筆者は毎週のようにインタビューをして記事を書いているのですが、事前に質問案を送ることがあります。基本の流れはあるのですが、毎回ある程度の時間をかけて作成しています。今回は、ChatGPTを使ってインタビューの下準備を効率化してみましょう。→過去の「柳谷智宣のChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」の回はこちらを参照。
著名ジャーナリストになりきってインタビュー案を作成してもらう
まずは「高効率な水力発電システムを開発した会社の社長に取材します。質問案を考えてください」と直球のプロンプトを入力してみましょう。
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出力
特徴、課題、事例、リスク、コスト、展望、ライバル、将来、一言、と言う流れで、9つの質問を作成してくれました。細部を調整すればほぼ流用できそうな完成度です。もし、足りないのであれば、プロンプトを「質問案を20個考えて」と修正し、回答から取捨選択すればよいでしょう。
とは言え、この質問案を読み上げて回答を得るだけではいいインタビューになりません。もっとストーリーとして情報を引き出し、その場も盛り上げたいところです。ここがインタビュアーの腕の見せ所ですが、今回はChatGPTの力を借りましょう。
インタビュースキルの高い著名人に取材をシミュレーションしてもらい、やり取りを参考にしたり、そこから質問案を抽出したりできます。まずは、ChatGPTが誰に扮するのかを決めます。
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プロンプト
インタビュースキルの高いジャーナリストを教えてください
出力
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プロンプト
テリー・グロスさんのインタビュースキルについて教えてください。
出力
テリー・グロスさんのことを調べてみると、1975年に米国公共ラジオ放送に入社して以来、数千人のゲストにインタビューしてきたそうです。
では、テリー・グロスさんに扮するChatGPTにインタビューを行ってもらいましょう。今回はプロンプトをシンプルにしましたが、本来は取材相手の情報をもっと詳しく入力するほうがよりリアルなやりとりになります。
ロールプレイする際は、冒頭に「あなたは~です」と明示しましょう。ChatGPTはプロンプトの最初と最後の文章を重視する傾向があるので、まずは役割を定義するのです。
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プロンプト
あなたはテリー・グロスさんです。
高効率な水力発電システムを開発した会社の社長に取材したときのやりとりをシミュレーションしてください。 出力
相手に共感し、理解した質問をしているのがわかります。特に、相手の発言を受けて、まとめて返すところが秀逸です。そのうえで、流れのままに次の質問につなげています。これはとても参考になります。
途中で「テリー・グロスのように、ジャーナリストとしての視点から詳細な質問をし、ゲストの反応に応じて会話を調整しながら、深い理解とリスペクトを示すインタビューを行うことができます」のように止めてしまうことがありますが「やり取りを続けてください」とプロンプトを入力すれば、続行できます。
インタビュイーの情報を学習させて取材の事前練習をする
インタビューの質問案が用意できたら、こんどは取材のシミュレーションをしてみましょう。インタビュイーやプロダクトの情報をChatGPTに読み込ませたうえで、質問するのです。
プロフィールや経歴、経営哲学、商品情報などを読み込みます。今回はダミーデータをChatGPTで作成しましたが、実際には会社のホームページや既存のインタビュー記事などをコピー&ペーストするとよいでしょう。Wikipediaもよい情報源になります。
記憶させるプロンプトは情報の最後に書きましょう。先頭に書いても動作しますが、長文を覚えさせる場合は、最後に書く方が効果的です。また、放っておくと復唱を開始してしまうことがあるので、返事を指示しておくとよいでしょう。
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プロンプト
名前: 山田 修一 (やまだ しゅういち)
プロフィール:山田修一氏は~……。
以上が、取材相手の情報になるので記憶してください。返事は、はい、のみでお願いします。
続けて、ChatGPTのロールをインタビューとして指定し、こちらがインタビュアーであることを明示します。そのうえで、質問に回答するように書けば完了です。質問案を見ながら質問してみましょう。
