近年、一過性のブームから我々の生活に欠かす事のできない必需コンテンツに変化しつつある"お笑い"。その波はテレビ、ラジオといった従来のメディアに留まらず、「お笑い動画」といった形でWebの世界にも進出してきている。今回紹介するのは、YoutubeやYahoo動画よりも早い時期にお笑い動画に着目し、Web上でお笑い動画を配信するWebサイト「Owarai.TV」を立ち上げたメディアブレストの代表取締役・宮谷大氏。同サイトで多彩なコントを披露しているコント集団「フラミンゴ」のオレンヂ氏、竹森千人氏、吉田ウーロン太氏と共に、メディアブレストの宮谷氏に話を訊いた。
――現在運営している「Owarai.TV」の前身である、「お笑い動画サイトbrstTV」は、宮谷さんが学生のころに立ち上げたとのことですが、なぜWebを使った仕事に興味を持ったのですか。
宮谷大(以下、宮谷)「私が就職活動をしていた時期は就職氷河期で、このまま就職してもかなり条件の厳しい仕事にしか就けないのではないかと思いました。ちょうどその頃、大学でいわゆる学内雑誌の制作を行っていたんです。完全に趣味の範疇ではありましたが、それが面白くてクリエイティブ業界で働けたらいいなと思いました。Webを使った仕事に興味をもったのは、その学内雑誌のWebサイトを作ったことがきっかけですね」
――では、デジタルハリウッドに入る前からWebサイト制作のスキルがあったのですね。
宮谷「今でもWebサイト構築はあまり得意ではありません(笑)。当時はIBMのWebオーサリングツール『ホームページ・ビルダー』を使って簡易的なサイトを作っただけです。今、私の運営している会社はお笑い動画配信サイト『Owarai.TV』を運営していくための会社なのですが、仕事内容は高品質な映像を撮影し、DVD制作や携帯コンテンツ制作、タクシーの車内CM映像の制作、ホテルの有料チャンネルへのコンテンツ提供といった、各素材用に映像を編集し、エンコードして納品することなんです」
――なるほど。Webサイト制作会社ではなく、コンテンツ制作会社なんですね。YoutubeやYahoo動画もまだなかった当時、Webサイト上で動画コンテンツを配信しようと考えたのはなぜなのでしょうか。
宮谷「ちょうどブロードバンドが始りそうな時期に、デジタルハリウッドでWeb動画の配信方法を教えてもらったんです。周りの生徒は自分たちが会話している様子をインターネット上にアップしていたのですが、私は自分が会話してる風景をアップするくらいなら、大学の落語研究会の人たちのネタをアップした方が面白いと思いました。また、彼らがネタを披露する場は学園祭くらいしかないのではと思い、もっと多くの人たちに披露する機会があってもいいのでは、と考えました」
――そういった発想を思いついてから、実際にWebサイトを立ち上げるまでには、どの程度の時間を要しましたか。
宮谷「Webサイトでお笑いの動画コンテンツを配信してみようと思いついたのが、2001年の夏。2001年の11月にはもう『お笑い動画サイトbrstTV』を立ち上げていたので、約3カ月程度ですね」
――サイト立ち上げ当初、何本ほどの動画を配信していたのですか。
宮谷「開設当初は、約50本くらいでした。デジタルハリウッド東京本校にある休憩ルームに芸人さんを何組か呼んで、ネタを撮影していました」
――Webサイト立ち上げ時に苦労した点はどういったところでしょうか。
宮谷「動画をアップするためにはサーバーが必要で、そのレンタル料金がとても高いんです。でもお金がなかったので、とにかく無料で利用できるサーバーを探して、動画をアップしていました。しかしこれは無料サーバーの本来の利用方法ではなかったので、すぐに動画を削除されてしまうんです。なので、世界中の無料サーバーを探して、サーバーを切られたら別のサーバーにアップし直すという作業を行っていましたね」
――そうした苦労をしながらもWebサイトでお笑い動画を配信し続けているわけですが、テレビやラジオなど、ほかのメディアと比較したときにWebサイトであることの優位な点はどこでしょうか。
宮谷「やはりテレビには影響を受けます。ただ、それはネガティブな意味ではありません。例えば、テレビにうちのサイトに出ている芸人さんが出演した際に、テレビの視聴者がインターネットでその芸人さんを検索すると、うちのサイトが真っ先にヒットするんです。うちのサイトにくると、テレビではやっていないネタが多く配信されているので、高い確率で見てもらうことができます。そのほか、テレビと違いWebは基本的に尺を気にすることなく時間の使い方が自由なので、ネタの時間を気にしなくていいという点があります。昨今のお笑い番組は、1分ほどの短いネタが主流なので、なおさらこれは強みだと思っています」
――確かに、今テレビで活躍中のオードリーさんやU字工事さんなどのネタで、ここでしか見ることのできないものも多くありますね。芸人さんとの出演交渉はどうやって行っているんですか。
