本連載でも過去に何回かネタにしている米海空軍・海兵隊の次期戦闘機F-35ライトニングII JSF(Joint Strike Fighter)だが、このF-35で使用するエンジンに関して、興味深い動きがあった。それと絡めて、軍の装備調達における競争原理の問題について考察してみよう。
F-35用のエンジンは2種類ある
F-35の機体はロッキード・マーティン社が主契約社になって開発を進めているが、エンジンはプラット&ホイットニー社が担当しており、F135というエンジンを開発している。ところがそれとは別に、代替エンジンとしてゼネラル・エレクトリック社がイギリスのロールス・ロイス社と組んで、F136というエンジンを開発している。
F135とF136の両方を実用化すれば、F-35はどちらのエンジンでも装備できる。そうすれば競争原理が働いて、価格低下や品質向上を図るインセンティブになるという主張があり、米国議会の会計監査部門(GAO : Government Accountability Office)の報告書でもそういう主張をしていた。そして議会の後押しもあり、ゲーツ国防長官や国防総省の抵抗を押し切ってF136エンジンの開発に予算をつけ続けてきた。
実はどちらも、米空軍のATF(Advanced Tactical Fighter)計画向けに開発したエンジンに源流がある。ATFは2種類の機体・2種類のエンジンで競争試作を実施した。機体はF-22のベースとなったYF-22(ロッキード・マーティン社製)と、選に漏れたYF-23(ノースロップ・グラマン社製)。エンジンは、F119(プラット&ホイットニー製)とF120(ゼネラル・エレクトリック製)だ。
そして、YF-22とYF-23のいずれも、F119とF120の両方を装備できる設計になっていた。都合4種類の組み合わせの中から、YF-22とF119の組み合わせを採用することになり、これが現在のF-22Aラプターとなった次第だ。
そして、JSF計画では開発リスクやコストを低減するためにATF用のエンジンを発展させることになり、F119の発展型としてF135が登場した。では問題のF136はというと、これはF120の発展型。言ってみれば「敗者復活戦」によって、新規開発よりも低いリスクとコストで代替エンジンを生み出そうとしたわけだ。
さまざまな競争の形態
軍の装備調達に限らず、大抵の業種において「競争することで安くなる」「競争することで品質向上に向けたドライブがかかる」といった主張がなされる。また、複数の供給源を確保することは、リスクの分散にもつながる。そこで、さまざまな形で競争を図ることになるのだが、その競争の形にもいろいろある。
(1) 同じ分野で同時に複数の装備を調達する
戦闘機・艦艇・戦車といった装備について、同時並行的に異なる機種を調達するもの。過去には頻繁に見られたが、価格上昇と調達数量の減少により、現在では滅多に発生しない。本連載の第35回で取り上げた「MRAP(Mine Resistant Ambush Protected)」は数少ない例外だが、これは短期間に数を揃えるためのもので、競争原理の話は後回しだから話が違う。
(2)調達する装備は一種類で競争試作を実施する
ATF計画におけるYF-22とYF-23、JSF計画におけるX-35(ロッキード・マーティン)とX-32(ボーイング)、といった事例が該当する。これでも競争原理は働くし、堅実な設計のものと革新的な設計のものを競合させるといった応用も可能だ。
(3)調達する装備は一種類で量産時にセカンドソースを確保する
研究開発は1社に担当させて(ただし、その前段階として(2)のパターンになることもある)、出来上がったものを量産する際に複数のメーカーに分担させたり、複数のメーカーで競争させたりする方法。セカンドソースというと、かつてインテル社の80286プロセッサをセカンドソースでも製造していたように、航空宇宙・防衛産業界に限った話ではない。
ともあれ、こうしたさまざまな形で競争を図り、コスト低減や品質向上を図ろうと工夫するわけだが、問題はその競争に関わるメーカーをどのような形で確保するかだ。また、「競争させれば価格が下がって万々歳」というほど単純に言い切れない事情もある。そして、時には厄介な政治問題につながるケースもある。その辺の話は、次回以降に取り上げていこう。