今回のテーマは確定申告である。
前に同じ話をしたような気がするのだが、バックナンバーを見てみるとやっぱりしていた。
同じ話を何度もするのは、加齢による恍惚の人化が進むとよくあることだが、テーマを出しているのはアラサーの担当だ。私に負けず劣らずの恍惚状態と見える。これは前と全く同じ原稿を出しても通ってしまうのではないか、ワンチャンやる価値があると思った。もしとがめられたら「恍惚としてました」と言い訳すればいいことである。
しかし残念なことに、その後どうやら担当は全くの正気で、同じテーマを使って内容の違うコラムをもう1回書けという、ただ単に無茶を言っているだけということが判明した。
確定申告という年中行事
確定申告は毎年するものだが、当方に限って言えば、手続きする内容に大差は無い。今年もありがたいことに収入が激減することもなかった一方で、もちろん激増することもなかった。
私にとって、確定申告とは「今年もブレイクしなかった」と重々肌で感じていることを、数字の上でも知らしめてくれる行事といえる。毎年それを念入りに確認することにより、「もうどの角度から見ても売れていない」という清々しい気持ちで新年度へ踏み出せるのである。
コラムのタイトルにもなっているように、私は会社員との兼業漫画家なので、年末調整は会社でして、また確定申告もするというスタイルである。そんな漫画家に限らず、副業持ちの会社員を震撼させたのが「マイナンバー制度」である。出所はよくわからないが、「マイナンバー制度で、副業が会社にバレるらしいぞ」という噂がまことしやかにささやかれ、当方も例に漏れず西野カナのように震えた。
はっきり言って私は情報弱者である。背中に「情弱」というタトゥーを入れたいぐらいなのだが、画数が多くて痛そうなのでシンプルに「バカ」と彫りたいと思う。つまりバカなので、ソース不明の「マイナンバーで副業がバレるよ」という情報には大いにビビった口である。
もし、会社に作家活動がバレたらどうなるか。おそらく会社を辞めることになるだろう。「規則違反による懲戒」とかではなく、ただただ「恥ずかしくてそこにいられない」からだ。
会社での私は、とにかく陰気でみすぼらしい女である。話しかけられない限りは言葉を発しないし、話しかけられることもほぼない。もう6年ぐらい同じ会社に勤めているが、本当に誰とも仲良くないし、逆にそうだからこそ、今までバレなかったとも言える。
そんな女が、裏では下ネタしかない漫画や、こういった過激(なことを言っている風で実は誰よりも炎上を恐れている)コラムを書いているということが知れた日には、『会社では頼れる上司、家庭では素敵なパパだが、服の下には女性用下着の上下にガーターベルトを装着している人』と同じように、「法には触れてないが、とにかく気持ち悪い」という感想しか持たれないと思う。
こちらも、会社の人間が見ているかもしれないと思ったら、今まで通りに創作することはできないだろう。下ネタなどもってのほかで、「窓の外では小鳥がさえずっている」「世界は希望に満ちている」など、下ネタよりも気持ち悪いことしか描けなくなってしまうのだ。
このように、マイナンバー制度に対しては非常に恐怖したのだが、結論から言うと、今まで通りちゃんと確定申告していれば、よほどのことがない限りバレない、ということらしい。
もちろん、確定申告でバレなくても、いつ何がきっかけでバレるかわからないが、もし当コラムのテーマが「ガーデニング」とか「ヨガ」になったら、「バレたな」と思ってもらえれば幸いだ。
印税生活、その夢と現実
結局、今年も微々たる収入を申告するだけで変わりは特にない。
だが、「売れていないと言っても本を出しているのだから、実は印税で儲かっているんじゃないか」と思う人がいるかもしれない。いまだに本を出している作家=印税生活というイメージは強く、大して儲かってもいないのに、他人に「印税生活なんでしょ?」と言われて辟易しているという作家の話はよく聞く
私もそのようなことを他人からよく言われる、と言いたいが、驚くほど言われない。見るからに金の臭いゼロな上に、普通に臭いため誰も寄ってこないのである。
もう色んなところで言われているが、印税収入というのは、売れている作家とそうじゃない作家とでは雲泥の差だ。ヒット作家の本の帯には「100万部突破!」とか景気のいいことが書かれるが、私程度の作家だと、コミックスの初版発行部数(発売タイミングで刷った本の冊数)は余裕で1万部を切ることもあるし、その初版の数も、巻数が増えるごとに減る。1巻は希望的観測が入った数字だったのが、実際の売れ行きを見て2巻では現実を見た数値になり、さらに3巻は…と徐々に下り坂の様相を呈するのだ。
そうすると、コミックス発売によってもらえる金額は、最終的には2~30万ぐらいになってしまうし、もっと少ないこともある。もちろん大金だが印税生活には程遠いし、本が出せるほどのページ数がたまっても、単行本化されないことすらある。
もちろん、本がヒットすれば出版社は初版部数よりたくさん売るために「重版」する。作家は新しく刷られた部数に応じてまた印税がもらえるわけだが、私の本はマジで重版しないため、初版の印税をもらったきりになるケースが非常に多い。
昨年出版したコラム集「負ける技術」に関しては珍しく重版がかかり、先日4回目の重版(5刷)が決まった。読者においては「カレー沢、ついに印税生活か」と思われるかもしれない。確かに「5刷!」と言えば聞こえがいい。だが、この重版というのが非常に小刻みなのである。具体的な数字は伏せるが、実情は100万巻を1冊ずつ出している漫画の単行本が、「【累計】発行部数100万部!」と吹かしているのに近い。
だったらもう、初版発行部数が1冊の本を1000回重版して「1000刷突破!」とした方がいいんじゃないだろうか。きっと、私のような、背中に「バカ」とタトゥーの入った情弱が買うはずである。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。連載作品「やわらかい。課長起田総司」単行本は1~2巻まで発売中。10月15日にエッセイ「負ける技術」文庫版を発売した。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年2月9日(火)掲載予定です。