行われた。

その後、HOPEを造る前の実験機として「HOPE-X」の開発が行われることになったものの、宇宙予算の削減をはじめ、技術的な壁やコストの増大、そして1998年と1999年にH-IIロケットが2機連続で打ち上げに失敗したことなどが重なり、結局HOPE-Xは凍結されることになった。

その後も細々とではあったが研究は続けられ、2002年には無人機の自律飛行技術を実証する「高速飛行実証フェーズ1」(HSFD-1)、続いて2003年には「高速飛行実証フェーズ2」(HSFD-2)が行われている。また2006年には、リフティング・ボディ機の大気圏内での滑空飛行、着陸実験を行うことを目指した「LIFLEX」が立ち上げられたが、飛行試験を行う前の2009年に中止されている。

現在のところJAXAでは、再使用型宇宙往還機の具体的な開発は進められていないが、2014年には「再使用将来輸送系ワークショップ」が開催され、大学において研究や、模型の試験飛行が行われるなど、研究体制は立ち上げられつつある。

また、JAXAと三菱重工では再使用可能な観測ロケットの開発が進められており、現在はJAXAの角田宇宙センターで、再使用できるロケットエンジンの実証試験が行われていると発表されている。

JAXAの再使用観測ロケット (C)JAXA

再使用可能な液水/液酸ロケットエンジンの試験の様子 (C)JAXA

こうした、世界中で進められている再使用型の宇宙輸送システム開発に向けた動きが実を結べば、今の子供たちが大人になるころには、誰でも気軽に宇宙に行ける時代がやってくるかもしれない。

参考

・http://www.esa.int/Our_Activities/Launchers/IXV/Frequently_asked_
questions_on_IXV
・http://www.space.com/28520-europe-launches-mini-shuttle-ixv.html
・http://www.reactionengines.co.uk/space_skylon.html
・http://www.soranokai.jp/pages/HOPE_history.html
・http://stagen01.tksc.jaxa.jp/rsrweb/main.htm