データセンターの概要や利点について、皆さんの疑問に答えるかたちでご紹介している本企画。今回は、サーバ技術の進化によって誕生した「VPS(Virtual Private Server : 仮想専用サーバ)」についてです。

Q. 「VPS(仮想専用サーバ)」というサービスを目にしましたが、どういうものなのでしょうか? 「専用」と言いながら「仮想」と付いていて、何かを偽っているような印象を受けます。

Answer.
VPSとは、実際は共用サーバでありながら、専用サーバと同等の機能を提供するサービスです。"仮想的に"専用サーバのようなサービスを提供するために「仮想専用サーバ」という名称になっていますが、決していかがわしいものではありません。

共用サーバのコストメリットと、専用サーバの利便性を両立

共用サーバと専用サーバの違いについては、ホスティングについて取り上げた前回の解説の中で紹介しました。

簡単におさらいしておくと、共用サーバは、データセンター事業者が用意したサーバ1台を複数の契約者で共用するサービス、専用サーバは、同じくデータセンター事業者が用意したサーバ1台を契約者1人で独占的に使用できるサービスです。

共用サーバのメリットは、非常に安価(安いものだと月数百円)という点です。一方で、他の契約者との共用であるため、ほかの契約者のアプリケーションが大量のリソース(CPU、メモリ、ネットワーク帯域)を消費した場合、その影響を受けてパフォーマンスが下がることがあります。

また、共用サーバでは、同じOS/ミドルウェア上で複数の契約者のアプリケーションが同居することになるため、勝手にOSやミドルウェアを再起動したり、アップデートしたりすることができません。さらに言えば、OSやミドルウェアの設定を変更したり、ソフトウェアをインストールしたりすることも許されません。

サーバ管理者の中には、そうした自由度の低さを懸念して、高いパフォーマンスが必要なくても専用サーバやハウジングを選ぶ人が少なくないようです。そんな方々の需要に応えるべく登場したのがVPSです。

仮想化技術の登場で実現可能に

VPSでは、仮想化という技術を使って上記の要望に応えています。

仮想化技術を使うと、1つのハードウェア上で複数のOSを立ち上げられるようになります。すなわち、実際は1台なのですが、"仮想的"に複数のサーバ(仮想マシンと呼ばれます)を稼働したようなかたちになります。

VPSの契約者は、この仮想マシン単位で借り受けることになります。OSごと借りられるので、共用サーバのように環境の設定を変更できなかったり、OSの再起動ができなかったり、といったことがありません。

また、各仮想マシンに対してCPUのコアやメモリなどのハードウェアリソースがあらかじめ割り当てられるので、割り当て量を超えてリソースを消費するようなことがなくなり、他の契約者のアプリケーションに影響を及ぼすケースが大幅に減ります。

したがって、VPSは、通常の共用サーバよりは価格が高くなるものの、ある程度安価で、自由度の高い管理ができるサービスと言えます。

とはいえ、実際は共用サーバ、多少は周りの影響を受ける

以上のようにメリットが大きいVPSですが、制約がないわけではありません。

例えば、先ほど、他の契約者のアプリケーションの影響を受けるケースが少ないと説明しましたが、ネットワークインタフェースの面では(サービスによっては)影響を受けることもあるようです。

加えて、システム構成上はあくまで1台のハードウェアを共用するかたちになるので、ハードウェアの再起動に際しては、同居するすべての仮想マシンが停止することになります。したがって、仮にハードウェア障害が発生すれば、例えそれが一部の契約者のせいであったとしても、すべての契約者が影響を受けることになります。この点は専用サーバとの大きな違いと言えるでしょう。

また、共用のうえに借り受けたサーバになるため、ハウジングのように、セキュリティアプライアンスやネットワーク機器などのハードウェアを追加することはできません。

こうした点を考慮すると、システム構成まで気にするような大規模なシステムではハウジング、ネットワーク面も含めて完全に独立した運用を行いたい場合は専用サーバ、インフラの管理は完全にお任せでもいいのでとにかく安価に抑えたいという場合は共用サーバ、という選択になるでしょう。

なお、最近のデータセンターサービスにはもう1つ、「クラウド」というサービス形態があります。こちらにはこれまで説明したものと違った特徴があります。来週取り上げる予定ですので、しばらくお待ちください。