コンピューティングのプロに求められる倫理規程が改訂

ACMのロゴマーク

「Association for Computing Machinery(ACM)」という団体がある。ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズムなど情報処理の研究者やエンジニアが集まったいわゆる学会である。メンバーは約10万人とコンピューティングだけの学会としては世界最大級である。IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)は40万人以上の会員を持っているが、コンピュータ関係だけではなく、電気工学、電子工学全般をカバーしている。

コンピュータを使う情報処理のプロが、プログラムに悪意のあるバグを仕込んだり、ウイルスを入れたりすると大きな損害が発生するので、コンピューティングのプロは高い技術だけではなく、高い倫理観を持って行動することが要求される。このため、ACMは倫理規定を定めているが、それは1992年に作られたものである。1992年と言えば、インターネットが世の中で広まり始めたころであり、深層学習を使うAIも社会に影響を与え始める前であり、現在では環境がかなり異なってきている。

このため、ACMは専門の委員会を作り、2年あまりにわたって、倫理規定の改定を検討してきた。このほど、改訂版が出来上がり、「ACM Code of Ethics and Professional Conduct」として公表された。

  • ACM Code of Ethics and Professional Conductのロゴ

この原本のPDFは、約10ページあり、付属のケーススタディも同じくらいの分量がある。分量が多いので、この連載では、倫理規定の主要な部分だけを抜き出して紹介したい。また、筆者の理解不足から、日本語訳が適当でない部分もあると思われるので、倫理規定を正確に知りたい場合は、原文を確認していただければと思う。

倫理規定の存在意義

コンピューティングのプロフェッショナルの活動は世の中を変える。このため、コンピューティングのプロフェッショナルは自分の仕事が世の中に与える広範な影響を考えて、公共の利益(Public Good)を守るように、責任をもって行動しなければならない。このACMの倫理規定はプロの技術者の良心を示すものである。

この規定は、すべてのコンピューティングのプロフェッショナルの倫理的な行動指針となるように作られている。また、この規定は、違反が起こった場合、どのようにして違反の影響を修正するかの基礎ともなる。

倫理規定は、公共の利益が最も重要なものであるという考えに基づいて、どのような責任を果たすかという原則としてまとめられている。そして、それぞれの規定にはいくつかのガイドラインとなる文章が付いている。ガイドラインは、コンピューティングのプロフェッショナルが、規定の条文を理解し、適用する助けとなる説明が含まれている。なお、このレポートでは太字で書かれた規定の項目は全体を翻訳しているが、ガイドラインの文章は重要な部分だけを翻訳し、多くの部分は省略しているので、規定を正確に理解したい場合は、原文を参照して戴きたい。

第1節は、この規定の基礎となる倫理的な原則を述べている。第2節は、プロフェッショナルの責任に関するより具体的な考察を述べている。第3節は、リーダーとなる人がどう行動すべきかのガイドラインを述べている。ここで言うリーダーは、組織として選ばれた人だけでなく、ボランティアでリーダーをかって出た人の場合もある。

そして、すべてのACMメンバーは倫理的な行動をすることが要求され、この規定を守るべきことが第4節に述べられている。

(次回は8月16日の掲載予定です)