金融業界は、「2009年のサブプライムローン危機を受けた規制の導入」「世界中でさまざまなフィンテックスタートアップの出現」「デジタルバンキングを好むようになった消費者」などにより、過去10年間にわたって数多くの変化にさらされてきました。

顧客体験を向上につながるオープンバンキング

こうした変化に対応するため、金融業界では多くの分野でデジタルの導入が進みましたが、デジタル化の余地はまだかなりあります。金融業界のさらなるデジタル化を進めるカギとなるのは、データのフル活用ではないでしょうか。自動化されたデータドリブンプロセスへと移行することは、金融業が変化に対応するだけでなく、変化を最大限活用するためにもベストな方法と言えます。

例えば、過去100年以上にわたり、リテールバンキングに欠かせない役割を果たしてきた銀行の実店舗について考えてみましょう。顧客がオンライン取引へと移行していくなか、実店舗やATMは減少傾向にあります。全国銀行協会によると、国内のメガバンクや地方銀行などの店舗数は、2001年3月末の1万5301店から2022年3月末の1万3665店へと、この20年間で約1割減っています。このペースに歯止めがかからなければ、ますます店舗は減っていくことが予想されます。

こうした変化の渦中には、チャンスが眠っていることも少なくありません。例えば、リテールバンクはデジタルインタラクションを通じてより多くの顧客データを収集し、リアルタイム分析を適用することで、サービス拡張や業務プロセス高速化を図ることができるのです。

海外で急速に広まっているコンセプト「オープンバンキング」もその一つでしょう。オープンバンキングとは、APIを介して、銀行が保有する各種データや機能をフィンテック関連の企業をはじめとする外部事業者に開放・連携して新たなサービスを生み出す取り組みです。

例えば、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行は、オープンバンキングを活用し、配車サービスのUberと連携して、ドライバーへ支払われた料金をリアルタイムでドライバーの口座に入金しています。オープンバンキングを活用すると、銀行は顧客体験の向上につなげることが可能なのです。

Clouderaの事業・製品ソリューション担当バイスプレジデントを務めるシンディ・マイクは次のように述べています。「ブラジルやインドの銀行では、顧客は銀行から(他の店の)商品・サービスのクーポン券を受け取ることができます。これは銀行がエコシステムへの通信をオープン化した結果として実現しました。これにより、銀行は顧客に提供する自らの価値を高めることができるのです」

手間のかかる業務を自動化テクノロジーで大幅軽減

自動化のテクノロジーの導入は、銀行に多くのメリットをもたらすことが分かっています。

例えば、銀行が自動化のテクノロジーを取り入れたら、住宅ローン査定のようなプロセスに労力を必要とする業務の時間と費用を削減できます。平均的な住宅ローンでは、何ページにもわたる書類の準備・検証・確認の必要があります。海外では、ローン1件あたり平均11,000ドル以上もの経費がかかっているという話もあるようです

ローンの品質管理のプロセスで発生する問題は、「書類の不備」と「それに付随するエラー」を原因としていることが多いです。これらはデジタルプロセスに完全移行することで解消することが可能になります。テクノロジーを導入すれば、エラーや書類の欠落を減らせるだけでなく、住宅ローン貸付手続き完了までの時間を劇的に短縮できます。つまり、テクノロジーは企業に競争上の強みをもたらすのです。

機械学習によるリスク管理

また、リスク管理はあらゆる金融サービス企業にとって課題です。機械学習(ML)を使ったアナリティクスを活用すれば、ビジネスリーダーは多種多様な変数に照らしてリスクを評価できます。

例えば、気候変動という変数はどうでしょう。気候変動は広い範囲に影響を与えるものです。建設業界を例に挙げると、猛暑、台風、豪雪などは、建設プロジェクトを予定通り進めることができるかどうか、完成が遅れた場合に借り手がローンを返済できるかどうかということにまで影響します。

つまり、銀行やローン会社は今後ますます、融資に関わる意思決定において、気候をはじめとしたさまざまなファクターを反映させる必要に迫られます。保険業界では、気候変動の影響を予測できるかどうかが、その会社の生き残りを左右する要因になるかもしれません。

そして、セキュリティや当局の規制における懸念も、金融サービス企業にとって極めて重要です。MLによるストリーミングデータ分析を利用すれば、不正行為の検知を強化したり、顧客満足度を向上させるために支払い条件を即座に調整したりすることが可能になります。また、データ統合データプラットフォームのようなツールを利用することで、当局が定めるプライバシーの保護や規制関係の報告、情報保持スケジュールの順守において、すべての顧客データを単一画面で確認することができるのです。

マイクは、「ネットワークトラフィックと過去データを組み合わせてリアルタイム分析を行えば、データ侵害が起きたことを示唆する異変を見つけることができます。データとアナリティクスはデジタルセキュリティだけでなく、物理的なセキュリティのためにも重要です」と述べています。

このように、金融サービス業におけるデジタル革新は、まだかなりの余地を残していると言えるのです。

著者プロフィール

大澤 毅(おおさわ たけし) Cloudera株式会社 社長執行役員


IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。