ChatGPTとは、チャットに文章を打ち込むとAIが自然な文章で返してくれるサービスです。ざっくり言えば、かなり人間に近い自然さを持つAIと、まるで友人とLINEするようにやり取りできます。例えば、「今日の夕食は何が良いかなぁ」「東京のおすすめ観光スポットはどこ?」といった何気ないやり取りが可能です。
また、小説や論文、プログラムを書いてもらったり、英文の添削をしてもらったりすることもできます。「専属のAI家庭教師がついてくれた」と捉えても良いでしょう。
加熱するChatGPTブーム
ChatGPTは人工知能研究所OpenAIによって開発され、2022年11月30日にリリースされると、そのユーザー数はわずか2カ月で1億人に達しました。100万人ユーザーを獲得するのにFacebookが10カ月かかったのに対して、ChatGPTは5日しかかかっておらず、爆発的な広がりを見せていることがわかります。
また、ChatGPT関連のニュースは日々飛び交っており、挙げればキリがないほどです。YoutubeやAbemaなど、さまざまなチャネルでも取り上げられています。以下はほんの一例ですが、ChatGPTを活用したサービスの提供や、ChatGPTを超えるような競合サービスの提供など、まさにレッドオーシャンの領域になっていると言えるのではないでしょうか。
- Microsoft、Azure OpenAI Serviceを強化
- Microsoft、AI技術導入した新しい「Bing」と「Edge」を公開
- Microsoft Teams Premiumの開始によって一部の無料機能が有料に
- 米Microsoft、「ChatGPT」のOpenAIに対して複数年で数十億ドルの追加投資
- GoogleがLaMDA活用の対話型AIサービス「Bard」のテストを開始
- 「ChatGPT」のOpenAI、AI生成文章を判別するツールを公開
- Microsoft、AI活用のBingをiPhoneとAndroidにも提供開始
ChatGPTは驚くほど簡単に使える
細かな説明をする前に、論より証拠ということでまずは使ってみましょう。ChatGPTはブラウザさえあれば、アカウントを登録するのみですぐに使い始められます。スマホからも利用可能で、例えば、筆者のiPhoneのSafariからChatGPTのサイトにログインし、質問をチャットに入力して送信すると、一定程度、確からしそうな情報が返ってきます。
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先生や専門家はもう不要? ChatGPTの「本当の価値」
前節で、ざっくり利用イメージを掴んでいただきました。「質問に答えてくれる優秀なAIなのかな?」と理解された方も多いのではないでしょうか。
実は、ChatGPTの「本当の価値」は、質問に答えてくれるという部分ではありません。ChatGPTは、Googleなどを使ったこれまでの検索の概念を覆すものと捉えることができるのです。
まずは、従来的な検索方法についてまとめた上で、ChatGPTの真価を得られる活用方法を具体的に説明したいと思います。
これまで何か検索したことがある方ならば、少なからず以下のような経験をしているはずです。
- 選択:検索ワードを入力し、検索結果の一覧から良さそうなサイトを選択
- 閲覧:サイトの中で自分が知りたい情報を探す
- 繰り返し探す:1つ目に訪れたサイトでは欲しい情報が得られなかった場合、2つ目、3つ目のサイトを探す
- (場合によっては)諦める:検索したい用語について全く知識がない場合など、結局どういう意味かわからず諦める
多くの場合、1~3の繰り返しで欲しい情報にたどり着きますが、検索に不慣れな方にとっては難しいケースもあります。また、こうした作業自体が面倒であることから、検索するのではなく誰かに聞いてしまいたい、というニーズはこれまでもありました。
実は、ChatGPTを使うと、以下のようなことが可能になります。
- 質問:質問すると、一定程度確からしそうな情報が即座に得られる
- さらなる情報検索:何となくざっくり内容を掴んだ上で、検索サイトで改めて情報を探しにいく
つまり、検索だけでなく、「誰かに聞く」という行為の代替となり得るのです。
このように、ChatGPTでは簡単・便利に情報を得られることから、今非常に注目が集まっています。実際、OpenAIのCEO Sam Altman氏によると、ChatGPTの良さは、「素晴らしいユーザー体験」とのことです。
GoogleはCode Red(非常事態)を宣言したと言われており、ChatGPTが提供する新たなユーザー体験は、これまでの検索サービスの地位を揺るがす可能性がある存在だと認識されていることが伺えます。
ちなみに、検索の代替として使えるだけではなく、小説を書いてもらったり歌詞を作ってもらったりとさまざまな体験も得られます。さらには、スペルミスや正しい表現を教えてくれる“英語の先生”としても活用可能です。
