コロナ禍においてECにおける競争環境は一変しました。特にECモール市場は、せどりを行っている個人事業主から大手ブランドまで続々と参入しており、一気に激化しています。しかし一方で、転売屋や模倣品の氾濫など、さまざまな課題も抱えております。

そこで本連載では、ECにおける売上・粗利の改善や、転売模倣品の出品、値崩れについて悩みを抱えている企業のブランド担当者に向けて、「業界のトレンド」「ECモールに出品するために知っておくべきポイント」「ECで売るために必要なこと」を全4回にわたり紹介します。

EC市場が急拡大している2つの理由

第1回となる今回は、まずEC市場の現状について解説します。2020年のEC市場は前年比の成長率がプラス21%を超えており、急成長している市場と言えます。市場の急成長を後押ししている要素は数多くありますが、中でも「スマホシフトの加速」「新型コロナウイルスの感染拡大による消費対象・購買層・購買行動の変化」が強い追い風になったと考えられます。

  • BtoCビジネスのEC市場規模の変化 資料:経済産業省

    BtoCビジネスのEC市場規模の変化 資料:経済産業省

2021年に発表された「電子商取引実態調査(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課)」によると、パソコンの保有率が低下傾向にある一方で、2019年における世帯当たりのスマートフォン普及率は83.4%に上ります。スマートフォンはEC市場でも存在感を示しており、2015年から2019年のEC市場におけるスマートフォン経由売上成長率は3.8%だったのに対して、2019年から2020年は8.5%成長し、2020年のEC市場12兆2333億円のうち50.9%にあたる6兆2269億円がスマートフォン経由で取り引きされています。

新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり需要」もEC市場に大きなインパクトをもたらしました。カテゴリー別には、生活家電やエンターテインメントが伸びており、特に「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器」の2020年における市場規模は前年比に対して約30%増となっています。

  • 2019年と2020年の市場規模の比較 資料:経済産業省

    2019年と2020年の市場規模の比較 資料:経済産業省

  • 「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器」カテゴリーが特に伸びている 資料:経済産業省

    「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器」カテゴリが特に伸びている 資料:経済産業省

また、新型コロナウイルスの感染拡大によって、年齢層が高いユーザーの利用も急増しました。感染した場合に重症度が高いとされる高齢者が外出を控えるようになり、対面での購入が当たり前だった生活からECでの購入へとシフトしているのです。今後は旅行やお出かけ需要が伸びると予想されているため、自動車や自動二輪車、アパレルといったカテゴリーの需要拡大が期待されています。

AmazonなどのECモール市場を無視できなくなった大手ブランド

コロナ以前からECモール市場は拡大していましたが、大手ブランドはECモールでの販売にそこまで積極的ではありませんでした。

一般的な消費財の売上EC化率は5%から10%です。逆に言えば、売上の90%から95%は小売店経由であるため、例えばマーケティングに重要な4P(Product / Price / Place / Promotion)は小売店での販売を前提に設計されています。メーカーの物流や会計などの機能も小売店経由販売(BtoB取引)に最適化されており、売上比率の小さいECに注力する理由がなかったのです。

しかし、前述した「スマホシフトの加速」「新型コロナウイルスの感染拡大による消費対象・購買層・購買行動の変化」により、小売店経由販売をメインとする大手ブランドがAmazonをはじめとするECモールへの参入を余儀なくされました。

無印良品やSHIRO、DEAN&DELUCA、BAYCREW'Sグループなど、続々とECモールでの販売を強化しています。このようにECモール市場が盛り上がりを見せている一方で、情報競争の激化などにより転売屋や模倣品といったさまざまな課題が浮き彫りになっています。

  • ECモールの市場規模も大きく伸長している

    ECモールの市場規模も大きく伸長している

ECモールの課題は「参入障壁の低さ」

ECモールは実店舗販売とは異なり誰でもすぐに簡単に出品できるため、参入障壁が低いといえます。それ故に、大手ブランドの価値や知名度を利用した転売品や模倣品などが増えやすい構造になっています。

これら課題の解決策としては、EC限定で出品するという手法があります。しかし、多くの場合は既存商品の組み合わせであることから、結果的に転売屋も出品できてしまうため一時的な解決にとどまってしまいます。

プラットフォーム側の対応として、Amazonは「Brand Registry」や「Transparency」「Luxury Beauty」などの、ブランド構築や保護のためのプログラムを提供しています。

しかしながら、このような転売品・模倣品などのECモール特有の課題に対応できているブランドはごく少数です。多くのブランドは、専門的なノウハウを社内に保有できておらず打ち手が限定的なため、収益拡大のポテンシャルを多く残してしまいます。「リアル店舗での収益が好調でも、ECモールでは収益が見込めず早々に撤退した」という大手ブランドも少なくありません。

そこで次回は、「これからECモールに参入したい」「参入するからには失敗したくない」というブランド担当者に向けて、業界のトレンドやトレンドに伴うマーケティング知識などを解説します。