今回のテーマは「デジタルヘルスケア」だ。
デジタルヘルスケア
ICTやその他の先端技術を活用しながら、ヘルスケアの新製品・サービスを生み出すこと。明確な定義はないが、米国FDAによると、デジタルヘルスはスマートフォン、SNSやインターネットアプリケーションなどの技術によって、患者や消費者が健康や健康関連の活動をより管理・追跡しやすくするものであり、人・情報・技術およびコネクティビティが融合することで、医療と健康成果を向上させるものとされている。。(富士通総研「デジタルヘルス時代における大企業とスタートアップの関係性」より)
解説の時点で「明確な定義はない」と言い切ってしまっている通り、かなり漠然とした言葉だが、簡単に言ってしまえば「ハイテクデジタル機器を使って健康になろう」ということである。
デジタルヘルスケアは、リハビリ機材のデジタル化や手術用ロボットなど、医療現場で使われる業務用と、我々のような一般向けに分類される。
後者に関して、おそらくすでに多くの「健康管理」や「ダイエット支援」などの一般向けデジタルヘルスケアアプリが、スマートフォンなどに向けて配信されていることだろう。
おそらく、と言ったのは、自分はそのようなアプリをインストールしたことがないし調べたことすらないからだ。もしかしたらデフォルトでそのような機能がスマホに搭載されているのかもしれないが、いまだかつて起動させたことがない。
私があと10歳若かったら、そのようなアプリをインストールしただけで、体重が一桁になり、腹筋が47個に割れ、声が大塚明夫になるに違いないと思い込み、大量にアプリをインストールしたと思う。だが、30を過ぎたあたりから、自分に対する物分かりが良くなりすぎてしまい、そんなアプリを入れたところで、自分はそのアプリの指示を無視するのはもちろん、三日で起動すらさせなくなるに決まっており、無駄にスマホの容量を食われて、ディスプレイのアイコンがガチャつくだけとわかりきっている。だから、最初から触れようともしないのだ。
中には、イケボ声優を起用したイケメンキャラがダイエットをサポートしてくれる、というような「俺たち向け」なアプリもあるようだが、それですら指一本触れなかったので、相当「やらない自信」がある。
つまり、「インストールしただけで腹筋が47分割になって大塚明夫になる」デジタルヘルスケアアプリが開発されたら起こしてくれ、という話なのだが、私より己を律している人や、自分に対して諦めが全然つかない、と言う人は、デジタルヘルスケア機能を使いこなしているか、とりあえずインストールだけはしているのではないだろうか。
Apple Watchと人間の性
そんな一般向けデジタルヘルスケア機器の中でも、その面に特に特化しているのが「Apple Watch」だと言う。
「Apple Watch」とはその名の通り、Appleの時計型のハイテク通信機器だが「話題になった割にはそんなに持っている奴はいない」という印象だろう。しかし、何故かうちにある。
夫が「誕生日プレゼントはApple Watchがいい」と言い出したのだ。脊髄反射で「なんのために?」と言いかけたが、本人が欲しいと言うなら深くは聞くまい、とOKしたら5万円もした。
というわけで、うちには私が5万も払った、私のじゃない「Apple Watch」があるのだが、私のじゃないので、どのような機能があるのかまったく知らない。
私があと25歳若かったら、他人の物でも目新しい機器が我が家に来れば、「拙者にも触らせて」と奪わんばかりに飛びついただろう。しかし「Apple Watch」に対しては徹頭徹尾「5万払った」しかしていない。むしろ「新しい機器の使い方なんて覚えるのが面倒くさいし、どうせ理解できないから触りたくない」と思っている。
このように、自分に対して絶望しすぎなところが、まずヘルスに悪い気がするが、せっかくなので、「Apple Watch」にどのような機能があるか調べてみた。
・屋内と屋外のワークアウトはもちろん、高強度のインターバルトレーニングも記録できる
・ワンタップで、Apple Watchを通っているジムにある対応するフィットネスマシンとワイヤレスでペアリングできる
・一日のあらゆるアクティビティと同じように、ワークアウトも、ムーブ、エクササイズ、スタンドのリングを完成させるためのデータとしてカウントされる。
(Apple Webサイトより)
結局「やっぱりAppleはしゃらくせえ、俺は一生ウインドウズとアンドロイドしか使わねえ」という決意を新たにするにしかならなかったが「究極のスポーツウオッチ」と謳うように、運動する人には相当便利なウオッチのようだ。
しかし、夫がApple Watchを使って、ワークアウトをペアリングかつリングしてカウントしている姿は見たことがない。
デジタルヘルスケアがどれだけ進化しようと、結局「使う人間次第」なところは、アナログ時代から何も変わっていない。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年4月3日(火)掲載予定です。