データセンターの選定は慎重に行わなくてはならない。一度システムを稼働させてしまうと(「火を入れる」と表現される)、物理的な移動は極めて困難となり、あとからデータセンターを変えたいと思っても、実際にはできないか、予想外のコストと時間を要することが多いからである。

しかし、日本国内には現在、170を超えるデータセンター事業者が存在する。数あるデータセンターから自社のニーズにマッチして、長く付き合えるデータセンターを選ぶには各データセンターがどのように差別化を図っているのか、その個性を見極める必要がある。以下、データセンターの比較における4つのポイントを紹介する。

1.各種サービスへの接続性

さかのぼること15~20年前、データセンターの選定においては、どのくらいの帯域でインターネットへ接続しているかが特に重視されていた。現在もIX(インターネットエクスチェンジ)への接続帯域や接続しているプロバイダー数は重要なチェックポイントであるが(専門誌などでは帯域ベスト10といった記事が見られる)、多くの事業者が広帯域を持っている現状では、かつてほど重視される要素ではない。

昨今、接続性で注目されているのは、主要なパブリッククラウドに対するインターネットを経由しない接続である。その理由として、インターネット経由の接続性の不安定さやセキュリティの懸念、ネットワーク遅延といった課題がある。こうした課題を背景に、パブリッククラウドは基本的にインターネット経由で利用するのだが、企業向けに専用線を使って接続するサービスが提供されている。

これらの接続ポイントであるゲートウェイが設置されているデータセンターであれば、構内接続によって利用が可能である。ゲートウェイが設置されていなくても、専用線を使った接続サービスが用意されているデータセンターも増加している。パブリッククラウドとデータセンターを相互補完的に使うのであれば、ロケーションの冗長性を考慮して後者を選択する企業も多い。

パブリッククラウドへの接続性は汎用的なものであるが、ある業界に特化した接続性についても考慮されることがある。例えば、金融機関が利用する取引所システムなどのゲートウェイがあるデータセンターでは、そのゲートウェイへの接続を求めて金融機関が集まり、1つのエコシステムが形成されている。金融機関はマイクロ秒単位でデータのやりとりを行うため、物理的に近いことが要求されるのである。

このように接続性という面では従来、重視されていたインターネット接続だけではなく、パブリッククラウドや業界特化の付加価値ネットワークへの接続も重要になっている。検討しているデータセンターがどのようなサービスを用意しているのか、具体的にどのくらいの費用が発生するのか、利用にあたり制限はないか(回線の引き込みなど)などを確認しておくべきである。

データセンターとクラウドのパブリッククラウドのハイブリッド構成例(Coltテクノロジーサービス)

2.電力供給

データセンターが利用され始めた20年ほど前と比べると、大きく変わったのが電力供給量である。かつては、1ラック当たり2kVA(キロボルトアンペア)程度が標準であったが、現在は4kVA~6kVAが主流となっている。これは、高密度サーバの登場により、1ラックに収容するサーバ数が増加し、要求される容量が増えたことによるものだ。この傾向は続いており、1ラック当たり10kVAが要求されるケースもある。

このような要求が100ラック、あるいは1000ラックというレベルになると、トータルで必要な電力量は1000kVA~1万kVAまで膨れ上がり、桁が変わってMW(メガワット)となっていく。最近のデータセンター開設などの記事では「5MWのキャパシティ」というように、この単位をよく目にするようになった。

一般の企業では100ラック単位を超える利用はほとんどないだろうが、システム構成によってラック当たりの電力要求が今後予想以上に大きくなることも考えられる。それも踏まえて、データセンターの全体としての電力供給能力や1ラック当たりの最大供給能力が自社の利用計画にマッチしているか確認しておくべきである。

特に拡張が必要になった場合、自社ラックがあるエリアに余分な電力のキャパシティがあるのかどうかは重要である。比較的、新しいデータセンターでは供給能力が高くなっているため問題がないケースが多いが、築年数が経過しているデータセンターでは拡張できないケースもあり得る。また、新しいデータセンターでも、大型顧客が入居しているケースでは、それ以外の顧客への供給量が制限されている可能性もあり得る。

3.立地

データセンターがどこに存在するかも重要なポイントである。これは一概にどこが良い、悪いを決められるものではなく、データセンター利用の意図によって変わってくる。一般的には自社に近いほうがシステム障害などの対応で有利だが、災害時の業務インパクトを最小化するためにデータセンターを利用する場合であれば、アクセスの利便性よりも地震や洪水などの自然災害の発生確率が重要なチェックポイントになってくる。

さらに、災害が発生した場合の影響度については、PML(Probable Maximum Loss)という指標が参考になる。PMLは予想最大損失額のことで、地震により設備が影響を受けた場合に設備再開(復旧)に伴うコストの割合を示す。この数値が低いほど安全性が高いことを意味する。

しかし、日本の場合「ここなら絶対に安全」と言える場所はないのも現実だ。事業継続が必須と考えるなら、複数の拠点を設けることが現実的である。またはクラウドとデータセンターとの併用も有効な選択肢である。ここでもクラウドとの接続性がキーとなってくる。

4.運用サポート

機器のリブートやケーブル接続など、シンプルな作業については、ほとんどのデータセンターでオンサイトサポートとして提供している。このため、システムが安定稼働状態に入ってしまえば、顧客がわざわざデータセンターに行かなければならないというケースは少なくなってくる。

しかし、重大障害が発生した場合や新たなシステムを設置する場合など、現地での作業が必要となることもある。このような時に活用できるプラスアルファの運用サポートサービスがあると、実際に現地に行かずに済むため、稼働コストの削減や対応時間の短縮が実現できる。

例えば、IP接続できない機器にKVM(Keyboard, Video, Mouseの略)スイッチを通してリモートアクセスを用意するサービス、障害時に駆け付けた機器ベンダーに渡す交換パーツなどを保管できるロッカーを提供するサービスがある。

これらのサービスは、データセンター事業者側が24時間体制で人員が配置されていることが前提となる。いわゆる「駆け付け」のコストを抑制しつつ障害復旧の迅速化を図るには、オンサイトの運用サポートが充実しているデータセンターが有利と言える。

ただし、これらのサービスを利用するにあたり、自社のセキュリティポリシーを十分に考慮する必要がある。自社システムへの他社人員のアクセスを制限するポリシーの場合、そもそもこれらのサービスが使えない可能性もあるのだ。

まとめ

自社に最適なデータセンターを見極めるためのポイントとして、接続性、電力供給、立地、運用サポートの4点を説明してきた。これらに加え、項目としては挙げていないが、もちろん「コスト」も重要なポイントである。そのほかのサービスと同様、使い勝手が良いほうがコストも高くなる。

自社のデータセンター利用の意図、目的とこれらのポイントを照らし合わせて、適正なコストで後悔のないデータセンター選定をしてほしい。すべてのポイントで強さを持ち、かつコストに見合うというデータセンターは、なかなかないだろう。何を「一番譲れないもの」としてとらえるかを、自社のビジネス戦略を踏まえて明確化していくことが肝要である。

Coltテクノロジーサービス株式会社
ヨーロッパ全域で事業展開するColtグループのAPACにおけるビジネスユニット。旧称 KVH株式会社。自社構築のインフラを世界28カ国48エリアで所有の上、超低遅延・完全冗長化ネットワークをグローバルに展開し、法人向けネットワーク、音声、データセンターサービスを提供している。