宮谷「約8年間サイトを運営しているので、お笑い事務所の方々にも我々がどのような仕事をしているのか理解していただいています。その上で、担当者の方とかなり綿密なやり取りをしています。サイト立ち上げ当初は、まず弁護士に自分たちで作成した誓約書の雛形をチェックしてもらい、その契約書にサインしていただいた芸人さんのネタだけを配信する形をとっていました。フラミンゴさんに関しては、フラミンゴ結成前から契約して動画を配信させてもらっています」
――フラミンゴさんにとって、お笑い動画をインターネット上に配信するサイトがあることについてどう思われますか。
フラミンゴ・吉田ウーロン太(以下、吉田)「我々は舞台でコントをやることを中心に活動しています。舞台終了後にアンケートを見ると、『Webでフラミンゴさんのネタを見て面白くてライブに来ました』とか、『今までフラミンゴさんのことは知らなかったんですが、昨日たまたまWebでフラミンゴのネタを見て面白いと思ったので今日のライブに来ました』という方もいました。こういうことがあるので、凄くありがたいですね」
フラミンゴ・竹森千人(以下、竹森)「インターネットなので、先ほど宮谷さんがいったようにテレビのように尺を気にしないでアップしてもらえるのが、かなり魅力的ですね」
オレンヂ「基本僕らは、よそのライブに出演するというよりも、単独ライブをずっとやってきたんです。そういったライブの集客をWebでネタを配信してくれる宮谷さんにお任せしてしまっている感じなんですよね。また、ライブに来れなかった人たちにも、Webで介してネタを見てもらえるのでありがたいですね」
――先ほど、宮谷さんがフラミンゴ結成前からネタを撮りにいっていたというお話がありましたが。
オレンヂ「出会った当初、事務所は一緒だったんですが、3人とも別々のコンビを組んでいました。その後、3組ともコンビを解散してしまって(笑)。個人的に仲の良かった5人でお笑いライブを開催したんです。その頃のライブから宮谷さんが撮影しに来てくれていましたね」
宮谷「当時一緒に『お笑い動画サイトbrstTV』を作った仲間が、たまたま5人の誰かのライブを見て、かなり面白かったということで撮影しに行ったんです」
――では、フラミンゴを結成する前の5人のライブ映像を今でも『お笑い動画サイトbrstTV』で観ることができるということですか。
宮谷「全部見れますよ。削除要請のないものは、一切消さない方針なので」
オレンヂ、竹森、吉田「見れるの!?見たい!!」
――フラミンゴのお三方は、芸人としてだけでなくCMやドラマにもそれぞれ出演されていますね。そのことがコントに活きることもありますか。
オレンヂ「うちの事務所は、お笑い事務所ではありません。なので、ドラマやCMなど、色々なことをやらせてもらっています。僕らのネタは元々演技寄りなんですが、そうやってドラマなどに出させてもらうことで、もっと演技のふり幅を増やせるんです。だからかなり勉強になりますね」
吉田「あまり意識はしていませんが、ドラマなどに出させてもらったおかげで、今できるネタもありますからね」
――宮谷さんの場合は、"お笑い動画をWebで配信する"といった発想が斬新だったわけですが、今後Web上で新しいコンテンツを制作していきたいクリエイターに対して、何かアドバイスはありますか。
宮谷「普通の人はこのような仕事をしようと思ったときに、まず、今売れている芸人さんに話しをもっていくと思うんです。でも当然ながらいきなり個人でやっているWebサイトに売れている芸人さんが出てくれるわけがありません。なので、最初はテレビに出ていない芸人さんたちを使って、お金を稼ぐことを考えなければいけません。いかにコンテンツをお金に換えていくか、というところをちゃんと考えて見い出すことが重要です」
――そういったアイディア出しについて、もう少し詳しく教えてください。
宮谷「今、うちの会社の収益の柱になっている携帯電話の着ネタは、『着うたとお笑い』や、着ボイスを使って何かできないかなと考え、思いついたものです。なんでもいいのですが、今、世の中でお金になっていることと自分の好きなことを組み合わせて考えることが大切だと思います。私の場合で言えば好きなことが"お笑い"だったので、例えば、今だと『twitterとお笑い』などですね。社会で今起こっている様々なことを見ておく必要があると思います」
最先端技術を教えてくれる専門スクール「デジタルハリウッド」
CG、VFXなどを用いたハイクオリティな映像制作が学べることに定評のあるデジタルハリウッドへ、Webを用いた仕事に就きたいと考えていた宮谷氏が通ったのはなぜだろうか。
「私がデジタルハリウッドに入学したとき、1年コースにデジタルコンテンツプロデューサーコースというのがあり、そのコースはCGやWebサイト制作、企画書の書き方などを一通り教えてくれるカリキュラムが組まれていました。そこで、動画を撮ってWebにアップする方法を教えてもらいました。これは、当時ここでしか学べないもので、もしここでこの技術を学んでいなければ、今の仕事を思いつくことも、会社を設立することもできなかったと思います」
撮影:石井健