この連載では、「Adobe InDesign CS5.5」を核としたソリューション「Adobe Digital Publishing Suite」(以下、ADPS)による、電子出版制作のための新しいワークフローについて考えていく。今回は、ADPS登場の背景やソリューション概要について紹介する。

拡大する電子出版市場に向けてアドビが投じた新ソリューション

前回は、昨年~今年にかけての日本国内における電子出版関連の動きをおさらいした。現在の電子出版は、ファイル形式や販売マーケットが乱立している状態で、端末もスマートフォン、タブレット、専用端末とさまざまあり、混沌とした状態が続いている。

そんな中で登場したADPSは、DTPソフトの「Adobe InDesign」のデータを使って、iPadやAndroid、BlackBerry PlayBookといったタブレット端末向けのデジタルマガジン作成し、配布できるソリューション。写真とテキスト、ビデオなどから成る雑誌形式のコンテンツをAppleのAppStoreやAndroidマーケット、または自社の販売システムなどを通じて販売できる。同ソリューションを使った電子雑誌では、米Conde Nastの「WIRED Magazine」や「The NewYorker」、「VOGUE」などのiPadアプリが有名だ。

ADPSは、電子媒体を作成して配信するだけでなく、紙媒体では難しかった効果測定機能を標準装備し、エンタープライズ版では、ウェブ解析ツール「SiteCatalyst」による詳細な効果計測もサポートしている。販売モデルは、AppleのAppStoreやGoogleのAndroidマーケットなどでの単体アプリの販売はもちろん、定期刊行物の都度課金や定期購読、独自マーケットにも対応。読者情報の取得による紙媒体と電子媒体の併読といったプランも構築可能としている。

2011年5月にアドビ システムズが開催したADPSの発表会において、アドビシステムズ 小槌健太郎氏は、電子書籍の市場について、「現在113万台のタブレットおよび電子書籍専用端末が2015年度には639万台に拡大、2010年度に640億円の電子出版サービスの市場は2015年度に3,500億円(うち、1,000億円程度が雑誌・マンガ・写真集)に拡大する」と、MM総研の調査資料を元に説明した。アドビ システムズは、こうした電子出版市場の拡大に向け、動画や音声も加えたリッチでインタラクティブな表現ができる新たなメディア制作をサポートすべく、ADPSの提供を開始したのだ。

単純に3,500億円を639万台で割ると、端末1台あたりの電子書籍の年間購入金額は5万5,000円となる。ただ、この3,500億円という数字は、携帯電話やスマートフォン向けのコンテンツ売り上げも、含めたものではないだろうか。そう考えると、iPadやタブレットよりも市場ユーザー数が多く、その増加も顕著なiPhoneやスマートフォンにADPSが対応していないことを疑問に思う。電子出版に取り組みたい企業は、最も市場性のある端末の読者を獲得したいはずだ。とはいえ、現状対応していないだけで、アドビ システムズでは、遅くとも、機が熟す2015年にはスマートフォン向けのADPSサービスを提供していくのでは、ないだろうか。

次回はAdobe Digital Publishing Suiteにおけるワークフローについて考えていきたい。