今回のテーマは「Society5.0」だ。

あの政策と「選ばれし弊社」

前回「Industrie4.0」をやってしまったおかげで、凄まじい二番煎じ感、あるいはバッタ物感がでてしまっているが、実際やろうとしていることは「Industrie4.0」とそう大差はないらしい。

そして、その「Society5.0」を打ち出しているのは他でもない、我が国日本である。私が公園の土管で暮らしている情弱だから知らなかったのかもしれないが、この「Society5.0」をみんな知っているのであろうか?

政府が打ち出した政策としては、「褒めている人を見たことがない」でお馴染みの「プレミアムフライデー」の方が、よほど周知されている気がする。

私がニュースから得た情報によると、プレミアムフライデーが実施されている企業は全国で「130社ぐらい」らしい(編集注:2月末の初回プレミアムフライデー時点の数値。直近(4月)の公式発表では330社となっている)。日本にどのくらいの企業があるか知らないが、さすがに合計131社とかではないと思う。そうだとしたら、弊社は残された最後の一社ということになってしまう。さすが弊社、選ばれし弊社だ。

「いや、弊社も選ばれし伝説の弊社だ」という方はおそらくたくさんいるだろう。何が言いたいかと言うと、プレミアムフライデーが実施されている企業は本当にごくわずかで、それも都会に集中しており、今のところ地方にはまったく無関係な政策となっているのが実情だ。

つまり、どちらかというとまだ「Society5.0」の方が我々地方民にも関係あるし、成功した方がいいのも多分こちらだろう。なのに知らなかったというのは、ヤバイ話である。土管から首だけ出して、自分にまったく無関係なプレミアムフライデーに文句を言っている場合ではない。

「超スマート社会」のノンスマートさ

それで「Society5.0」だが「第5期科学技術基本計画」で盛り込まれた取り組みらしい。まず、科学技術基本計画というものがすでに4期まで行われていたことに驚きである。ちなみにモーニング娘。は今9期で、ロードは13章まである。物事というのは知られていようがいまいが進んでいくものなのだ。

そして「超スマート社会の実現」が「Society5.0」の目的だ。「超スマート社会」、いい言葉だ。言えば言うほどスマートさから遠ざかるのがいい。

しかし、笑ってはいけない。プロジェクトというのは、何でも最初は「そんなの無理だ」と頭の固い連中に笑われるものなのだ。その逆風に負けず、成し遂げた人がいてくれたからこそ、今の社会があるのだ。

そういう人間が皆無だったら、私は今土管どころか、自分の手で掘った深さ10センチくらいの穴に暮らしていることになるだろう。前も似たようなことを言ったが、頭の良い人が食いこぼした、信玄餅のきなこを舐めて暮らすだけの人生である。

おそらく「超スマート社会」が実現したら、その超スマートのカスを拾って暮らすはずなのだ。それなら、超スマートが超であればあるほど、そのカスだってよりスマートになるはずだ。だったら、でき得る限りスマートになってもらうしかない。

言えば言うほど、スマートから遠ざかるどころか、IQまで下がってくるので、スマートのことは一旦置いておく。

では具体的に「Society5.0」がどんな政策かというとやはり「IoT!IoT!」らしい。すべてをネットにつなぎ、デジタル化することにより、コスト削減、効率化というわけだ。この話はもう何万回もしているし「お前もか!」と言う気がするが、今世界規模でそういう流れなのだから仕方がない。むしろ「我が国はそれに抵抗します」、と言われるほうがヤバイ。

そして「Society5.0」では、超スマート社会を実現するための11のシステム(※内閣府資料「超スマート社会の姿と 超スマート社会に向けた取組について」より)、というのを打ち出しているのだが、その中に、目に付くものがあった。

「おもてなしシステム」

出た、日本政府の謎の「おもてなし推し」である。推し過ぎてすでにムカつかれているというのに、さらに推してくるという初志貫徹ぶり、気に入った。そしてここにも「IoT」が使われるらしい。IoTとおもてなし、周囲に推している人を見かけないのに、徹底的に推されている空気がよく似ている。

さっき言ったプレミアムフライデーしかり、用語というのはスマートじゃなければないほど人の興味を引けるような気がする。だったら「Society5.0」という名前は失敗なのではないか。「イケてるファイヴ」とかにした方が良くないか。

すでに興味は半減したが「おもてなしシステム」は、「訪日客が持ち合わせる文化・習慣を理解し、イベント・観光における感動共有を、日本のどこでも提供」するものらしい。例えば「初対面の相手にはローリングソバットを食らわす」という文化の客が来たらおもてなし班全体でその情報を共有し、その客がゲートをくぐった瞬間から全員で回し蹴っていくというわけだ、これには来日客も「こいつら、わかってる」と、感動だろう。

またこのシステムに使われるらしい技術には、IoTのほか「3次元映像等による超臨場感コミュニケーション、AI・ビッグデータ解析、・情報サイバーセキュリティ」など、どうも前にこのコラムで出くわした言葉が大集結している。

しかし、こういう最先端なものを喜ぶ客もいるとは思うが、服屋の店員に話しかけられただけで購買意欲が失せるような、出先で自分の存在を認知してほしくないタイプもいるのだ。それに相手があんまり自分の情報を知っていると「なんで知ってんだ」と逆に怖い。

ビッグデータやらで客の情報を共有するなら、「こいつには歓迎されると引く、逆に距離をとれ」などの情報も共有してほしいものである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年5月30日(火)掲載予定です。