ChatGPTの動作原理
エンジニアの読者の皆さまは、そろそろ仕組み面も気になっていることでしょう。
ChatGPTは、GPT-3.5をベースとした大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)系の技術です。教師あり学習と強化学習をベースに転移学習されています。
- 教師あり学習:英語や日本語など各種言語の文章を大量に学習し、人間の感性に即したチューニングを加えることで、さまざまな質問に応じた自然な文章をつくることができます。
- 強化学習:人間のフィードバックを基にモデルを改善することができます(RLHF: Reinforcement Learning from Human Feedback)。
- 転移学習:ある領域で学習したことを他の領域に転用させます。
中核を成すGPT-3.5はざっくり言えば、GPT-3の改善型のモデル群です。
- GPT-3:2020年7月にOpen AIが発表した汎用的な大規模言語モデル。45TBの膨大なテキストデータに対して前処理を行った570GBのデータセットを学習に使用。このデータセットに対し、1750億個のパラメータを持つ自己回帰型の(次の単語を予測する)モデルを学習することで高い精度を誇る。
- InstructGPT:GPT-3をベースに対話に適した言語モデル。2022年3月にOpen AIが「Training language models to follow instructions with human feedback」という論文で発表。GTP-3に対して人間によるフィードバックを加えることなどにより、人間の感性に合うようなモデルに改善している。
- GPT-3.5:ChatGPTがベースとしているInstructGPTを含むモデル群
自然言語処理関連の技術トレンドや仕組みをより深く知りたい方は、2017年にGoogleが発表した「Attention Is All You Need」を中心にTransform,Attention,Encoderなどの技術を追いかけてみると良いでしょう。わずか5、6年の間に学術的にも驚くべき進化を遂げていることを実感できるはずです。
ChatGPTの類似サービス/関連サービス
ChatGPTは唯一無二のサービスなのでしょうか? 以下に、ChatGPTに類似、もしくは関係のあるサービスを紹介します。
◆新たな検索のかたち
- 根拠の提示:「Perplexity.ai」は、ChatGPT同様、チャットで質問すると回答を返してくれますが、引用元の記事などを明示してくれるのが特徴です。WEB上の記事やPDFを基にした回答を瞬時に返し、参照URLも併せて提示します。
- 従来の検索との統合:新しいBingは、従来からあるMicrosoftの検索サイト「Bing」に、ChatGPTをさらに発展させたチャット機能などを追加したものです。Microsoft Edge ブラウザからだけではなく、「Microsoft Bing Search」と呼ばれるアプリ版も提供されています。ChatGPTと同様の機能はもちろんですが、「検索した文書の要約」や「質問すべき内容の提案」、上述した「根拠の提示」を統合的に利用できます。検索を超えた新しい知識獲得の手段が提供される、と捉えると良いでしょう。
◆新たな開発スタイル
- コード生成:「GitHub Copilot」は、AIを活用したコーディングツールです。コメントや関数名からコードを生成してくれるのみならず、コードを書いている際に常に補完候補を予測して表示します。
- テストリファクタリングなど:「Refraction」は、ソースコードをインプットに、ユニットテストのテストコード生成や、リファクタリング、ドキュメント生成、バグの検出などを実施してくれるツールです。ChatGPTの開発元であるOpenAIのAIモデルが採用されていることも特徴です。
今後、ChatGPTを超えるツールが登場したり、ChatGPTと補完関係でツールを併用するような利用方法も出てくるかもしれません。
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今回は、ChatGPTの概要を動作イメージ、活用シーンなどを交えて一通り説明しました。 AI技術そのものの先進性もさることながら、これだけ高い性能のAIを公開し、チャットをインタフェースにして簡単に使えるようにしたことが特筆すべき点です。これが、エンジニア界隈のみならず、YoutubeやAbemaなどのチャネルを介して、広い層に注目されるようになった要因なのではないでしょうか。
次回以降、ChatGPTの具体的な使い方やアーキテクチャなど、より詳細な内容を一歩踏み込んで紹介します。お楽しみに!