大ヒットDVD『スキージャンプ・ペア』や映画『東京オンリーピック』、最新作では気軽に疑似競馬体験ができるWebサイト「シネマ競馬 / JAPAN WORLD CUP」など、常に独創的なセンスで映像作品を生み出す映像作家・真島理一郎に、作品制作にかける想いやスタンスについて伺った。

映像作家・真島理一郎

――真島監督はCGクリエイターとして映像作品を手がけるようになる前にデザイナーとして働かれています。いつ頃から、CGや映像に興味を持ったのですか。

真島理一郎(以下、真島)「学生時代から映画が大好きで、趣味として色々な映像作品を見ていたんです。そのなかでCGというジャンルが出てきて、いくつか作品をみて『これは面白いじゃん』と思ったんです」

――なるほど。それで会社をやめてデジタルハリウッドでCGを学ばれたわけですね。映像のジャンルとしては最初から今手がけられているようなコメディをやっていこうと考えていたのですか?

真島「"笑わせたい"というよりも、"驚かせたい"というのが先にあります。昔からイタズラ好きで、大学の課題でも、いかにクラスメイトを驚かせるかということだけを考えていたくらいです(笑)」

――真島監督は以前のインタビューでも「CGなどの手法にはこだわらないで作品を作っていく」と発言されていました。実際、作品制作を行うときは、どのように実写とCGを使い分けているのですか。

真島「実写の"生っぽさ"がその作品にとって重要な場合は実写で撮ります。また、CGの冷たい感じが面白さに繋がると思えばCGを用いますね。例えば、人を吹き飛ばすなど、結構むちゃくちゃやるときは必ずCGでやりますね。実写でやると痛みが出ちゃうんですよ。CGでおもちゃっぽく動かすと許される部分があるので」

映画『東京オンリーピック』
(C)2008 東京オンリーピック連盟 国際オンリーピック委員会

Webサイト「シネマ競馬 / JAPAN WORLD CUP」

――では今後、全編実写の作品を作る可能性もあるということですね。

真島「ありえますね。ただ僕の考えるアイディアはどうしても実写では表現出来ないような無茶なものが多いので、今のところどうしても全編実写でやりたいと思うような作品はないです。人の感情や、内面を描く作品であれば実写で撮りたくなるとは思うんですけどね。あと、やっぱりCGには凄く魅力を感じていて、僕は見慣れた風景をちょっとぶっ壊すのが好きなんですよ。見慣れた風景を描くときに凄くCGっていいなと思うんです。CGだと手書きのアニメーションに比べて、より実写に近くなるじゃないですか。"CG"はアニメーションよりも実写に近いものだと僕は思っています。"CGアニメーション"は一般的にアニメーションの分野に分けられていますが、僕はCGを実写の分野に入れてほしいと思っているくらいです」

――現在は、どのような作品を制作しているのですか。

真島「まだ詳しくは言えませんが、クライアント仕事を2、3件やっています。僕個人のオリジナル作品の制作は今ちょっと進められていませんね」

――そういったクライアント仕事とオリジナル作品の制作の仕事の割合を教えて下さい。

真島「難しい質問ですね。クライアント仕事はそれほど多くやっていないんですが、作品の数でいうと、ほぼ半々程度でしょうか。元々僕自身がオリジナル作品を多く出すタイプではないので。オリジナル作品を制作する場合は大抵長い期間をかけて制作します。イメージ的にはオリジナル作品が一段落したら気分転換しながらクライアント仕事をやる感じですね」

――クライアント仕事とオリジナル作品ではかける時間や費用、作品の方法性なども違ってくると思います。クライアント仕事をやるメリットはなんでしょうか。

真島「全面的に個性を出すオリジナル作品と違って、クライアント仕事の場合は、自分の個性を出すのは+αの部分であり、まずはクライアントさんの目標としているものを制作しなければいけません。元々大学がデザイン科だったこともあり、僕はアーティストや作家というよりも考え方がデザイナーに近いんです。その作品を見る一般の人たちに向けて、その人たちが喜ぶものをまず出してあげたいと思うんです。やるメリットとしては、自分の経験値アップですね。あまりお金にならない仕事でも面白いと思えば引き受けますよ」