その際、音声入力でプロンプトを入力すれば、さらに取材の練習効果が大きくなります。ChatGPTと音声でやり取りするなら、Chromeブラウザの拡張機能「Voice Control for ChatGPT」](https://chrome.google.com/webstore/detail/voice-control-for-chatgpt/eollffkcakegifhacjnlnegohfdlidhn)を利用しましょう。
拡張機能をインストールし、ChatGPTをリロードすると画面の下に大きなマイクボタンと設定メニューが現れます。まずは、言語メニューから日本語を選択します。ChatGPTの出力を音声再生するならスピーカーアイコンをオンにしておきましょう。設定画面では、再生スピードを調整できます。
あとは、マイクボタンを押すと音声認識が始まります。再度押すと停止し、そこまで話した内容がプロンプトとして入力されます。スペースキーを押しても音声認識できます。この場合は、スペースキーを押している間に音声を認識し、離すと終了し、プロンプトが入力されます。
入力した情報はたった780文字なのですが、取材の質問に対して、さもありそうな返答をしてきます。書いてもいない製品の技術的優位性や開発時のエピソードなどを語ってくれるので、いい練習になります。
ここで、テリー・グロスさんのように「それは興味深いですね。そのタービンは~」や「それは大変そうですね。しかし、その結果がこの革新的な水力発電~」など、インタビュイーの発言を受けた上で次の質問につなげる練習をしておくと、現場で棒読みになって盛り下がってしまうことを避けられるかもしれません。
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プロンプト
それでは、始めさせていただきます。まず、あなたの会社が開発したこの高効率な水力発電システムについて、リスナーの皆さまにわかりやすく説明していただけますか?
出力
相手はChatGPTなのですから、何度でもやり直せます。状況を設定することも可能です。例えば、関西弁で回答するように指示すると、関西弁で回答してくれます。
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プロンプト
あなたは、上記の山田修一社長です。 私がインタビュアーとして、質問するので、 山田修一社長として回答してください。ただし、あなたは関西弁で回答して下さい。
それでは、始めさせていただきます。まず、あなたの会社が開発したこの高効率な水力発電システムについて、リスナーの皆さまにわかりやすく説明していただけますか?
他にも、偉そうに話すとか不機嫌そうといったプロンプトも有効です。ただし、基本的には文体が変わるだけで、言っている内容はほとんど同じになるケースもあります。とは言え、そのような複数のパターンで練習するうちに、質問内容は口になじんできますし、どんな情報がやり取りされるのかがわかってきます。
実は、このやり取りがさらに取材のクオリティを上げるのに役立ちます。ChatGPTはホームランと言うよりはヒットを打つような回答をしてきます。平均的だったり、合格ラインのような出力をするのです。
取材では、もっと深く突っ込んだ内容を聞きたいところです。ただ、現場で質問し、回答された内容がヒットなのかどうか判断するにはスキルや知識が必要になります。話している内容に対して理解が足りないと、回答を受け入れ、次の質問に移ってしまうことでしょう。
しかし、ChatGPTとやり取りしていれば、特に情報がなくても語れる内容をあらかじめ把握できます。それがわかっていれば、すぐに追加の質問ができるでしょう。例えば、技術的に困難だった課題を聞くと、ChatGPTは400文字の回答を出力しました。
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出力
さすがChatGPT、圧倒的に情報が不足している状況でも平均的な回答をしてくれました。しかし、実際にはこの回答は具体的な情報をほとんど提示していません。
タービンはどんな形状をしているのか、以前とどう変わったのか。材質は何で、どんな性質を持っているのか。配置はどう変更したのか。繰り返した実験は何回か、何年か、コストはどのくらいかかったのか。多くの電力的には数値としてはどのくらいかなど、突っ込みどころはいくつもあります。
これらを事前に考えておくことで、スムーズに取材を進めながらも、聞くべき情報を聞き出すことができるようになります。インタビューの事前準備にはChatGPTが大いに役立ってくれます。質問の設定から想定練習まで、しっかり準備するほど、取材現場で余裕が生まれ、いいインタビューができることでしょう。
ちなみに、筆者はアイスブレイクやジョークが苦手です。どうにかインタビュー時に盛り上がるようなアイスブレイクやジョークを生成しようとさまざまなプロンプトを試していますが、まだ使える回答を得られていません。今後も試行錯誤を続けていこうと思います。