DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業は、複雑なインフラストラクチャを構築する傾向があり、レガシー アプリケーションを更新しながら、マルチクラウド、仮想化、クラウドネイティブの機能を追加しています。最終的に、IT担当者はクラウド、システム、アプリケーション、データベース インフラストラクチャなど、多様で複雑、かつ分散したネットワークを管理することになります。

その結果として生じる複雑さを抑制するため、組織はシステム監視の簡素化を目指しているにもかかわらず、さまざまな監視ツールや管理ツールを使用するため、サイロ化が進みがちです。

このように断片的なアプローチは、オペレーションの盲点を増やし、問題解決を遅らせることになります。また、セキュリティ上のリスクも高まります。やがてIT担当者は、複雑さに圧倒され、アプリケーションの更新やインフラストラクチャのダイナミクスについていけなくなります。

このようなシナリオはよくあることですが、決して避けられないことではありません。ITチームは、複雑さとサイロ化を克服できる、統合されたコスト効率の高いフルスタックのエンド・ツー・エンドの監視サービスを導入することにより、DXの推進を容易にすることができます。

オブザーバビリティと従来の監視の違い

フルスタックのエンド・ツー・エンドの監視を実現するのが「オブザーバビリティ」( Observability :可観測性)です。オブザーバビリティは、従来の監視とは異なります。

従来の監視は、IT組織がインフラストラクチャとアプリケーションの実際の状態を把握する上で役立ちます。一方オブザーバビリティは、インフラストラクチャやアプリケーションの大量の遠隔測定データや通知を取得して処理し、「どのコンポーネントが稼働しているか」「どのコンポーネントがダウンしているか」「どのコンポーネントに変化があったか」を表示します。

通常、従来の監視は、特定のネットワーク、クラウド、またはインフラストラクチャに焦点を当てています。アプリケーションとインフラストラクチャの要素を追跡することで、IT担当者は異常を特定し、問題が発生したときに調査します。

また監視は、遠隔測定データを手動または基本的な統計関連しきい値に対して評価するために構築されたメトリック指向のダッシュボードに依存します。監視ツールは非常に有用ですが、ドメイン間の相関関係、サービス提供の洞察、運用依存性、予測可能性を提供するものではありません。現代のシステムは、複雑なマルチクラウド環境と膨大な遠隔測定データを有しているため、監視による問題の原因究明は困難です。

オブザーバビリティは、出力を調べることで、システムの内部状態を測定し、エンドユーザーの体験からサーバ側のメトリックやログに至るまで、アプリケーションやシステムを全体的に見渡すことができます。

オブザーバビリティには、監視も重要な要素として含まれます。オブザーバビリティを得るためには、まず監視による情報収集が必要であり、監視によって得られた洞察とメトリックを使用して、目の前の問題の原因を理解します。

監視は、システムが期待どおりに動作しているかどうかを判断するために、データを集計し、システムの状況を表示するために使われます。オブザーバビリティはこれらの情報を分析し、期待される成果や目標と照らし合わせます。これにより、IT担当者はインフラストラクチャやアプリケーションの状態を把握できます。

このように、複雑な環境を全体的に見ることで、サイロ化を回避できます。

オブザーバビリティによって得られるメリットとは?

オブザーバビリティを構築すると、IT企業は複雑で多様な分散型ハイブリッド環境およびクラウド環境において、パフォーマンス、可用性、デジタル エクスペリエンスを継続的に改善できます。

オブザーバビリティによって、組織は異常を迅速に発見して解決できます。さらに、フルスタックのオブザーバビリティは、監視や迅速な問題解決にとどまらず、ドメイン間のデータ相関、機械学習(ML)、IT運用のための人工知能(AIOps)による洞察、自動分析、実行可能なインテリジェンスを提供します。膨大なリアルタイムおよび過去のメトリック、ログ、トレースデータを利用して動作します。

また、オブザーバビリティは、従来の監視に関連するサイロや断片的なアプローチを超えています。オブザーバビリティが限定されていない場合、つまりMLやAIOpsを含む場合、収集した大量のデータを活用し、洞察、自動分析、実用的なインテリジェンスを提供して、ITスタッフの迅速な問題解決を支援します。また、ITOps、DevOps、セキュリティの各組織は、デジタル体験とITの生産性を継続的に改善しながら、一貫性があり、最適化され、予測可能なビジネス サービスの提供を実現できます。

その結果、顧客と従業員は、より良いシステム運用の恩恵を受けることができます。このテクノロジーは、あらゆる規模や業種の企業に対して、クラウドに接続されたオンプレミスまたはSaaS(Software as a Service)の柔軟な展開を通じて、包括的で統合的、かつコスト効率の高い機能を提供します。

DXに取り組む組織は複雑化を望んでいません。確かに、レガシーアプリケーションを更新し、スタックに多数の最新サービスと機能を追加している間は必要ありませんが、複雑さを軽減する鍵はオブザーバビリティです。

オブザーバビリティは、変換プロセスを簡素化します。運用におけるノイズを低減し、ITOps、DevOps、セキュリティチームに利益をもたらします。 チームは、問題や異常の検出をより積極的に行うことで、最適なITパフォーマンス、コンプライアンス、レジリエンスを実現できます。フルスタックのオブザーバビリティを使用すれば、組織は規模や業種を問わず、ITの複雑性を軽減し、DXに対応できます。

著者プロフィール


Head Geek, SolarWinds, Inc. トーマス・ラロック(Thomas LaRock)

SolarWindsのHead Geekとして、データベースのパフォーマンスチューニングや仮想化に関する問題の解決を支援。プログラマー、開発者、アナリスト、データベース管理者として、20年以上にわたりIT分野に従事し、現在SolarWinds Database Performance Analyzer(DPA)として知られているソフトウェアの初期バージョンを作成。