突発的なゲームチェンジが頻繁に起きる不確実性の高い時代においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとする変革の成否がビジネスの鍵となり得ます。そうした中、PwCでは「Digital Anywhere」を掲げ、あらゆる経営課題の解決に向けてデジタルを活用したコンサルティングやアドバイザリーサービスを提供し、クライアントの企業価値向上に取り組んでいます。

本連載では、DXの推進にあたり、PwCの実体験やDX・企業変革の成功事例および失敗を通じて得た知見を紹介します。これからDXに着手される企業や、DX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

日本企業におけるDXの取り組み状況

近年、国内外の企業において、DXは経営の重要アジェンダであり、多くの企業が取り組みを進めている状況です。PwCが、2021年1月から2月にかけて実施した「世界CEO意識調査」の結果では、「DXに対する投資を10%以上増やす計画を立てている」と回答した日本のCEOは約3割に達し、一般的には今後もそのような動きが強まる傾向と考えています。

  • 「COVID-19危機を受けて、今後3年間で以下の分野への長期投資をどのように変える予定ですか」(「大きく増やす[増加割合10%以上]」との回答のみを表示) 資料:PwC「世界CEO意識調査」

一方で、日本企業はグローバル企業と比べてDXの取り組みが遅れていると言わざるを得ない状況であり、また、その成功確率の低さが指摘されています。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、「DX推進指標(経済産業省が作成)※1」を用いて、各企業が自己診断した結果を収集・分析したレポート(DX推進指標 自己診断結果 分析レポート<2020年版>)によれば、全社戦略に基づき、部門横断的にDX推進ができている日本企業は僅か8.5%(305社中26社)と述べられています。更に、全社戦略に基づき、持続的にDXが推進できている(レベル4相当)日本企業は、わずか2社に過ぎません。

  • 成熟度レベルの基本的な考え方 資料:IPA「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020年版)」

※1:「DX推進指標」とは、経済産業省が提供しているDX推進状況の自己診断ツールです。経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門等が議論をしながら自社の現状や課題についての認識を共有し、関係者がベクトルを合わせてアクションに繋げるための気付きの機会を提供するツールになっています。DX推進の成熟度を0から5の6段階で評価することができます。

陥りがちなDXの罠

DXに対する意気込みが強かったとしても、DXを単なるITツールの導入プロジェクトと勘違いした結果、取り組みが迷走してしまう日本企業も多いのが実態です。それは、ITプロジェクト+αのDXアジェンダ(例:リモートワーク推進等)を進めても、現状の延長線上でしか物事を捉えられず、結果として小粒かつ単発的な取り組みにとどまるからです。また、特定部門(例:DX推進本部等)が流行に乗っただけの行動と思われ、全社の協力が得られず、結果として小粒かつ単発的になってしまう社内事情も散見されます。

ここで、今一度、DXの意味するところを正しく理解したいと思います。経済産業省の定義によれば、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」がDXであると説明されています。つまり、DXとは、IT化による業務効率化のみにとどまらず、ビジネスモデルそのものや企業そのものを変革する、すなわちデジタル技術を活用した全社変革に関わる全ての取り組みを指します。

こういった観点も踏まえ、DXの陥りがちな罠を回避しながら、全社変革を実現するためのポイントについて考えていきます。PwCの過去の経験より、そのポイントは4つに集約されると考えています。

(1)バックキャスト・フォアキャスト双方の観点で、未来を想定した事業構想を明確に描き切ること
(2)その上で、骨太な変革テーマ/プログラム(≒DX骨子)、及び実現ロードマップ・マイルストンを設定すること
(3)さらに、骨太な変革テーマ/プログラムの担当役員及び組織を明らかにし、Role&Responsibilityを設定すること
(4)最後に、DX司令塔を中心とした愚直な実行・サポートを行うこと

全社DXを成功に導くDXMO

最後のポイントとして挙げた、DX司令塔とは何でしょうか。PwCでは、DX司令塔を担う存在を「DXMO(Digital Transformation Management Office)」と定義しています。主な役割は、Transformation含むDX戦略全体をOn trackで実行し、また各変革テーマの着実な立ち上がりに向けた支援を、「DXMO」という立ち位置で進めることです。

また、DXMOが機能するための重要な点は、予算・リソースの制約や組織内スキル・ノウハウの不足等を解消し、強力に全社変革を推進できる役割・機能をDXMO自らが持つことです。また、全社横断的な取り組みに対しては、アクティビストとして、DXMO自らが進めることも重要です。

具体的には、第3回以降に取り上げる予定であるデジタル人材育成やデータドリブン経営実践、チェンジマネジメントなどが該当します。これらは、単に各変革テーマの進捗管理や現場と経営層との間を取り持つだけではないという点で、いわゆるPMO(Project Management Office)と大きく性質が異なります。

今回は、日本企業におけるDXの取り組み状況を踏まえた上で、DXMOの重要性について紹介してきました。自社が小手先のDXから脱却するには、DXMOが全社変革に関わる旗手となり、全従業員を巻き込みながら、経営層/CxOが掲げるビジョンの着実な実行を体現する推進主体を担うことが肝要となります。これができなければ、「デジタル技術を活用した全社変革の実現」が叶わないことが理解いただけたかと思います。第2回では「全社DXの推進体制構築」という内容で、DXMOの中身に迫っていきたいと思います。

  • 全社DX/企業変革を成功に導くDXMOの存在

著者プロフィール


本連載は、製造・自動車・電機・通信・金融・小売・人材派遣など業界横断のサービスラインで、各インダストリーの"Strategy through Execution"を実践するPwCのプロフェッショナルチーム「Transformation Strategy」が執筆を担当。戦略や変革のDesignだけでなく、“Execution” まで、クライアントのSherpaとして、困難な登山(=Transformation)を成功に導くことを目指している。 CxOをはじめとした企業の変革リーダーと共に、既存の産業・企業の枠組みを超えて、新しい成長アジェンダの創造とSustainability追求を両立、及びDigitalによる“Disruption”の危機を共に乗り越えるためのコンサルティングを実践している。

鈴木 一真 PwCコンサルティング合同会社 Transformation Strategy Senior Manager

日系コンサルティングファーム、総合系コンサルティングファームを経て、当チームに参画。製造業を中心に、15年にわたるコンサルティング経験を有する。DXを中心とした戦略立案やDX組織の立ち上げに多数従事。また、中期経営計画の策定や長期ビジョニング、シナリオプランニングを活用した未来予測等に関するプロジェクトのリードを経験。

石浦 大毅 PwCコンサルティング合同会社 Transformation Strategy Senior Manager

大手総合電機メーカー、シンクタンク系コンサルティングファーム、外資系コンサルティングファームの戦略部門を経て、当チームに参画。DXに限らず、全社・事業戦略、事業創造、M&A(Valuation~DD~PMI)、SCM、CX/EX、シェアードサービス、ブランディング等、多業界で、多岐にわたる領域のプロジェクトに従事。