――今、注目しているクリエイターや目標としている監督などはいますか。

真島「他の人が作らないものを作ろうという意識が強いので、あまり特定の人を目標にしていません。逆に色々な面白い作品を見て、"こういう表現新しいね"と思ったらそれはもうやっちゃ駄目と思っちゃう。その人のものだから。まだ誰もやっていない隙間を一生懸命探す感じですね。といいつつ、パロディ作品も大好きなので、そういうときは堂々と手法を真似します。オマージュとして。目標ではないですが、憧れている監督は沢山います。その中でも一番の神様はデヴィッド・リンチ監督なんですが、基本的に僕と作風が真逆で、僕ができない世界を創る人に憧れるんです。でも、だからといってデヴィッド・リンチのような作風の映画を自分で作りたいとは思いません。とにかく彼の作った作品を見て楽しみたいだけなんです」

――真島監督の作品も、"真島ワールド"ともいうべき独特なお笑いセンスが散りばめられた作品ですよね。処女作である『スキージャンプ・ペア』が生まれたきっかけを教えてください。

真島「『スキージャンプ・ペア』は、デジタルハリウッドの卒業制作作品として作ったものなんです。僕が入学した2001年当時、CGに対してクオリティを求める流れがあったんですが、そうでなくとも面白い作品は作れるんじゃないか、"学校で習ったことだけで作ろう"、"教科書に載っている技術だけで作ろう"という裏テーマを掲げ、この作品を制作しました」

――そのとき使ったツールを教えて下さい。

真島「『スキージャンプ・ペア』は『Autodesk 3ds Max』が中心ですね。今はディレクションに専念しているので、CG制作はプロダクションにお願いしていますが、実はデジタルハリウッドを卒業してから、大して使うツールは増えていません(笑)。映画『東京オンリーピック』などはプロダクションと一緒に作ったのですが、『Autodesk Maya 』が中心でした」

――真島監督の作品は基本的に短編作品中心ですが、長編作品にも興味はありますか。

真島「いつかは長編コメディ映画を撮ってみたいとは思っていますが、基本的に僕は長いお話を作れない人だと思っているんです。ただ、今、僕がやりたいと思っている企画は90分程度の作品にしたいな、と。でも90分かけてひとつの物語を描くというよりは、とあるネタを90分かけて描くというイメージなんですけどね」

――では、今後の活動予定について教えてください。

真島「そうですね、年内はクライアント仕事が詰まっているので、2011年にはオリジナル作品に取り組みたいと思っています」

――CG業界は比較的若い業界だと思うのですが、真島監督はご自身が50~60歳になったとき、何をしていると思いますか。

真島「どうなっているんですかね。基本的にはディレクションをし続けていきたいと思っていますが。今とあまり変わらないスタンスで仕事をしていたいですね。でも、もしかしたら『映像もうやーめた』といって違うことをやっているかもしれませんよ(笑)」

――もしそうなったら舞台の演出とかをやっている可能性もありますよね。

真島「できないですけどね。でも、全然ありですよ。表現方法は映像に限定しないでやっていきたいですね。自分のなかで楽しいことがやれればいいやと思っています。将来のことはあまり見えていないんですけど、でもそのほうが楽しいなと思っています。40歳、50歳、60歳になっても、きっとイタズラをしていると思います」

クリエイターとしての武器(長所)が見つかるデジタルハリウッド

今回お話を伺った真島監督は、デジタルハリウッドの卒業生だ。真島監督の考える、デジタルハリウッドに通うメリットとは何なのであろうか。


真島「CGクリエイターには僕みたいにアイディア優先で、自分の個性を表現したいと思う人や、単純にかっこいいCGが作りたい人など、様々なタイプの人がいるので一概には言えませんが、やはり、自分にしかできない武器(長所)を見つけることが大切だと思います。デジタルハリウッドではそういった自分なりの武器(長所)を見つけるお手伝いをしてくれて、なおかつそこを伸ばすことができるところですかね」

撮影:石井健